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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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恋愛は銘々稼ぎ5 Love finds its way.

 不定期更新になってしまいました。

 いつも早朝から、読んで頂きありがとうございます。

「涙目って、お前もけっこう悲鳴あげてたじゃないか」

 そりゃ怖かったけど、べーもそんな風に見てたのかよ。

 恥ずかしいのと、何か癪に障るのとで二人の間に割って入ってやった。


「へぇ~。笠神ってそうなんだ」

 僕を追いかけてきた田中も、横から顔を突っ込んで崇直を茶化す。

「脅かされたら、声ぐらい出るだろうがっ」

 慌てて、崇直がとりなすが。

「いや、あれ一番怖がってたのは直ちゃんなのよ」


 へ?

 僕も崇直も驚いて、声も出なかった。

 いつも先頭を歩いていた直樹。

 崇直なんか、驚き過ぎて固まってるよ。

「うそ」


 横目でそれを通り越し、紅緒に並ぶ。

「まさか」

「あたしの手握って先頭あるいてたけど、けっこう悲鳴あげてビビってたよ」

 そう言って、僕を見上げて笑った。

 あの、直樹が怖がってたって。


「なんだ、あいつカッコつけてたんだ」

 やっと状況を飲み込んだのか、崇直が歩き出す。

 僕は、そのカッコ付けすらできなかったんだ。

「そうだよ、男の子だったんだよ」

 怖くても、ビビってても、紅緒の手を引いて先頭を歩いてた。

 まさに、男の子だったんだ。

 

 直樹は、いつも正々堂々としてた。

 自分が分が悪くても、間違ってなければ引かなかった。

 いつも矢面に立って、崇直が取りなしてたっけ。


「小学校のお化け屋敷なのに?」

 田中が不思議そうに、聞いてきた。

 まぁ、小学校の出し物と思ったらそう思うよね。

「途中棄権組が出る程度には怖かったんだよ」

「え? 棄権って。途中リタイアできるの?」

「そうそう。誰か泣きだしたら役員が現れて、抜け道から脱出させてた」


「だから1、2年は保護者同伴で入ってた。3年以上は子供同士でも良かったけど」

 紅緒が面白がる田中に、懐かしかったのかお化け屋敷の話をし始めた。

「へぇ~」

「毎年テーマ考えてたよね。基本は花やしきのお化け屋敷だよ」

「本格的じゃん」


「でしょ。直ちゃんってだいたいが、怖いの苦手なのにさ」

「ああ、直樹は方向音痴だけど、先頭歩きたがるっていう向う見ずなとこ、あったな」

「向う見ずって言うけど、アレはただの馬鹿だよ」

 うわぁ、紅緒は故人でも容赦ないな。

 でも、無茶するところは、そうだな。

 崇直と違って、考えずに先に行動するタイプだった。


 あれ、崇直は……

 いつの間にやら、僕らの前を歩いている。

「何つまらなそうな顔してんだよ」

 

 そう声かけたら、偉く驚いた顔をされる。

 ぐるりと首を巡らせ、紅緒と田中が並んで歩いてるのを見て、ため息をつく。

 何で、ため息ついて僕の方を見るんだよ。

 また、アホって言う気か。


「真っ先に刑事裁判が当たって、面食らってんだよ」

 何それ! ()()()()。あ、あれ、なんだっけ。

「刑事裁判って事件とか扱うやつか。ほら、あれ。主文、被告人をうんたらかんたらってやつ」

 そう言うと、崇直が今度は嬉しそうに微笑んだ。

「それそれ。裁判官に付いてやるんだよ、それを。判決文も書かないといけないし、それが成績に響くから絶対手が抜けないし、今から頭痛いわ」


「成績悪いとまずいのか、やっぱり」

 試験通ったからって、終わりじゃないんだね。実地訓練みたいなことするんだな。

 何か、うちの研修先と似てるっちゃあ似てるか。実践即ち実習っていう。


「研修後の就職に響くんだよ。判事や検事もだが、大手事務所も成績の上から欲しがるからな」

 うわーっ、厳しいな。

 それと比べたら、うちは甘々だ。 

 でも裁判官をやるってことはだ。   

「裁判官終わったら次、検事やるんだ」

 カッコいいっ、この野郎。と肩で小突いてやる。

「そーだよ」

 と崇直も押し返してきた。


「一通り全部やるんだな、これが」

 全部って、裁判官も検事も、弁護士も?

 すげぇ、カッコいいなぁ。

 

 ハグして、お前はすごいって言いたいよ。

 でも、崇直はハグ嫌がるんだよなぁ。

 肩ぐらいはイイよな。

 腕を伸ばして、思い切って組んでみた。

「やっぱ凄いわ。司法試験通ったらなんでもなれるんだ」 


「そんなことは無いが」

 振りほどかれるかと思ったけど、イケたじゃん。

「成績次第で、選べるよ」

「やっぱり、おまえは凄いよ。ちゃんと目標持って、それに向かって動いてる」

 そう言うと、崇直は照れてるのか、はにかんだ顔で口元を緩めた。


「亘だって人の繋がりの構造化とか、オレによく分からんがやってるじゃん。博士課程だろ、オレより全然すげーよ」

 え。マジで、言ってるそれ。めちゃくちゃ嬉しいんだけど。


「うん。ありがとう。お前に褒められたら、何て言うか、恥ずかしいな」

 崇直に褒められると、ホントに嬉しいな。

 どうしよう、顔が赤くなりそうだわ。

「それでさ、聞きたいことがあるんだ」


 ん? と崇直が僕の方を向く。

「紅緒って、先輩。平川先輩と何と言うか、で、デートしてるのか」

「あぁ? デートって。ああ、同伴の事か」

 何それ。


 と固まってたら、同伴と呼ばれる営業があることを教えてくれた。

 体よく、先輩に高い飯をおごってもらい、その上で店に呼んで金を落とさせるという、なかなかに美味い営業らしい。

 なんだ、それで紅緒は先輩にお礼を買うとか言ってたのか。

 いやいや、ちょっと待て。

 そんな高級店へ、毎回誰かに連れて行ってもらってるのか。

 

「あいつは平川さんとだけ」

 あ、なるほど。

 樹が言ってた「平川さんは変なことしない」ってそういう事ね。


 え、違うのか。

 崇直がじっと僕の顔を横目で睨んできた。

「おまえ、知らなかっただろ」

「何を」

「大学入試終わってからの、紅緒の行動」

 なにそれ。


「直樹が死んでから、入試に集中して乗り越えたと、思ってたよな」

 そうだよ。入試に集中して、僕らで見れるところは協力して入試対策してたじゃないか。

 違うのか。

 ちゃんと合格したし。


「大学入ったら、新入生歓迎のコンパとか、サークル勧誘の飲み会とか色々あるじゃん」

「まだ新入生は未成年だぞ」

 飲ませたらまずいだろ。それに、学生だぞ。

「そんなん無視して呑ますに決まってるだろうが。あいつは、見た目通り人目を惹くし」

 はぁ? それってどういう意味だよ。まさか、おい。


「何かあったのか」

 まだ僕に隠してることが、知らないことがあるのか。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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