― 沈黙 - 生意気妹が大嫌いだったのに、階段落ち事件で一生の絆
「ナターシャ。間違っているわ。貴方間違っている」
「私は間違っていない。私は王子様と結婚して王妃様になるのよ」
バシっと妹の頬を打った。
何を言っているのだろう。この妹は。頭がおかしくなったのか。
アリアーナ・ファシル令嬢は、黒髪黒目の地味な令嬢だ。
それに比べて母違いの妹ナターシャ・ファシルは金色の髪に青い瞳のとても可愛らしい令嬢である。
アリアーナ17歳。ナターシャ16歳である。
ナターシャは父が酒場の女と浮気をして出来た娘であり、母に隠していた娘を一年前に引き取った。ナターシャの母である酒場の女が再婚するので、追い出されて父を頼ってきたのだ。
母は父に向かって怒り狂いながらも、
「貴方の娘を野垂れ死にさせる訳にはいきません。うちで引き取りましょう」
「すまない。本当に申し訳ない」
父は床に頭を擦り付けて母に謝った。
そしてナターシャが家に来たのだ。
余程、環境の悪い所で育ったのか、マナーも何も解らない酷い妹だった。
「貴方が私のお姉ちゃんなのね。なぁんだ。ちっとも美人じゃない。私の方が美人だわ」
そう言って馬鹿にしてきたので、
「それでもわたくしは貴方の姉なのです。ちゃんと尊敬しなさい」
と厳しく言ったらナターシャは父に泣きついた。
父であるファシル男爵は、
「ナターシャは市井で育ってきたのだ。お前は姉なのだから、きちっと教えてやらねば駄目だろう?」
「生意気です。姉である私に対するマナーがまるでなっていません。勿論、私も教えますけど?」
母であるファシル男爵夫人が、
「貴方。この娘を甘やかすのなら、この娘を追い出します。そもそも、うちで引き取ってあげただけ感謝しなければならないのに、なんです?この態度は。貴方も貴方です。反省したなら、ナターシャを厳しくしつけなさい。でないと追い出します」
ナターシャはにこにこ笑って、
「おばさん。怒ると顔にしわが増えますよ」
「母上と呼びなさい。母上と」
「私のお母さんは再婚したマリーナだけよ。おばさんはおばさんだから」
手に負えなかった。
ナターシャなんて大嫌い。
何でこんな酷い女を妹として一緒に暮らさなければならないの。
ナターシャも貴族の娘になったので、王立学園に通わねばならない。
そこでナターシャは恐れ多い事をやらかした。
この王国のベルディス王太子殿下に近づいたのだ。
それも堂々と。
「ナターシャ・ファシルですっ。王子様がこんな近くで見られるなんてっ」
そう言って、近づこうとした。
ベルディス王太子殿下の傍にいた護衛も兼ねた生徒二人が、ナターシャを取り押さえる。
「王太子殿下に触れる事は許されぬ」
「危害を加えようとしたのか?王立学園の生徒なら、王太子殿下に近づく事は許可なく許されないということを解っているはずだが」
「私、市井で暮らしていたのだから、解らないわ」
首を傾げて王太子殿下を見つめるナターシャ。
その様子を見ていたアリアーナは真っ青になった。
慌ててナターシャの手を引っ張って、
「頭を下げなさい。王太子殿下に行った無礼を詫びなさい」
そしてベルディス王太子殿下に、
「申し訳ございません。礼儀を弁えず。お許し下さい。妹にはきつく言い聞かせますから」
ベルディス王太子は笑って、
「頼もしい側近達のお陰で私は危害を加えられてはいない。気にするな」
金の髪に青い瞳のベルディス王太子殿下は美しかった。
アリアーナは思わず見とれて真っ赤になってしまった。
ベルディス王太子はアリアーナの傍に行って、顔を覗き込み、
「私の顔に何かついているかね?」
「いえ。あまりにもお綺麗な顔なので見とれてしまいました」
「君の名は?」
「アリアーナ・ファシルと申します。ファシル男爵家の娘です」
「覚えておこう」
そう言ってベルディス王太子は背を向けて去って行ってしまった。
ナターシャが喚きたてる。
「お姉ちゃんばかりズルい」
「お姉様でしょう。本当に貴方って礼儀を弁えていないのね。王太子殿下に近づいては駄目よ。いいわね?」
