縁は異なもの味なもの1 Strange Ties and Sweet Bonds. 扉絵付き
亘編最終章です。
完走までどうぞお付き合い、宜しくお願いします。
「はい、これわーちゃんに。使いやすくて、お気に入りなんだ」
そう言って、紅緒が渡してくれたペンケース。
「私と色違い。今日は付き合ってくれてありがとう」
モスグリーンの牛革製のペンケース。
袋状でくるくると巻き付け、最後はベルトで止める、どちらかというと筆入れ見たいな造りだ。
紅緒のは少しくすんだサーモンピンクだって。
今思い出しても、顔がにやけてしまうよ。
「よぉ。朝からニヤケちゃってご機嫌だな日向」
うおっ、平川先輩。
エレベーターを待っていると、いきなり横に並ばれた。
「お、おはようございます」
「おはようさん。週末に良いことでもあった?」
降りてきたエレベーターに、そのまま乗り込む。
後ろから来た人たちに追いやられ、後ろの壁を背に並んで立った。
背にかけたボディバッグが潰れない様、前に回し両手で抱える。
手に当たるこれは、ペンケースだ。
えへへ。
どうしよーかな、話しちゃおうかな。
でも、先輩明日紅緒とデートなんだよな。
「なんだよ、ご機嫌じゃなかったのか」
あ、思わずに睨みつけちゃったよ。
「いや、あの、紅緒が僕にペンケース買ってくれたんですよ」
「べーちゃん? もう誘ったのか。悩んでたくせに、手早いな」
はぁん?
「ち、違いますよっ。来週崇直の誕生日だから、プレゼント一緒に選んでって誘われて、それでロフトに行って買ったから、そのお礼だって、い、色違いのペンケースを」
「へー、色違いのお揃いなんだ。良かったな、全然脈ありじゃん日向、それ」
「え?」
色違いのお揃いって、そうなの。
紅緒とお揃いって、そういうことなの?
「脈あり? マジで」
「そりゃ、嫌いな奴とお揃いはしないだろ普通」
そりゃそうだけど。
脈ありなんだ、これ。
あはははっ。
「日向、今日は一段と仕事が捗りそうだな。ま、頑張れ」
エレベーターが止まると先輩は僕の肩をポンと叩き、降りていく。
そうかぁ、紅緒もまんざらじゃないんだ。
なんだか照れるなぁ。
なんて思ってたら、やばっ。
ドアが閉まるところだったよ。
「先輩、金曜の夜突っ込んで帰ったジョブ、朝一で確認しときます」
「うん。ターミナルの方はもうアポ入れてあるから、いつでも始めて良いぞ」
ラボに着くや、X端末のスイッチを入れた。
低いファンが回る機械音と共に、画面が明るくなる。
サーバにログインし、gnuplotを立ち上げると、じわっと例のX11ウィンドウが浮かび上がった。
無事走り切ってますように、と祈りを込めて週末のジョブの確認をする。
エンターキーを叩いて。
さぁ、来い。
左から右へカーソルが目にも見えない速さで走り出す。
おおっ、おっ、行ってる行ってる。
エラーなしで最後まで走り切ってる。
「おっしゃ! エラー無し」
シミュレーションの出力ログを開いて、後は数値の羅列を*awk で整え、 *gnuplot に読み込ませるだけだ。
数秒後、物流ネットワークのグラフがX端末に描き出される。
これで、ようやく人の目にも理解できる形になった。
単位も数値も確認して、オッケーだな。
プリントアウトして提出したら、後は入出庫管理と合わせて全体の流れが分かるように、組みなおしだ。
僕のいる島の端にプリンター専用のラックが設置してある。
右端のはいつも何かしら吐き出していて、紙が蛇腹に折り重なるよう専用の受け皿までついていた。
真ん中のプリンターに送り出し、続いて3インチフロッピーを突っ込む。
読み込み待ちの間にプリンターを取りに行こうと思ったら。
「おお、無事走ったようだな。さすがだね」
先輩の声がした。
吐き出されたプリンターを確認している。
終わったところで、紙を切って持って来てくれた。
「ログ見せて」
と肩越しに、キーボードを操作する。
画面を呼び出し、画面をスクロールしチェックが始まった。
「シンタックスエラーも、無しか。お前、天才だな」
と満面の笑み。
「どうもっス」
ふーっ、良かったぁ。
普段がチャラいから、真剣にやられるとキモが冷えるよ。
「じゃ、続きも宜しく。これ、もらってくね」
と丸めたプリントを持って、ラボから出て行った。
awk : UNIX/Linux系のテキスト処理に特化した汎用プログラミング言語。
gnuplot : 関数やデータを視覚化し、グラフを作成するための、無料ソフトウェア
awk : UNIX/Linux系のテキスト処理に特化した汎用プログラミング言語
gnuplot : 関数やデータを視覚化し、グラフを作成するための、無料ソフトウェア
そういうものがあった、という程度でご理解いただけると幸いです。