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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all. 3 1995年 夏 亘編2
60/60

縁は異なもの味なもの3 Love knows no common rule.

亘編第3話です。

今回は大学での彼の顔を少しだけ。

 今日は半日、大学での作業の日だ。

 今朝は久しぶりにBMWに跨り、早朝から遠回りしてツーリング気分で大学へ向かう。

 1時間近くかけ、大学へ到着。

 正門前で降り、エンジンを切って押して構内へ入る。

 研究室のある、新築出来立ての14号棟専用の駐車場へバイクを停めた。


 山下助教授に出席の挨拶に行き、研修のレポートを提出する。

 その後指定の作業を終えて、数カ月ぶりの学食でカツ定食を食べた。

 学食のレベルを超えて、ここのは旨いのよね。


 午後は研修先のラボで昨日のモジュールを確認して、夕飯食ったらシンデレラだ!

 ウキウキで山下助教授(やましたせんせい)へ終了報告に行くと。


「あ! 日向。ちょうど良かった。いま平川から電話で、折り返し連絡をくれって」


 開けたドアの前に助教授(せんせい)が立っていた。


「うわっ先生!」


 彼女は、すらりと背の高い白衣が良く似合うスレンダー美人だ。

 肩先まで伸ばしたストレートヘアを、仕事中は後ろで束ねて団子にしている。

 男性社会の工学の世界で負けずに勝ち残り、工学部初の女性助教授になった人でもある。

 未だに男尊女卑とまではいかないが、女というだけで損な扱いは受けているらしいが。

 その気に食わない男どものつむじを、上から眺めてやるのが楽しいんだよ、といつも言って笑っている。

 そんな人柄に学生の人気は高く、彼女のゼミは毎年抽選でメンバーを選んでいるほどだ。


 「トラブルらしいよ。これ使っていいから」

 

 と、目の前の電話を差し出してくれる。

 先輩が、大学のラボへ電話なんて珍しいな。


「はい。ありがとうございます」


 昨日のモジュール、エラー出したのかな。その程度で電話なんかかけて来ないよな。

 ラボ直通ナンバーを押して、呼び出し音が鳴ったと思ったら即つながった。


「日向か?」


「はいっ。どうしたんですか」


「UNIXが止まって、データが飛んだ」


「はぁああ?」


 データが飛んだ? 

 血がサーッと引いていくのが分かった。

 背中がヒヤリとして、言葉が出てこない。

 何したっけ??? モジュール突っ込んで走らせたのまでは確認したよ。

 いつも通りだったし。 何かヘマをやらかしたのか。


「とにかく、そっち終わったらすぐ来い!」


「わ、分かりました。すぐ行きます」


 受話器を置くと山下助教授が両手でそれを抱え、目をキラキラさせて僕を見る。


「ねぇねぇ、何? トラブル。手伝おうか?」


 え? 


「あの、社のサーバが、UNIXが止まって、データが飛んだらしいっす」 


 それを聞き助教授は目を見開き、ちょい待ち、と僕に向かって人差し指を立てた。

 受話器を持ち上げ、どこかに電話をかける。


「もしもし、T大工学部の山下由紀恵と申します。はい。いつも貴社には大変お世話になっております。お忙しいところ、大変申し訳ありません。海外プロジェクト推進研究室、室長の平川亮(ひらかわとおる)さんお願いします」


 え、マジで来る気?


「あ、平川? あたしだけど、山下。……うん。……そうそう。あたしの研究知ってるよね。うん、……じゃそういうことで」


 え、何が起きた?  


「日向、バイクで来てるんだよね。乗っけってって」


 あ~っ! 山下助教授はデータベース国内トップのスペシャリストだった。

 なにかしたくてウズウズしてたんですね。


「こういう時の為に、あんたのバイク登校許可をもらってんだから」


 あはは。

 フィールドワークの脚代わりでした、そうでした。


「正門前で待ってて、すぐ用意するから」


 10分もしないうちに、背中に大きめのデイパックを背負った助教授がやってきた。

 マイヘルメットも持参して。


「家の研究室、あんたの研修先からいくらもらってると思う。研究成果を見せなきゃ。来年度は予算上乗せしてもらいたいし、ね」


 なるほど。抜け目ないっスね。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

次回はトラブル対処の回。

さて、トラブル乗り切って亘はシンデレラに行けるか? 

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