「お姉様だって、見とれていたじゃない?」
だってあまりにも美しくて完璧で。
クラウディーナ様が婚約者だったわよね。アレクト公爵家という名門の。
お二人で共にいる所を見るけれども、自分と比べて月とスッポンだわ。
お似合いのお美しい二人で。
まるで絵画のようと言われていて。
二人とも金の髪に青い瞳のそれはもう美しい王太子殿下と公爵令嬢で。
雲の上の人。
アリアーナはため息をつくのであった。
そんな翌日、図書館で偶然、ベルディス王太子殿下に会ったのだ。
「偶然だね」
そう言って、本を読んでいたアリアーナの傍に近づいてきた。
隣に座って読んでいた本を覗き込んでくる。
アリアーナの胸はドキドキして。
「この本は、我が王国の歴史の本だね。我が王族の最初の王ジェラルドの建国記は本当に面白い。今度、読んでみるといい」
「ジェラルド建国記ですね。読んでみます」
手を握り締められた。
鼓動が跳ね上がる。
「君に興味がある」
「きょ、興味ですか?」
「ああ、とても興味があるよ」
そう言って顎に手を添えられて、顔が近づいて来た。
慌てて胸を両手で押して、
「も、申し訳ございませんっ。わ、私は」
「初心だね。なんて可愛い」
「私なんて、可愛くもなんともっ」
「まぁいい。また、会えたら。今度は唇を頂くよ」
そう言って立ち上がったベルディス王太子。
ふわっと香ったいい香りがなんとも心地よくて。
さすが王族だなぁと見とれていると、見ていたらしい側近の生徒達と共に図書室を出て行ってしまって。
夢のような、そう、まるで夢のような時間。
アリアーナは幸せを感じた。
その様子を妹のナターシャに見られたのだ。
「お姉様ばかりズルい。何で王子様といい感じなのよ。キスしようとしてたじゃない?」
って家に帰って、ズルいズルいと喚かれたのだ。
その事を聞きつけた母ファシル男爵夫人は、
「アリアーナ。王太子殿下と口づけをしようとしていたの?」
「お母様。それは、その‥‥‥図書室で偶然、一緒になって。王太子殿下が顔を近づけて来て」
「アリアーナ。わたくしの目を見なさい。いいこと?王太子殿下に近づいてはいけません。王太子殿下には婚約者であるクラウディーナ・アレクト公爵令嬢様がいるのよ。アレクト公爵家は我が男爵家の派閥のトップって事は解っているわよね」
「解っているわ。ただ、学年が違うからアレクト公爵令嬢様とは顔を合わせた事はないわ。遠目で見る位よ」
「アレクト公爵家に睨まれたら我がファシル男爵家は終わりよ。もし、クラウディーナ様が王妃になった時に、側妃とか妾妃とか認めるという事になったとしても、男爵家の我が家ではそれすら叶わないわ。口づけをしようとしたって、王太子殿下から貴方にしようとしたの?」
「お母様。そ、そうです。いい雰囲気になって」
「単なる火遊びね。貴方はファシル男爵家を継ぐ為に婿を探す必要があります。いい家がないか探しているわ。でも、貴方が王太子殿下と淫らな関係にでもなったとしたら、婿すら見つからないわ。いい事?王太子殿下には近づかない事。我が男爵家の為にもね。それから、ナターシャ。貴方も同様よ」
ナターシャはため息をついて、
「私はこの家を継げないのだから、出来るだけ家柄のいい男を捕まえて、結婚してもらうのよ」
「身分を弁えなさい。貴族の結婚っていうのはね。自由に出来ないの。男爵家に相応しい男性でないと、貴方を貰ってくれないのよ」
ナターシャは渋々、納得したようだった。
アリアーナも納得せざる得なかった。
母の言うとおりである。
下手したらファシル男爵家が終わる。
だから、ベルディス王太子殿下には二度と近づかない。
妹ナターシャも近づけさせない。
心からそう誓った。
それなのに、廊下を歩いていたらベルディス王太子殿下が声をかけてきた。
「偶然だね?アリアーナ」
そう言って手を引っ張られて柱の陰に引き込まれる。
顎に手を添えられ、
「図書室の続きをしよう」
顔を近づけて来た。
口づけをしたら我がファシル男爵家が終わる。
自分の婿も探すことが難しくなる。
