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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2

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縁は異なもの味なもの4 Strange Ties and Sweet Bonds.

亘編第4話

引き続き、仕事をしてる亘ですが、今回は完璧な彼がやらかしました。

 社屋正面玄関前で山下助教授(山下先生)を降ろし、地下駐車場へバイクを停め1階へ上がる。

 正面入り口で先生の荷物を受け取り、中に入ったら受付がゲスト用入館証を持って待っていてくれた。


「じゃ、先生急ぎましょう」

 僕もインターンのIDカードを首から下げ、到着したエレベーターへ乗り込む。


「まだ、この本社ビル使ってるんだね」

「来月には新社屋へ引っ越すらしいですよ」


 7階フロアに着くと、廊下が人であふれていた。

 何事? 

 UNIXが止まるとこんなに人が集まるのか。

 作業服姿の人もいる。工事が入るほどの事態だったのか。


 きょろきょろしながら先生とラボまで歩いていたら、後ろから声がした。

「日向!」

 振り向くと、やっぱり先輩だ。


「すまん、来てくれて助かった。悪いな、山ちゃん。こっち、サーバ室の方へ来てくれないか」

「ひらかわぁ~、久しぶり。何があったの?」

 と先生が先輩の肩に手をかける。


「昨夜、HDDの経年劣化を考えて数台入れ替えたんだ。で、RAIDリビルド中に7階フロアの分電盤がショートした」

「うわぁ、そりゃ最悪なタイミングだな」

 うっそ。よりによってそのタイミングでショートするか。

 って、待って、待って。昨夜突っ込んだ僕のジョブ。


「先輩、僕のモジュールは」

「まさかジョブ走ってるHDD交換はしないだろ、平川」

「8台やられたが、すまん日向の突っ込んだ先が対象かまでは確認取れてない」


 うそーーーっ。

 当たってませんよね。 

「僕確認してきます。先生は」

「サーバ室で、研究費分働いてくれるらしいから。用があったら内線で連絡くれ」

「体で研究費稼いでくるよ、そっちも頑張れ」

 そう言って、得意の2指の敬礼を決めてくる。


「また、それを言う」 

 と、先輩が先生を睨んで眉間にしわを寄せた。

 が、睨まれた先生は気にも留めず、舌を出して先輩の背中を叩いて、急ぐんだろとサーバ室へと足早に歩いていった。

 

 あ、先輩もよく2指の敬礼をするけど、あれって先生の影響だったんだ。

 って、そんなのどうでもいいんだよ。

 今夜はシンデレラなんだから、さっさと仕事をこなさないと。


 ラボに入り、X端末を立ち上げる。

 頼むよ!

 ログイン画面にIDとパスワードを打ち込んでエンターキーを叩く。

 左上でカーソルが点滅してる。

 点滅してるぞ、ああ嫌な予感。

 ……カーソルが止まる。

 Connection timed out。


 詰んだ……


 HDDの入れ替えなんて、通知来てないよ。

 いや、来てたっけ。


 慌ててガントチャートまで走る。

 設計、詳細設計、開発工程、総合テスト、データ移行、そして保守運用管理。

 

 ありましたよ、保守運用管理。

 上下の修正が激しくて列が侵食されてる『保守運用管理』欄。

 指でたどっていくと…… 

 『HDD交換。HDQ群の一部18時→7時』

 青と赤と黄色。上下列の修正がはみ出たとしても、情報は読めた。

 HDQ群に黄色で何重にも丸が書かれ、下に矢印。

 矢印の下にステイプルで止められた紙がぶら下がってる。


 プリントされたUNIXサーバHDQ(ヘッドクォーター)群のユニーク番号一覧が書かれていた。


 見落としてた。

 いくら上下の修正が激しくても、何色で書かれてたとしても、一番見落としちゃいけない奴だ。

 今、こうやって確認できてんだから。

 

 浮かれて、早く帰りたくて、確認を怠った。

 どうせ、何もないと高を括って。

 そのまましゃがみ込みそうになるが、踏ん張ってデスクに戻り、内線へ連絡を入れる。


「分かった。悪いが今空いてるUNIX(サーバ)はないよ。現在、助教授様が復旧のプロトコルを確認中でね、指示が出るまで動かせない」


 受話器の向こうから、『様は余計だ平川』と叫ぶ先生の声、そこに先輩が『聞こえますって』と情けない声で応戦しているのが聞こえてきた。

 こんな時なのに、なんか笑える。

 

 わざとらしい咳払いの後、

 「サーバが開き次第知らせるから、それまで翻訳の方頼むわ」

「はい。すみませんでした」

「うん。こっちの手が必要になったら、頼むよ。君は立派な家の戦力なんだから」


 先輩はそれだけ言って、電話を切った。

 叱らないんだ。

 それなのに戦力だなんて、こんな初歩的な人為的ミスを犯したのに。


 いかんいかん。

 落ち込むのは今じゃない。

 頭を振り、邪念を払う。

 頬を叩き、気合を入れて、顔を上げろ亘、前を向け。


 開きっぱなしのドア越しに、邦電のロゴが入った紺色の作業着の作業員が数名が設計図や工具箱を持って走っていくのが見えた。

 今頃になって、鼻についてた焼け焦げた何とも言えない匂いの意味に気が付く。

 あ、そうだ分電盤、この先にあったんだ。

 今から線の確認作業をするのか。一本一本。

 

 ラボの人員が出払ってガランとした室内。

 昨夜帰ったままの状態が、さらに悪化して椅子なんかがでたらめな方向に向いている。

 現場入りのメンバーは招集できないからな。

 

 よし。

 落ち込む時間があるなら、目の前の仕事に集中、集中だ。

 先ずは、ドキュメントの整理だ。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

仕事をしてる亘ですが、いかがでしたか。

95年当時の開発環境下、懐かしい方もいらっしゃるかな。

完走などいただけると、励みになります。

完走まであと少し、お付き合い宜しくお願いします。

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