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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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落花流水の情2 The love that flows with the current.

 ああ、日が沈んでいくなぁ。

 なんか淋しくなって、隣の崇直と肩を組む。

 今度は崇直も僕の腰に腕を回し、寄り添ってくれた。


「あそこ、小さな星見える?」

 顔を寄せて、崇直の視線を誘導する。

「うん」

「あれ、見えるか?」

 崇直は覚えてるかな、屋上で一緒に星見たこと。

 

 アークトゥルスを指してみた。

「ああ、あのオレンジ色の」

「そうそう」

 覚えてた!

「牛飼い座のアルファ星アークトゥルスで」

 それからな、この星も覚えてるかな。

「あの星」

 頬を寄せて、視線を合わせて星を指さす。

「スピカ……」

 

「おとめ座のね」

 やっぱり。

「覚えてたんだ」

 やっぱり、お前が友達で良かったよ。

 嬉しくて、崇直の肩に頭を押し付けてしまった。


「崇直が居てくれてよかった」

「ああ」

 崇直の手が一瞬、強く僕の腰を掴んだ気がした。

「僕、やっぱり紅緒を諦めたくない」

「知ってたよ」


 バレてたか、そうだよな。

「うん。だと思った」

 崇直は何でもお見通しだ……

「辛いなぁ」


 あーあ。マジ、辛ぇ。すぐそこに居るんだよ。

 何話してんだか、笑い声だけ聞こえるよ。

 そう思って崇直を見たら、なんでそんな顔なんだよ。

「何? 怒ったような顔すんなよ」


「うるさい、アホのくせに」

「またアホって言った! たまには、優しくしてくれよ」

 何で、いつもそうなんだよ。

 

 あームカつく!

 肩でどついたら、どつき返された。

「知るか、この野郎っ」

 くそう、崇直の奴両手をぽっけに突っ込んだ状態で、どついて来やがった。

「転んだって知らねーからな」

 

「アホ亘と違って転びませーん、だ」

 お返ししようとしたら、避けられた。

 僕に向かって舌を出し、走っていく。

 その先に、もう駅が見えていた。


 駅で切符を買っていたら、崇直と田中が同じリクルートスーツを着た、多分同じ司法修習生と思われる集団と何か話をしている。

 先に行け、と言うように崇直が僕に手で合図を送ってきた。


 紅緒と二人、改札を抜けその先で待っていたら、その集団に交じって崇直たちがやってきた。

 田中がこっちに走ってくる。

「ごめんね。同じ班の人間なんだ。来週から本庁へ出頭でさ。挨拶だけだからちょっと待ってて」

 そう言って、また戻っていく。


「崇ちゃんたち、大変そうだね」

「本庁って、何だ?」

「さあ……」 

 紅緒も頭を捻る。 

 

 ごめんごめんと、田中が謝りながらまたやってきた。

「崇直はまだ離してもらえそうにないから、先に行こうか」

 何してんだろう? と見たら、紙に何か書いて渡していた。


 地下のホームに降り、電車を待っていたらうんざりした顔で崇直がやってきた。

「連絡網って、必要なのか?」

「まーね。お前連絡先誰とも交換してないから」

 うわー、崇直君ってばそりゃまずいでしょ。同じ班なんだから。

「なんだよ、ちゃんと交換してきたよ。だったら文句ないだろ」


「偉い、偉い」

 紅緒が背伸びして、崇直の頭に手を伸ばす。

「だろ?」

 そう言って崇直が頭を下げ撫でてもらい、嬉しそうに笑った。

「なんだよ、それ」

 田中がそれを見て、大げさにふてくされる。

「わかったよ。ほら、お前はもっと偉いぞ」

 とおざなりに、崇直が田中の頭を撫でる。

「いらねーよ、おまえのなんか」 


 あはは。仲いいよなぁ。その中に僕は入ってるのかな。

「わーちゃん、電車来たよ」

 紅緒が、そう言って僕の腕を取った。

「座れそうにないね」

 そのまま、僕を引っ張って電車に乗り込む。

 それから、ぞろぞろと人が乗ってきて僕らは追いやられ、崇直たちとは少し離れてしまった。

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