王太子殿下の遊び相手。それも淫らな関係の。
そう思ったら思いっきりベルディス王太子殿下を突き飛ばしていた。
慌てて逃げ出す。
追いかけてくるベルディス王太子殿下。
外階段を駆け下りた。
助けてっ。誰か助けてっーーーーーーーー。
階段を降り切って上を見上げたら、ベルディス王太子殿下が踊り場で見下ろしていた。
「逃げるなんて可愛いね。今、そちらへ行くからじっとしているんだよ。でないと家ごと潰してやろう」
男爵家を潰す?王太子殿下の力で?
そう言われたら動けない。
どうしよう。どうしたらいいの?
王太子殿下と口づけをしたら、アレクト公爵家の怒りを買って男爵家が終わる。
このまま逃げたらベルディス王太子殿下の怒りを買って男爵家が潰される。
あああ、どうしたら。
その時、白い手が伸びて、ベルディス王太子を突き飛ばすのが見えた。
「うわっーーーーーーーっ」
悲鳴を上げて、ベルディス王太子が階段を転がり落ちる。
踊り場に立っていたのは一人の令嬢だった。
そう遠目で見たことがあるクラウディーナ・アレクト公爵令嬢。
後から追いかけてきた側近の二人の生徒は、クラウディーナに向かって何か話しかけている。
クラウディーナは青い顔をして、
「王太子殿下が足を滑らせて階段から落ちたのです。すぐに手当てを。急いでっ」
ベルディス王太子殿下は息をしていないようだった。
まるで人形のように手足を投げ出して‥‥‥
呼ばれた王立学園の医者は首を振って、
「亡くなっております」
そう告げた。
クラウディーナはベルディス王太子殿下に縋って、泣き叫んだ。
「ああ、殿下っ。殿下っーーー。なんて事っーーー」
アリアーナは、王立学園の警備員に連れていかれた。
騎士団がやってきて、事の次第を調べるに当たってアリアーナにも話を聞いてきた。
アリアーナは、事情を聞いてきた騎士団員に、
「ベルディス王太子殿下は足を滑らせたのです。私を追いかけて来て」
と答えておいた。
そう、階段の上にいた令嬢。クラウディーナ・アレクト公爵令嬢が突飛ばしただなんて言えなかった。
言ったら今度こそ我が男爵家が潰される。
生きる為にも口をつぐんだ。
家に帰ったらナターシャがアリアーナに向かって、
「私、見たの。クラウディーナ様が王太子殿下を突き飛ばしたのを。お姉様も見たのでしょう?」
「ええ、見たわ。でも言えないじゃない。我が家の為にも」
「そうよねぇ。何で、クラウディーナ様は殺したのかしら?王太子殿下を」
「さぁ‥‥‥」
数日後、アリアーナは、アレクト公爵家に呼ばれた。
クラウディーナは自室にアリアーナを招いた。
アリアーナは呼ばれるだろうなあと思っていたから驚かなかった。
クラウディーナは、自室のソファに座って紅茶を飲んでいる。
アリアーナに自分の目の前のソファに座るように促したので、腰かけた。
目の前には紅茶が置いてある。見た事もない高級な焼き菓子も。
「お座りなさい」
恐る恐る腰をかけると、クラウディーナは、
「わたくしが突飛ばした事を話さなかった貴方はおりこうさんだわ。何で突き飛ばしたかって?あの人、色々な女生徒に手を出していたの。火遊びっていうのかしら。学生の間だけの。だけどね。わたくしはあの人を愛していたから、あの人が、女生徒を口説いて口づけをしているのを見ているだけで傷ついて。王太子殿下は令嬢を口説くだけ口説いて口づけをして、そしてその気にさせて捨てるのよ。それの繰り返し。脅して口止めして。色々な令嬢達が傷ついたわ。わたくしの心もボロボロになった。だから終わりにしたの。あんな人が国王になるなんて、許せない。わたくしはだからあの人を」
そして、にこやかに、
「黙っていてくれて有難う。貴方には良縁を紹介するわ。エルドウ伯爵家の三男あたりがいいかしら。彼は優秀よ。そしてエルドウ伯爵家は我が公爵家には逆らえない。ねぇ?いい縁でしょう。エルドウ伯爵家と繋がる事はファシル男爵家にとっても良い事よ。これがお礼。一生黙っていて頂戴。でないと‥‥‥」
ぞっとした。
でないと?殺される?ファシル男爵家も潰される?
