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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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落花流水の情1 The love that flows with the current.

「何かあったのか」

 崇直の肩を掴む手に力が入ってしまう。


「ねーよ」

 肩を揺すられ組んでた腕を、乱暴に(ほど)かれた。 

「そこは安心しろ」

 ふん、と顎を上げ先を歩きだす。


 数歩歩いて、確かめるように後ろを振り返る。

 あっと思って、僕も後ろを見た。


 紅緒が楽しげに大笑いしながら、田中と何か話をしてた。

「適当な男と一緒に飲み歩くようになって、まー爺がキレてさ」

 へ?

 何だよそれ、何もねー訳じゃねーじゃん。


「それで、|シンデレラでアルバイトさせることになったんだ」

「あ」

「おまえさぁ直樹が死んだ後、紅緒と距離取ってたから知らなかっただろ」

「……っ」


 息を吞んだつもりが、なぜか冷たい塊が腹に落ちていく。

 肝が冷えるって、これかもしれない。

 はは、僕ってホント何してたんだろう。

 自分の馬鹿さ加減が、どう繕ったって補いようがないや。

 呆れてものが言えないって、僕の事だわ。

 

 崇直の言う通りだ。

 そーだよ。

 紅緒が進学後、どうしてたのか。

 どうして、文転したのかも。

 知ろうともしなかったよ。

 いつも、遠くから見てるだけだった。


 「わーちゃん」

 急に名前を呼ばれ、僕の心臓が飛び跳ねる。

 マジで心臓に悪いわ、あぁびっくりした。

 僕を呼びながら、紅緒が駆けてきた。


「……何、どうした」

 意を決して振り返ったら、紅緒が真上を指さして聞いてきた。

「あれって、北斗七星だよね」  

 はい? 


 何だよ、そんな事か。まだ心臓が高鳴ってるよ、君って奴は。

 相変わらず、何考えてるか全く予想も付かないな。

 そこが面白くて、目が離せないんだけどね。

 

 自然と顔が緩むな。

 紅緒も微笑んで、「あれあれ」と空を指してる。

 「そうだな。ほら、あれが北斗七星だから」

 目線を合わせるため紅緒の横に立ち頬を近づけたら、紅緒の頬が触れてきた。

「……北斗七星のひしゃくの口、分かる」

「うん」

 そう言いながら、どんどん体を寄せてくる。


 長い事放っておいた僕を、君は昔と変わらず相手をしてくれるんだね。

「先頭の星とその次の星の長さを指で測って、先頭の星から五倍すると……」

「えっと、指で合わせて……」

「星があるでしょ、分かる?」

「あ、あれ?」

「あれが、北極星だ」

「えーっ、あんなに小さかったっけ」


 頬がくっついた状態で、こっちを向くから。

「3等星だからね、暗いよ……」

 僕は星を見てるしかないじゃないか。

 ったく、もう。


「そっか。白鳥座とか、乙姫と彦星分かる?」

 また頬をくっつけて、空を見る。

 ありがとう。でも、もう限界だ。

「ああ……」

 僕は腰を伸ばし、天を仰いだ。


「ベガ(織姫)はもう登ってるんだろうが」

 紅緒が触れるほどそばにいるよ。

「ここからじゃ、位置が悪くて見えないな」

 全天を見たくて、視点を決めたまま体を回した。

 紅緒がそれに合わせて付いてくる。

 ちょっと下を見たら、真似して天を見ているようだ。

「白鳥座とアルタイルはまだ下の方だよ」


「都内に戻ったら見えないか」

 そう言いながら、視線を僕に戻す。

「空もここほど広くないからね」

 家に来れば、いつでも望遠鏡を出して一緒に見れるんだよ。

 何だって、君が望めば僕は叶えるために……

「分かった。ありがとう、わーちゃん」


 お礼を言ったら、あっさり田中の元へと戻っていく。

 なんだよ、それ。

「ナオトせんぱーい。北極星分かったよ」 


 崇直がこっちを見た。

「夏の大三角形が気になったみたいだ」

「は? なんで今頃」

 と呆れたように笑いながら、後ろの二人を見る。

「さぁ、空を見て思い出したんじゃね?」


 崇直も歩きながら、空を見上げる。

「でかいな、北斗七星」

「空って広いんだよ。あの飛行機が飛んでるんだから」

「だな」 

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