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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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落花流水の情3 The love that flows with the current.

この回は崇直編ではあまり感じなかった事が、表面化してて自分で書いてておやッと思った回です。

 さすがに週末の池袋駅は人であふれ、ホームに降りたら一瞬で崇直たちを見失ってしまう。

「どうせ地下一階の改札に行くんだから、すぐ見つかるよ」

「待っててくれても良いのに、もうっ」 

 ありゃ、怒ってるよ。ほっぺ膨らましちゃって。


 への字に曲げた口元も可愛くて、見つめてしまった。

「追いかけなきゃ!」

 そーだね。置いて行かれたのが悔しいのかな。


 地下の改札を抜け、また地上に戻って、東口で崇直を捕まえた。

「巻こうたって、そうは行かないよ」 

 肩組んだら、聞こえよがしに舌打ちをされた。

 ったく、おまえは何で僕に冷たいんだよ。


「崇ちゃん」

 とっ捕まえた崇直の前に紅緒が回り込み、手に持った何かを渡している。

「ちょっと早いけどお願い、ね」

 崇直が返事をして、受け取った輪ゴム? を口に咥える。

 後ろ手で髪の毛を束ねた。


「あ!」

 崇直、いやそこに直樹が立っていた。

 僕をチラッと見て、紅緒に笑いかける。

「髪の毛、ハーフアップにしたら直ちゃんになるのよ」

 紅緒が直樹と目線を合わせ、僕に笑顔を向ける。


 一気に時間が巻き戻されたような気がした。


 「二人とも試合の時髪の毛結んでたでしょ、崇ちゃんはチョンマゲ風に頭の上で適当に結んでたけど」  

「直樹は後ろで」

 田中がすかさず答える。

 驚いてるというより、その顔は。 

「毎年恒例なんだよ、これ」

「だって、こうしたら直ちゃんも……」


 親友が戻ってきたからか、田中がいつにも増して嬉しそうだ。

「やっぱ、双子ってすげーな」

「一心同体だからね」

 そう言って笑う崇直はもう、直樹そのものだ。

「うん。直樹が戻ってきたみたいだ」 


 周りの音が、まるで遠くで響いてるようだ。

「喋らなきゃ、直ちゃんだもん」 

 ね、と紅緒が遠くから笑いかけてくる。

 

 直樹が戻ってきたよ。

 幸せそうな顔で直樹と手を繋いで歩く紅緒。

 僕は、何を期待してたんだろう。


「今日は、お前らの誕生日だからな」

 崇直の顔がまともに見られない。

 急いで階段を降り、田中の横へ移動する。

「正確には、オレはてっぺん過ぎに生まれたらしけどね」

 すぐ後ろから直樹が話しかけてきた。

 

 そうなんだよ。崇直と直樹は双子だけど実は生まれた日がズレてる。

「変な双子だよな、お前らは」

 横断歩道を渡り、中央分離帯へ入る。 

「君は、相変わらず変な日本人だよね」

 田中の隣に並び、ヒョイと顔を覗かせてきた。

 その仕草と台詞(せりふ)が懐かしくて、思わず吹き出してしまった。

 

 そうだよ、直樹はいつもそう言って揶揄ってきたっけ。

「だな。僕、まだ日本に来て7年だよ」

「え、そうなの?」 

 あれ、田中知らなかったっけ。

 そこで信号が変わり、分離帯で足止めになる。


 僕、田中、直樹、紅緒。

 横に並んで、正面の信号機を見つめてる。 

「亘は日本人だっていうのに、9歳まで日本を知らなかったんだよ」 

 と、代わりに直樹が話してくれた。

 

 崇直って、そこまで直樹に似てたか。いや、今のは直樹だよな。

 もう分かんないや。

 

「日本人なのに初めて日本に来たって、会った時笑って言ってたよね」

 紅緒の声だけが聞こえる。

「え、君って帰国子女?」

「言ってなかったっけ」

 横を見たら、田中の顔、赤くないか。暑いのかな。

 

「そうは言っても、トータルで10年足らず日本に居るよ」

「日本人は年の数だけ日本に居るんだよ、フツー」 

 今度は背伸びして、田中の上から言ってきた。

「あ、崇直が顔出した」

 そう言うとあからさまに嫌な顔をされる。

 あれは、絶対アホとかバカとか思ってる顔だ。


「はいはい、信号変わるよ~。予約時間もあるからね」

 紅緒の声を合図のように、信号が青に変わる。

 しっかり恋人繋ぎされた手を引いて、崇直が歩き出す。

「さて、行きますか」

 そう言って僕を見た顔は、まぎれもなく崇直だった。

 最後まで読んで頂きありがとうございます。

 我ながら、崇直君がいじらしく感じてしまいました。

 亘にいちいち反応してたんだって、亘視線で書くと気が付いた。

 まぁ、彼には救いの手が用意されてるのでそれで許してもらいます。

 勘の良い読者様には、もう気が付いてるかもですが。


 一言感想お待ちしてます。

 崇直が痛いとか亘のバカとか紅緒はビッチだとか、何でもいいです。

 ⭐も頂けるとラストスパート頑張れます。

 いつも読んで頂き、感謝しております。

 それでは次回まで。

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