02.あなたは、解像度の低い夢
He shows her a blurred dream — despite being rendered in perfect detail.
“ジュンキチ”は、街を観察するように歩いていた。
看板、信号、ショーウィンドウ。
視線は忙しく動いているが、落ち着きがないわけではない。
「透子さん。あれは?」
指差すというより、確認するような声音だった。
「雑貨屋さん」
「なるほど……陳列することで、資産を誇示しているのか」
納得したように頷く。
感心しているのは分かるけれど、視点が、ほんの少しずれている。
同じ顔。
同じ声。
なのに、微妙なところが噛み合わない。
ーーこれは、夢だ。
そう考えると、説明がついた。
輪郭は合っているのに、細部が少しだけ違う。
必要なところだけを拾って、他を省いたような感覚。
「透子さん」
少し間を置いて、また声がかかる。
視線の先には、焼きたてメロンパンの店があった。
「……食べたいの?」
「……合ってるけど」
言い切らない。
言葉の途中で、こちらを見る。
彼には、許可を待つ癖があるのか
欲求はあるのに、自分で決めようとしない。
ジュンキチは、透子からパンを受け取ると
ひと口齧りして目を輝かせる。
「ほれがじゅんきひのすひはは……」
「……お話しするのは、ゆっくり噛んで食べてから。ね?」
その言葉に、彼の動きが、ぴたりと止まった。
「……? どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。透子さん」
しばらく様子を見て、透子は内心で思う。
――再現度が、低い。
歩く時の歩幅も、
紙袋を持つ手も、食べ方も、少し雑。
生前の純吉は、もっとゆっくり噛んで、
食べ終わってから微笑んで、感想を伝えてくれていた。
けれど、ここで状況の詳しい説明を求めたら、
夢から覚めて、現実に戻ってしまいそうで
結局、何も聞けずにいる。
しばらく歩くと、ジュンキチが迷いなく立ち止まった。
「透子さん」
花屋の前だった。
小さな花束に、視線が吸い寄せられている。
「これは、純吉が“透子さんが喜ぶ”と」
花を手に取る動作に、ためらいはない。
「だから、これを渡すべきだと判断した」
「……待っ」
止めるより早く、店主の声が飛ぶ。
「お客さん、お金――」
ジュンキチは、花を持ったまま、動きを止めた。
「……工程が、抜けている」
「抜けてる?」
花束を見つめたまま、ジュンキチは考え込む。
透子はそのあとすぐに財布を出し、店主に頭を下げた。
「支払う、という行為だ。
何も考えずにしている動作は、記憶が薄く、再現が難しい」
ジュンキチは、花を差し出して
「透子さん。すまない」
一拍置いて、透子に微笑む
「……これを渡したら、
嫌がられずに触れてもらえると思った」
それは、
生前の純吉が"言わなかった言葉"だった。
花を受け取った瞬間、胸が締めつけられる。
……ああ、間違いない。
これは、寂しい私が見ている夢だ。
再現度が低いのは、彼のせいじゃない。
私が、
ちゃんと、思い出せなくなってきているから。
「…透子さん?」
透子は、ためらいなく一歩踏み出し、
ジュンキチを抱きしめた。
「……どうして、夢に出てきちゃったんだろうね」
ここまでにしなくちゃ。
戻れなくなる前に。
そう思いながら、
透子は腕に、ほんの少しだけ力を込めた。




