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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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縁は異なもの味なもの6 Strange Ties and Sweet Bonds.

いつもご愛読ありがとうございます。

お仕事小説っぽくなってきましたが、次回は日常に戻ります。


 1巡目の手順見直し、先生のログ確認、後は全員で2巡目の手順を確認する。

 僕は自分のスクリプトをもう一度見直し、手直しができそうな箇所を見つけ少し変えてみた。

「良いところに目を付けたな」

 急に気配がして、背中に毛布を掛けられる。

 

「休憩を挟もう」

 振り返ると、先生が自分も毛布にくるまって立っていた。


「潔くんが持ってきてくれたんだ」

「総務の諏訪さんが、毛布用意してくれたんですよ」

 と、“保きよし”。


「久美ちゃんも、気が利くよね」

 え? 諏訪さんもご存知で?

「日向、知らなかったの? 久美ちゃんもあたしのゼミ出身」

「はぁああ?」

 思わず画面を見つめてしまった。


「バリッバリの理系女だよ。だから今でも大学とインターンの橋渡ししてるでしょ。論文読めるから人選もできるし」

「先輩と仲良いわけだ」

「久美ちゃんが一期上かな」

 なんか裏事情を知った気分だ。


「一回、休憩を挟むよ~。外出て暖取って。温まったら2巡目行くからね」

 先生の一声で、毛布にくるまった集団がぞろぞろとサーバ室から外の通路へ。

 外ってこんなに暖かかったっけ。でも毛布は離せないな。

「温度差、激しすぎ」

「外に出たら、逆に寒いわ」

 

 なんやかんや喋りながら、自販機のあるフロア休憩室へ向かう。

 先生が「平川からの差し入れ」とか言いながら、小銭を渡してくれた。

 カップのコーヒー、1杯40円なんだよね。


 アッと思い壁の時計を見たら、嘘。

 もう10時を回ってるじゃん。

「平川はやんごとなき用事で、8時には出てったよ」

 間に合ったんだ。紅緒と何食べたんだろう。

「目下、夜の営業中ですかね」

 あーあ、僕は行けなかったか。

「難儀なポジションだよね、アイツも」


 コーヒーを飲み終え、カップをゴミ箱へ投下する。

「2回目行くよ~。今度こそスパッと1回で通すよ!」

 先生が声掛けをする。

「おっす」

 全員で応え、僕の前を通り過ぎる時、みんなが僕の肩を叩いていく。

「頑張れ、亘」

 とジョブ管理の”保つとむ”さん。

「他は任せろ」

 ハード担当の”保まさ”さん。

「な、亘」

 コンソール監視の”保きよし”さん。

「まだ学生なのに、偉いなぁ」

 とサーバ管理の”保ただし”さん。

「ほら、亘、頭下げ」

 そう言われ、下げるとよしよしと頭を撫でられた。

 あはは、気合が入るなぁ。


 サーバ室へ戻り、”保つとむ”の合図を待って、本日2巡目の並列実装テスト開始だ。

「亘、こっちは良いぞ」

「サーバ機器、一式問題無し」

「いつでもどーぞ」

 一斉に声がかかる。


「行きます!」

 頼む! 午後10時14分、エンターキーを叩いた。

 サーバ室内に響いているファンの音が、ひと際大きく唸ったような気がした。

 

 モニターの数値が跳ねあがる。

 さっきと同じ反応なんだけど、イケるのか?

 横で”保きよし”の声がした。

「来たぞ……」

 何が? 後ろの気配が動いた気がして振り返る。

 

 一目瞭然。

 全体の起動状態が見えるよう、ここのサーバ室はサーバラック列がコンソールのテーブルに対し斜めに並ぶよう設計されている。

 正に、HDQ群の列に”保まさ”がラックの中のサーバを睨んでいた。

 

 10分、20分……

 最初の30分が勝負なんだ。


「保まさ、温度は?」

 先生が叫ぶ。

「危ないですね、上限ギリギリです!」


 警告音も鳴らないまま、node 03が温度保護でストンと落ちた。

 エンストしたように機械音が収束し、プツンと切れる。

 合わせてファンの音も止まる。

 でも、最初の失敗とは全然違う空気感だ。

 焦りじゃなく、全員が状況を読んでいる感じ。

 

「node 03 落ちた!」

「NFS遅延! I/O詰まってる! 先生」

「保きよし、ログ回せ。今の落ち方、理由分かったよね亘」

「なんとなく」


 なんかうまく走った気がしたのに、どこで負荷が最大になったんだ?

 先生と一緒にログと状態を確認して。

「あ、スケジュラーここ」

「バッチ組みなおしだな。30分でイケるか?」

「何か先が見えてきた、頑張ります!」


 10時57分原因解明。

 11時25分、バッチ組み直し完了。

 

「できました! 皆さんお願いします」

 そう言って僕はコンソールから直でバッチを流した。

「オーケー。見張っとくからな亘」

「”保まさ”リブートお願い」

 と先生。

 ハード保守担当の”保まさ”が、親指を立てる。


 0時ジャスト。

 低い重低音が唸り、ファンが回りだした。

 数秒の沈黙。


「……動いた!」

 ”保きよし”の声に、モニターの数値が一斉に跳ね上がる。

 後ろのサーバ群を見ると、赤から橙、橙から緑へ。

 ランプが順番に灯り、最後の一つが緑に変わった瞬間、 みんなの息が一度に弾ける。


「通った……」

 誰かが呟き、次の瞬間、拍手が起きた。

 先生が大きく伸びをして、腕時計を見た。


「もう夜が明けたころかな」

 みんな、誰からともなく息を吐き、肩を叩き合っていた。

 ファンの唸りが遠く感じられるほどの静けさが、サーバ室を包んでいる。

 壁時計の針は午前4時を指していた。


「よし、今日はこれで撤収!」

最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回タイトル「恋愛は銘々稼ぎ」亘編 Love finds its way.始まります。

めんどくさいメンバー再集結です。


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