03.甘い夢は、爆発で終わる
A sweet reward ends in an explosion.
胸にジュンキチの顔を埋めたまま、
透子は独り言のように呟く。
「寂しそうにしてたから、
会いにきちゃったの?」
返事は、すぐには返ってこなかった。
「ごめんね……
心配、かけちゃったのかな……」
透子は愛おしそうに、
彼の頭をゆっくりと撫で続ける。
指先が髪を梳くたび、
彼の身体が、わずかに力を抜いていくのが分かった。
「……」
ジュンキチの肩が、かすかに震える。
「……透子さん」
声が、低い。
喉の奥で抑え込んだみたいな響き。
「純吉が、喜んでる」
その言葉の意味を、
透子は深く考えなかった。
夢だから。
そういうものだと、受け止めてしまった。
「……そう」
もう一度、
今度は少しだけ時間をかけて、
頭を撫でてから頬擦りをする。
頬に伝わる体温。
吐息が、首元に触れる。
「……あたたかい……」
胸の奥が、じんわりと緩んだ。
すると、耳元で、
少し困ったような声が落ちてくる。
「……もっと、してやってほしい」
「……?」
意味が分からず、
透子は小さく首を傾げる。
生前の純吉は、
こういうことをされるのが、あまり得意じゃなかった。
年下扱いみたいだって、
照れた顔で、すぐ距離を取ってしまう人だった。
――でも、今は違う。
年齢も、時間も、
あの頃から、ずいぶん離れてしまった。
だからきっと、
これは私のほうだ。
誰かに、必要とされたい。
包んで、離れずにいてほしい。
そう思った瞬間、
拒む理由も、止める理由も、
静かに溶けていった。
「……いいよ」
透子は、もう一度、
今度は逃げ場を塞ぐみたいに、
彼の背中に腕を回して抱きしめる。
胸元に押し付けられた彼の額が、
小さく擦れて、
甘えるみたいに動いた。
「だから、ずっと……」
胸の奥で何かがきしんで、
透子は、思わず指に力を込めた。
「側に、いて…」
声が、少しだけ震れる。
「……置いて、いかないで」
その言葉に、
ジュンキチの身体が、ぴたりと固まった。
――その瞬間、
透子は気づかなかった。
ジュンキチの視線が、
透子ではなく、
その背後を見ていたことに。
「……透子さん」
声の調子が、変わる。
「少しだけ、
動かないで」
「え」
問い返すより先に、
空気が、チリッと電気を帯びて歪む。
次の瞬間、
視界の端をかすめるように、
青白い光が横一線に走った。
光は、
ジュンキチの伸ばした腕の直前で不自然に軌道を変え、
ノイズを散らしながら横へと弾かれた。
細い線となったそれが、
ベンチや街路樹を一直線に焼き切る。
夢の感触は、
そこで断ち切られた。
「……なに……?」
声が、遅れて出る。
その言葉より早く、
ジュンキチが透子の身体を強く引き寄せた。
「透子さん。狙われてる」
耳元で囁かれた声は、
異様なほど落ち着いていた。
木の焦げる匂いと、
金属が熱で歪む音が、
体の奥に染み込んでいく。
心臓が、沈む。
指先の血が引いていく。
ーーこれ、現実だ。
「……ねえ、透子さん」
ジュンキチは、
透子の目をまっすぐ見て言う。
「透子さんの家に、行ってもいい?」
「……え」
次の瞬間、
その一音を残して
二人の姿は消えていた。
焼け焦げた地面と、
裂けたベンチだけが残る夜の公園で、
何事もなかったかのように、
風が吹いた。




