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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all.3 1995年 夏 亘編2

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間が近くて契りが薄い4 So Close, Yet So Far

 祖霊舎から離れる時、写真の直樹の視線がこっちを見てる気がした。

「んじゃ、行きますか」

 崇直の声に視線を向けたら、紅緒が崇直の背中に顔を押し付けていた。

「すまん、先に行っててくれ。すぐに……」

 あれは、泣いてるんだ。

 子供の頃、何かあった時、悔しかった時、泣きそうになるとあいつは決まって崇直に甘えてた。

 直樹が居た時は?

 

 崇直が僕に背中を向け、完全に紅緒が見えなくなる。

 紅緒の手が、崇直の首にかかる。

 固く目を閉じ、何も考えない様にして踵を返し、廊下に出て、大きく深呼吸をした。

 直樹が傍にいた時、紅緒はずっと笑ってたんだよな。笑顔だったんだ。

 

「亘くん、外で待ってようか」

 顔を上げたら、廊下の先で田中が親指で勝手口を指していた。

 外に出て、久しぶりなこともあり田中と一緒に境内を見て回る。

 夜中だけど、二人で並んで柏手を打ち、お参りをした。


 玄関先へ戻ったところで、ちょうど崇直が勝手口から出てきた。

「おまた~」

 と暢気に、片手を上げる。 

 スウェットの上下に着替えてやがるよ。いつでも寝れそうな格好だな、それ。

 直樹に成りきるんじゃなかったのかよ、と声を掛けようとしたら。

 社務所の脇。地下の宴会場への入口から、人が出てきた。

 紅緒だ。

「もうちょっと待ってくれ」 

 崇直に声をかけ、紅緒の方へ歩いて行く。

 何持ってんだろう、両手に下げて重そうだな。


「わーちゃん! 助かった」 

 駈け寄ったら、ウソみたいな笑顔を向けられる。

輝爺(てるじい)から適当に持って行けって袋渡されたから、美味しそうなの取って来た」

 そう言って下げてきた紙袋の一つを差し出す。

 こりゃ、結構な重さあるぞ。

「いくつ取って来たんだよ、こんなに飲む気かべー。酔ったって知らねーぞ」

 中を見たら、缶チューハイにカクテルに、ハイボール。あら、缶の結露で袋が破れそうじゃん、このままじゃ。

「いいもん。わーちゃんが心配しなくても適当に酔ったら寝るから」

 どこで寝る気だよ、この酔っ払いは。などと思ってたら崇直もやって来たよ。

「どんだけ呑む気だよ。ほら、底抜ける前に入れ替えないと」

 と、紅緒が下げてる紙袋の今にも抜けそうな底に手をやり、落ちないように袋ごと一緒にその場にしゃがみ込む。

 置いたとたんに破れた底から酒の缶が転がり出た。

 慌てて崇直が缶を止めようと腕を伸ばし、尻もちをつく。

 それが面白くて、紅緒が指さして笑いだした。

「ださ~っ」 

 まだワインが抜けない僕らは、それで楽しくなってしまったのか大笑いしてしまった。


 それから歩いて僕らはマンションへ向かった。

「最上階の、ボタン押せないよ」 

 真っ先に乗り込んだ田中が、何度もボタンを連打する。

 使い方を説明したら、今度はカギを貸せと言ってきた。

「亘くん、さんきゅー」

 さっそくカギを受け取り、ボックスを開き開錠する。

 とたん最上階のボタンが点灯しその他の明かりが消える。

「ヒャッホ―ッ。何これ! カッケーんだけど」

 やれやれ、お酒入ると田中って面白いな。


 部屋に着き、レジ袋三つに分けた酒缶とつまみ類をリビングのテーブルに持って行く。

「ごくろうさん。どーぞ、缶酎ハイ好きなの取って」

 紅緒が取り出しやすいように、袋を広げてくれた。

「わーい、俺これがいい」

 おお、田中それ新作の奴じゃん。

「じゃ、僕はこれでいいかな」

 適当に出したら、レモン果汁割りだった。へぇ、美味そうじゃん。

 崇直が缶を抜き出すのを確認し、紅緒が残りの酒が入ったレジ袋を持ち上げようとする。

「わーちゃん、氷ある?」

「ある、ある」

 袋を下げ、キッチンへ向かう。

「大きなボウルとか、何かない? 氷入れてこれ冷やせば外で飲めるよ」

「! ナイスアイディア。ちょっと待って、良いのがあるんだ」

 キッチンのコンロ下から入れ物代わりに使っていた、大きめの鉢を取り出した。

「わーちゃん、ワインクーラーじゃないこれ。イイのがあるじゃん」

 二人して中身を入れ替える。

 シンクにクーラーを入れ、紅緒が洗い始める。

 僕は冷凍庫から、前に買っていた氷の袋を取り出した。

 氷をクーラーに入れ、缶を中に突っ込む。

 さて、これ持って外で飲み直しかなとリビングを見たら、田中が床に座ってる崇直にしがみついていた。

「直樹ーーーっ」

 はぁ? 田中、大丈夫か。もう酔ったのか。

「何で死んだんだよ、馬鹿野郎ぉっ」

 紅緒が僕の肩を叩いて、僕を引き戻す。

「わーちゃん、先に持って外に出よ、ね」 

 と小声で言う。手にはつまみが入った袋を持っていた。

 僕は頷き、もう一度リビングを見ると崇直と目が合った。

 泣いてるっぽい田中をあやしてる崇直に、静かにしてるよと口に指を当て、紅緒を誘導して外に出た。  

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 ブクマしてくださった方、⭐評価してくださった方、ありがとうございます!

 おかげさまで5月4日付け日間文芸(純文学)で1位になりました(^▽^)/

 

 この下の☆☆☆☆☆を★★★★★に色を変えてやってくださり

 この度はありがとうございました。

 もちろんブクマもお待ちしております。リアクションも励みになります。

 いつもありがとうございます!

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