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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
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本木にまさる末木なし5 The original stands above all.

 墓穴掘って意気消沈した亘を連れて、二次会の予定だった亘のマンションへ向かうが。


「これ、早く持って帰りたいんだけど、いい」


 改札を出たところで紅緒がそう言って俺を見上げた。

 まー、後生大事に抱えちゃって。


「えーっ、べーちゃんここで帰っちゃうの」

 

 先を亘と歩いていた田中が、驚いて声を上げ振り返る。

 亘がそれでますます落ち込んだのか、背中がめちゃくちゃ小さく見えるよ。

 肩が落ち込んで、背中にめり込んでんじゃねーか。


「ううん。直ちゃんに持って帰りたいだけ。あ、誕生日だし皆で挨拶する?」


 だとよ。

 良かったな、亘。

 ということで、みんなで直樹へ挨拶することになった。

 家に帰ったら、今夜は寄合いか何かで全員出払って、社務所の(地下)にある宴会場へ行ってるらしい。


 二階から着替えて降りたら、紅緒が三方に半紙を敷いて小分けにした今日の料理を盛って準備していた。


「よし、できたよ。じゃ、拝みにいきますか」


 手と口を清め、準備をする。 

 二拝二拍手一拝。

 神棚の前に横に並んで全員で参拝した。

 続いて先祖を祭っている祖霊舎に向かい、同じく参拝。


 「んじゃ、行きますか」


 そう言うと、紅緒が背中に抱き着いてきた。

 顔を背中にくっつけている。

 こりゃやべえな。


「すまん、先に行っててくれ。すぐ追いつくから」


「ああ、わかった」


 田中が何か察したのか、素早く部屋から出ていく。亘は口を半開きにして、まるで呆けてるような顔で俺の後ろを見ている。

 早く出て行けよ、とは思うがもう知るかだ。

 お前が辛いのは勝手だが、こっちの身にもなれってんだ馬鹿が。

 クソ。 


「大丈夫か」


 紅緒の手を取って振り返ったら、案の定泣いていた。

 やれやれ。毎年のこととはいえ、これは心底辛いわ。しかもここ祖霊舎の前だぞ。

 直樹、おまえそこに居るなら何とかしろよったく。


 紅緒の顔を両手で挟んで、涙を親指で拭ってやる。

 背中に亘の視線を感じながら、紅緒の唇に自分のそれを重ねた。

 小さく声を漏らし、紅緒がオレの首に手をまわす。

 

 背後で襖が閉まる音が聞こえた。

 今年はここで終わり。

 もう続きは無いんだよ。

 

「落ち着いたか」


 体を離して、紅緒の顔を覗き込む。


「うん。もう大丈夫。ありがとう。顔洗っていくから先に待ってて」


 オレは頷いて、もう一度紅緒の頭を撫でた。


 玄関を出た先に、田中と亘が待っていた。


「おまた」


 手を上げ、声をかける。

 亘が同じように片手を上げ、オレの後ろを伺っている。


「もうちょっと待って……」


 え? 亘がオレの後ろを見て歩き出した。何だ?

 振り返ったら、社務所の方から紅緒が両手に何か下げて歩いてきてた。


「わーちゃん、助かった」


 宴会場から何やら見繕ってきた荷物を亘に手渡している。


「輝爺から適当に持っていけって袋渡されたから、美味しそうなの取ってきた」


「いくつ取ってきたんだよ、こんなに飲む気かべー、酔ったって知らねーぞ」


 あーあー、亘が話しかけられて、声まで弾んでんじゃん。

 嬉しそうに中身と紅緒を見比べて。


「いいもん。わーちゃん心配しなくても適当に酔ったら寝るから」


 いや、紅緒おまえどんだけ呑む気だよ、っていうかその紙袋破けかかってるぞ。


「ほら、底抜ける前に入れ替えないと」

 

 輝爺、もっとましな袋よこせよ酔っ払いが、もうっ。

 キンキンに冷えた缶酎ハイを突っ込んだせいか元からか、入れてきた紙袋の一つの底は濡れてて今にも破けそうだ。


「ありゃ、やばいねこれ。どうしよう」


 何がやばいねだよ。ちったぁ考えろよ、もう。

 底に手を添えて、底が抜ける前にその場にしゃがむ。

 つられて全員がしゃがんで、持ってきた紙袋から酒の缶を取り出し始めた。


「途中で抜けなくてよかったな、べーほら穴空いた」


 亘が紙袋に空いた穴から紅緒を見てる。

 一緒に田中が笑いながら、別の袋から中身を取り道に広げて置き始めた。


 その間にまた家に戻ってレジ袋と手提げを持ってきて、みんなで缶酎ハイを入れなおした。

 数えたら、20本近く持ってきてるよ。おまけに乾きもののつまみまでたんまりある。

 お前、用意周到だなおい。


「べーちゃん、やるなぁ」


 アタリメの袋を持って田中が喜んでる。

 田中よ、そこ感心するところじゃねーだろ。

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