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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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恋愛は銘々稼ぎ2 Love finds its way.

 簡単なあいさつを交わし、樹が作ったハイボールをもらう。

「はい、日向お疲れ」

 そう言って、先輩が乾杯してくれた。

「いただいてまーす」

 それに合わせて、紅緒と樹も一緒にグラスを合わせる。


「わーちゃん、大変だったんだね。トールちゃんから聞いたよ」

 あ、と先輩を見たら、知らん顔でチェイサーのお代わりを樹に注いでもらっていた。

 あの麦茶か。


「事故は仕方ないけど、ミスっちゃったのは自分の責任だから」

「昨日、会えると思ってたから」

 え。昨日は先輩とデートだったんじゃなかったっけ。


「昨日はトールちゃんと食事したけど、ここに来たら即、どっかに行っちゃったのよ」

 と先輩を睨む。

「あ? ああ昨日はね。トラブルで時間が押してて。ゆっくり話もできなかったね」

「そーよ。わーちゃんがトールちゃんと何してるのか聞こうと思ってたのに」

 はい? 何してるかって。

 何か隠れて悪さしてるみたいだな。

 

「でも、今日は来れて、良かった」

 そう言って、嬉しそうに僕を見て笑う。

 それって、僕に会えてうれしいって事?

 思わず顔が緩むじゃないかよ。

 

「あのね、ナオト先輩から連絡があって」

 田中から? 何だそういうことか。

 ちょっと糠喜びだったかな。

 そんな事なら、電話で足りるのに。

 

「明後日の金曜、6時に司法研修所の門前に集合だって」

「あ、崇直の誕生日会か」

 そうそう、と紅緒が笑う。

「わーちゃんの顔見て話したかったから」

 とまた笑う。

「来てくれて良かった」

 その笑顔を見て、僕は先輩に大きな借りができた気がした。


「わーちゃん、僕その日、博代ちゃんと衣装を選びに行かなければいけなくて」

 とすまなそうに樹。

「そりゃ、楽しみだね。順調そうでなによりだ。今度、時間があったらまた一緒に食事すればいいよ」

 そう言うと樹は、少し照れたようにはにかんだ笑みを浮かべる。

「うん。また、わーちゃんの家に遊びに行きたい」 

「いつでも歓迎だよ」

  

「いっちゃんが、結婚なんてな。俺より先に嫁さん貰うんだから参ってしまうよ」

 と先輩が、こーんなだったのにと小学生くらいの背丈に手を上げる。

「え、そうでしたっけ」

「マーちゃんに引っ付いてきた時、小4か5くらいだったろ。ほら夏祭り」

「ああ、そうだ。わーちゃんは紅緒の病院へ行ってたんだよ」

 あ、あの夏か。

 一瞬肝が冷えた。


「ぶーーーっ。その祭り私行けなかった」

 と紅緒がふくれっ面をする。

 そうだった。

 あの夏、紅緒は両親を亡くし、記憶も無くしたんだ。

 

「そういえば、あの後馬鹿みたいに泣いたんだよな、べーは」

「そーゆーわーちゃんも一緒に泣いたじゃん」

 記憶のない紅緒は、事故の話をしてもあまり気にしない。


「べーちゃん、結構ひどい事故だったんだってな」

「そーなの。ここ、触ってトールちゃん。いまだにガタガタなのよ」

 と頭のてっぺんを、僕らの方に見せて指さす。

 言われて先輩が、紅緒の頭を触る。

「うわ。本当だ凸凹だな」


 「でしょ。なんかバキバキに割れてたみたいで」

 え、何それ。怖いんだけど。

 「わーちゃんは、いつも頭クシャってしてくれてたけど気が付かなかった?」

 全然気が付かなかったよ。

 

「分からなかった」

 そう言って、先輩に倣って手を伸ばす。

 僕を正面から見据えた紅緒の頭。

 やっぱりクシャッとしてしまう。

 

 そしたら紅緒に手首をつかまれた。

 「この辺だよ」

 そのまま言われたところのてっぺんを指で探ると。

「嘘。マジでガタガタだ」

 そう言うと、「でしょでしょ」とまた紅緒が笑った。


 それから僕らは閉店近くまで馬鹿話をして過ごし、先輩は一足先に帰って行った。

 残った僕は、閉店まで待って3人一緒に帰路に就いたのだった。

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