だから、頷いた。
そして、はっきりと、
「クラウディーナ様に忠誠を誓います。一生、黙っております。私で役立つことがありましたらなんなりとおっしゃって下さい」
「貴方の他に、わたくしのやった事を知っている人はいるのかしら?」
妹のナターシャが知っている。
ナターシャがもし、一言でも漏らしたら。
ナターシャを殺す?亡き者にする??
出来なかった。
あんな妹でも妹だ。
ナターシャを売る事なんて出来ない。
死なす事なんて出来ない。
「私の他にはいません」
「そう?それならいいわ。お菓子を食べていって頂戴。王都の店で特別に取り寄せたのよ」
「有難うございます」
焼き菓子を食べた。
緊張しすぎて味がまったく解らなかった。
ファシル男爵家に戻った。
両親に心配された。
「大丈夫よ。何でもないわ。ああ、私に良縁を紹介してくれるって。エルドウ伯爵家の息子さんみたいよ」
父も驚いたように、
「エルドウ伯爵家の?あそこの息子達は皆、優秀だ。歳からいったら三男のカイルあたりか?」
母は抱き締めてくれて、
「何があったか言わなくていいわ。きっとアレクト公爵家にとってまずい秘密を貴方は握ったのね」
ナターシャが喚いた。
「ズルいズルい。いくら、クラウディーナ様がベルディス王太子殿下を殺したのを目撃したから口封じの為にお姉様に良縁をだなんて。私も素敵な男の人と結婚したいっ。だからクラウディーナ様の家に行くっ」
青くなった。
他に目撃者はいないと言ったのだ。
脅しのような形でナターシャが行ったら、ファシル男爵家はどうなる?
ナターシャの手を両手で握って、
「公爵家は恐ろしいわ。殺されるわよ。ナターシャ」
「何で?お姉様はいい縁を紹介してもらって、私は殺されるの?」
「貴方は口が軽そうだからよ。元平民だから」
ファシル男爵夫人も、
「ナターシャ。見た事は忘れなさい。貴方には貴方に丁度いい縁を探してあげます。ですからアリアーナを羨ましがるのもやめなさい」
「私は元平民よ。いい縁なんてあるはずないじゃない?お姉様ズルい。私だって素敵な人と幸せになりたいっ」
どうしようもない妹。
でも、殺したくはない妹。
「だったら、貴方がこの家を継ぐといいわ。私からもう一度、頭を下げます。クラウディーナ様に。私はクラウディーナ様に仕えることにするわ。貴方がエルドウ伯爵家の息子と結婚すればいい」
ナターシャは目を見開いて、
「お姉様はいいの?」
「貴方を殺したくはない。一歩間違えればこの家は消える。そして貴方は殺される。私はこの男爵家が好きよ。そして貴方も好きよ。だって私の妹なのですもの。たった一人の妹なのですもの」
そう言って抱き締めた。
ナターシャはぽろりと涙を流して、
「お姉様。有難う。私にこの家を継ぐのは無理よ。そして高位貴族の妻になるのも無理。勉強しなきゃね。なんにしろ勉強しなきゃ。お姉様、ごめんなさい」
そう言って、ナターシャは抱き返してくれた。
母もアリアーナとナターシャを抱き締めてくれた。
この家を守りたい。家族を妹を守りたい。
アリアーナの心はそれだけだった。
カイル・エルドウ伯爵令息の事は知っている。
姿だけは。
クラスが違うが、彼は背が高くて黒髪碧眼の美男子なので、目立つのだ。
