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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
55/60

恋愛は銘々稼ぎ3 Love knows no common rule.

いつも読んで頂き、あいがとうございます。

少し手直して、書き足しました。



「うわぁ、きれーい」


 どれどれ、紅緒の肩越しに顔を近づけたら譲ってくれた。

 右耳に息がかかる。くすぐってぇな。


「ベガの周りの恒星が見えるんだ」


「伴星だよそれ、今日はコンディションが良いから」


 ドア口から亘の声。


「え、あの小さい点がそうなのか」


 どれ? と紅緒が顔をこっちに向けてきた。


「11時の方向と6時の方向にある点、分かる?」


 オレの顔を押しのけて、紅緒がのぞき込む。

 お前、容赦ないな。


「11時の方向と、あ分かった! 白く見える点がある」 


 オレにも見せろや、このやろうっ。

 押し返して、覗き込む。


「おおっ、あれか」


「わたるくーんっ、ガリレオ衛星導入したよーっ」


 外で田中が叫んでるぞ、と頭を押し付けてきた紅緒に譲って入り口を見たら、亘と真正面から目が合ってしまう。

 距離にして10センチはあるか? ここ狭かったんだ。


「わーちゃん、ありがと。初めて伴星まで見れたよ」


 いてっ。

 肩掴んでたはずの手が、オレの顎を掴んできた。

 指が口の中に入る。

 爪が歯茎にあたってるよ。

 そこまでして、押しのけなくてもっ。


「ああ、ちょい待ち。田中の相手したら次アルタイルを……導入するから」


 今、笑ったよな亘のやつ。

 くそっ。


 それから、亘がアルタイルに標準を合わせるまでの間一旦外に出る。

 オレと紅緒は交代で木星のガリレオ衛星を見て、やっぱり宇宙はでかくて広いやと話してたら。

 案の定、田中が大興奮だよ。

 

 その前にベガも見たらしいが、身近な惑星の方が断然お気に入りらしい。

 オレらは何度も見てるが、田中は初めてだから衝撃だったようだ。


「木星ってちゃんと浮いてるんだな、宇宙空間に。それに衛星って、あんなにはっきり見たの初めてだよ。木星の周りに浮いてんだぜ。ちゃんと月みたいに影もあってさ」 

 

「ミニチュアみたいに見えるのが、不思議でしょ」


「そうそう。まるで目の前にあるようで、実は何億キロも離れてるってのがさ、驚きだよな」


 紅緒相手に熱弁をふるっている。 

 まぁ、天文距離はかけ離れすぎて()()とは来ないけど。


「ここから覗くとこんなに近くに見えるのにな、あんなに遠いんだ」


 田中が接眼部(覗くところ)から目を離し、木星を指さした。


「そうだね」


 紅緒と並んで空を見上げる。

 それだけは、確かだな。オレも目視で木星を見上げた。

 

 目の前に居ようが、離れていようが、届かない距離ってあるんだよ。

 触れそうで、触れないって奴。


「アルタイルに合わせたよ。ど真ん中、ドンピシャだ。伴星も見えるよ」


 小屋から出てきた亘が、何見てるんだと俺たちを見た後に空を見あげる。


「ああ、今日は見たい星が同じ方向に固まってて、導入する(合わせる)のが楽でさ」


 そう言って、一番明るく見える木星を基準に、土星、ベガとアルタイル、ついでにデネブと星座を教えてくれた。


「田中くん、今度は土星の衛星見てみる?」


「見たい! 土星、俺が導入していい?」


 操作を覚えたらしい田中が、嬉々として土星の位置を確認している。

  

 「すっかり仲良しになったね、あの二人」


「亘には珍しく、(趣味)が合ったってことかな」

 

 しかし、外と違いここは狭いなぁ。

 座ってる丸椅子は、回して高さ調節できるやつ。座るのがやっとだ。

 それに座ったオレの左膝に紅緒が座ってる。

 狭いおかげで、背もたれ代わりに壁を使えるのは有難いが、紅緒が前に滑り落ちそうになるから、どっちかの腕で支えてないと、危なっかしくて。

 子供を抱える親みたいな体勢だよ、こりゃ。


「わ、宝石みたいに光ってるよ。ベガより白いね」


「こっちも伴星があるが、ベガより分かりにくいかも」


 と入り口から、亘の声。


「12時と3時の方向に白い点が見える? 他の恒星と見分けがつかないかな」


 どれどれ。

 交代して確認してみた。


「真ん中がアルタイルだろ、あっ、たぶん12時の方向は分かったぞ」


「8時か7時の方向にも、分かりやすいのがあるんだが」


「わたるくんっ、土星の輪が縦になったんだけど、なんでっ。ねーなんでっ」


 ぶっ。

 田中が、焦ってやがる。接眼レンズが動いただけだよ、それ。


「最初は焦るよね、輪が縦向いちゃうと」


 そう言って、紅緒は一度床に足を突き横向きに座りなおした。


「宇宙に上下も左右もないんだけどな」


「直ちゃん、ううん。崇ちゃん」


 オレの顔を見上げ、両手を首に回し抱き着いてきた。


「5年間ありがとう」


 なんだ、このヒヤリとした感覚は。


 「ああ、うん」


 胸が、なんで痛むんだ?


「ここで、さよならしよ」


 そう言うと、後ろに回していた手で髪を束ねていたゴムを外した。


「えっ」


 ヒヤリとしたものが、喉元を通って腹に抜ける。


「崇ちゃん、今までありがとう。それから……」


 そう言うと、紅緒が抱きついたまま嗚咽を漏らした。

 そうだよな。

 今年で最後なんだよな。 


「ごめんなさい……」


 それだけ言うと、泣き崩れた。

 いよいよ次回、崇直編最終回です。

 長かった……

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

 亘編も宜しくです。

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