恋愛は銘々稼ぎ4 Love knows no common rule.
終わる終わる詐欺で申し訳ないです。
終に次回で幕引きです!
ごめんねって、なんだよ。
なんでお前が謝るんだよ。
「ごめ……んね、な……おちゃんっ……の代わりさせて」
それは、勝手にオレがやってんだよ。だから謝るなって。
こいつに泣かれるのが一番堪えっ……!
「うぉっ」
泳がせた視線の先に、入り口に背を向けて立つ亘が居た。
「そ、それは、気にすんなって言ってるだろ」
「崇ちゃんがっ……好きなの……あたしじゃ……」
ばかっ、何言いだすんだよ。
「おまえも、直樹の事は忘れていいんだぞ」
「忘れないもんっ」
いや、そういう意味じゃなくて。
「直樹に……」
「だから、ごめんって謝ったじゃん」
いってぇっっ。
いきなり紅緒が顔を上げるから、押されて後ろの壁に頭が。
「うわっ、ごめん。痛かった?」
ぶつけた頭を紅緒がごめんね、とさすってくれるのは良いが。
そのごめんは、どのごめんだよ。
「元っ、崇ちゃん。ごめんっ。今まで甘えて」
はぁ? お前いつ泣き止んだんだよ、ったく。
えっ? 何だって。
「崇ちゃんは崇ちゃんでいいんだよ。もう、私に、気を遣わなくても」
「気、つかってねーし」
そう言ったら紅緒は口元を緩め、笑顔を作った。
その目が薄暗い中でも分かるくらい、見る間に涙でいっぱいになる。
「いつも、崇直ちゃん我慢してるじゃん」
おい、こらっ。
「ごめんね……」
だから、泣くなって。
「なんで、同じ人を好き」
慌てて手で口をふさぐ。
今の、聞こえてないだろうな。
左横、すぐそこにあいつが立ってるんだぞ。
くそっ。
もうどうにでもなりやがれ、だ。
「亘、わたるーーーっ」
叫んで入り口を見たら、真っ暗で人の気配がない。
「今行くよ、ちょっと待って」
遠くから、亘の声が応えた。
「わーちゃん、ゆっくりでいいよ!」
オレの手を掴んで、口から外して紅緒が叫び返す。
「お前、何言って……」
思わず小声になる。
「崇ちゃんこそ、わーちゃん呼んでどうするつもりよ」
「だって、お前ずっと亘が」
「何言ってるの。崇ちゃんだって分かるでしょ。私なんか相手にされてないって事くらい」
「そんなことは無い。あいつは」
「いつだって、わーちゃんは誰かと一緒だったじゃないっ。私は、もう諦めるから」
その瞬間、目に溜まっていた涙が一気に決壊する。
あの野郎、何処までもどうしようもないくらいアホだな。
「亘ーーっ、てめぇ早くこっち来いやっ」
今度は紅緒がオレの口を塞ぎにかかった。
その手を掴み、力ずくで引き離し自分の腕で紅緒の口に押し付けるが。
涙でずるっと外れてしまう。
くそっ。
これじゃ、手を掴み合っての力比べじゃないか。
入り口近くで、灯りがチラついて見える。
懐中電灯?
「わーちゃん、来なくていいっ」
突然、ライトに照らされ目がくらむ。
顔を照らされた紅緒が小さな悲鳴を上げ、顔を背ける。
「ごめん、ライト当てて」
力比べじゃないぞ、と言おうとしたらライトが消え、ドーム内が真っ暗になる。
せっかく目が慣れてきたのに、また真っ暗だよ。
「ねぇ、べー、泣いてた?」
「お前のせいで、さっきから泣いてんだよ」
また紅緒が抵抗して、オレの口を塞ごうとしてきた。
暗いドーム内で衣擦れの音と息遣いだけが聞こえる。
「崇直、べー大丈夫か?」
「違うから、わーちゃんのせいじ……」
黙れ、もうお前はしゃべるな!
腕を引っ張り、首根っこを掴んで顔を胸に押し付ける。
くぐもった悲鳴が上がり、亘がライトを足元に向けて点けた。
「お前のせいで泣いてんだよ。亘、お前はどうする気だ、また知らん顔で黙って見てる気か」
紅緒が頭をひねって顎を引き、抑えていた口を外す。
こっちを向いて睨まれる。
「窒息するかと思った。ころす気かっバカ崇直」
「その程度で死ぬ玉か、じゃない。亘っ。返事は」
「崇直、いいのか」
何が。誰の許可待ってんだっつーの、このアホが。
「うわっ」
紅緒が入り口から頭を突っ込んできた亘を見て、体を竦めた。
おまえはっ、うわっじゃねーだろうが。
何、逃げてんだよ。
あっちも、こっちもまったく!
「外に出るぞ、もうっ」
外に出ようとしたら紅緒がベルトを掴んで、また背中に顔を押し付けてきた。
多分泣き顔を隠したいんだろうが、人の服で顔を拭くなって。
「田中、帰るぞ」
接眼レンズを覗き込んでいた田中が、今気が付きましたと言わんばかりに体を起こす。
「あ、ああ? 笠神。レンズのサイズが分からなくてさ、今ライト点けて探してたんだ。見つかって、良かったなぁ。さぁ、帰ろうかな」
そうそう、邪魔者は帰りますよっと。
「亘、ちゃんと捕まえとかないとこいつは逃げるぞ。逃げ足は速いからな」
田中の方へ歩き出すと、不意に紅緒の気配が遠ざかる。
「ありがとう、崇直」
「えっ、うわっ、崇ちゃんっ待って」
「和を以て貴しとなすだ」
固まってる田中の肩に手を置いて。
「何が見える?」
「あ、いや。たぶん亘くんがべーちゃんを後ろからこう、腕で」
強引に肩を組んでリビングの方へ向きを変える。
「10年越しの恋が今実ったんだよ」
「え? えっ、え”ーーーっ」
田中、それ驚き過ぎ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
いよいよ、次回で崇直編最終話でございます。
明日の朝7時20分、最終話更新お楽しみに。