女生徒達からも人気が高かった。
王立学園に行くと、カイルから声をかけられた。
「今度、正式に婚約を申し込むことになると思う。カイル・エルドウだ」
「アリアーナ・ファシルです。よろしくお願いします」
彼は学業も優秀で、剣技にも優れている美男だ。
男爵家に婿に来るだなんて、本意ではないだろうに。
思わず聞いてみた。
「ファシル男爵家に婿に来るだなんて、本意ではないでしょう??」
「ああ、本意ではないね。私は公爵家に婿に行きたかったから。アレクト公爵家には逆らえないからね」
「そうなんですの」
「ファシル男爵家に恩があると言っていた。どんな恩か聞かない。それに、決まったからには前向きに私は働くよ。男爵家を良くするために。勿論、君と愛し合って結婚したい。君は私の事をどう思う?」
「どう思うって?」
いきなり、言われても。今まで良く知らなかった訳ですし?
「私も前向きに考えたいと思います。愛し合って結婚したいですわ」
「よろしい。では、放課後。さっそくデートをしに行こうか。エスコートは任せてくれ」
そう言ったカイルの笑顔が眩しくて。
新たな恋が始まりそうな予感に、アリアーナは胸がドキドキするのであった。
二人はこの後すぐに婚約を結んだ。
半年の婚約期間を経て、結婚し、優秀な婿を得て、ファシル男爵家の事業は順調に発展した。
更に1年後、可愛い男の子を出産し、抱っこして、ソファに座っていたら、妹ナターシャから手紙が来た。
沢山の出産祝いの品と共に。
男爵家を出て、王宮に勤めているのだ。
猛勉強をして、王立学園を卒業し、王宮に勤められるようになった。
クラウディーナに気に入られて、彼女のメイドをしているとの事。
クラウディーナはベルディス王太子の弟ファルドと結婚して、ファルドが王太子になり、今や王太子妃となっていた。
― 王太子妃様がお姉様によろしくと言っておりました。王太子妃様の出産祝いの品を贈りますね。
そうそう、王太子殿下のお世話をしている同僚のメイドが事故で亡くなったの。本当に物騒な世の中。
一緒に外の空気を吸いに、テラスに出たのに、手すりが腐っていたみたい。彼女が落ちてしまって。私が落ちなくてよかったわ。お姉様。ファシル男爵家の為に私も頑張っています。今度、屋敷にお土産を沢山持って帰りますね -
え?どういう事?手すりが腐っていた?それもメイドだけが亡くなった?
ナターシャが無事でよかったけれども。
それとも、ナターシャが殺した?王太子殿下付きのメイドを?
何で?
恐らくクラウディーナ様の指示?
王太子殿下がメイドに手を出した?
それともメイドが誘惑した?
怒りを買った?
背後から、カイルが傍に来て、手紙を覗き込んで、
「相変わらず、クラウディーナ様は過激だな。君の妹は汚れ役を我が男爵家の為にやってくれているんだね。有難い事だな」
涙が零れる。
何て生きる事は大変な事。特に貴族の家は生き残るのが大変‥‥‥
有難う。ナターシャ。
私は貴方に一生頭が上がらないわ。
雨が降って来た。
窓の外に目をやれば、暗い雨雲が立ち込めていて。
可愛い赤子を抱きながら、愛しい夫と共に窓の外を見つめた。
ああ、生きる事って、本当に大変だわ‥‥‥