本木にまさる末木なし4 The original stands above all.
「あ、ありがとうございます。無事、23歳になりました!」
オレも立ち上がり、グラスを掲げお礼を返した。
軽い歓声と拍手が上がる。
勢いでグラスも飲み干した。
「俺、早生まれだからな、まだまだ先だワ」
そう言って田中がオレの空のグラスに乾杯する。
「歌、めっちゃ上手いな。驚いたよ。ちょっとやり過ぎだが」
「あ? あぁ」
照れたのか、頭を掻いてる。
「マジ驚いた。田中の声、伸びがあって綺麗でさ。シェフのテノールにも驚かされたけど。コーラスは半端ないよ。特にバス担当の彼、リズム感スゲーな」
亘も便乗して乾杯に参加し、バス担当のギャルソンを目で追う。
どうも、とその彼がウインクを返す。
すかさず親指を立てるのが、この帰国子女め。
「さあ、タルト・オ・フリュイを切り分けますよ」
とシェフがナイフを持ってやってきた。
サクサクっとタルトを切り分け、用意してあったお土産用の化粧箱へ残りを移す。
あー、陰膳も詰めてくれたんだ。
「こちらは、お土産にどうぞ」
「ありがとうございます」
フルーツタルトは、ケーキというよりフルーツの盛り合わせを食べてる感じだ。
かなり贅沢なタルトじゃないか。
一体予算は幾らなんだよ、と紅緒を見る。
「フルーツ食べてるみたいだね。これは、ケーキじゃないよ」
と大きめにカットされたオレンジ色の果肉をフォークに刺した。
「これなんて初めて見るし、なんていうフルーツなんだろう」
ああ、確かに。
ねっとりしたオレンジ色の果肉。
甘くてちょっと酸味もある熱帯フルーツって味だ。
「たぶん、アップルマンゴーだと思う」
さすが亘くん。抜け目ないねぇ。
「ええ、愛文マンゴーです。台湾産が手に入ったので。いかがですか」
ええっ? いつの間にかオレの背後に居たシェフの声。
「「すっごくおいしいです」」
びっくりして振り返ったら、上からニッコリ笑顔を向けられる。
わぁ、この人、鼻の形がきれいだ。
あごのラインもシャープで下から見たらよく分かるな、年いくつだろう。
「お口に合って良かった。パイナップルも台湾産です。そのキーウイは……」
即答で答えた二人の間に立ち、シェフがフルーツの説明をしてくれている。
「川崎さん、パティシエの修行もしてたんだって。ここのケーキも焼いてるからね」
上体をこっちに屈め、田中が教えてくれた。
「へぇ~。オールラウンダーだな」
「そうそう」
デザートのケーキというかフルーツと甘酸っぱいワイン。
絶妙な組み合わせで、気がついたらワインは二本目を空けていた。
といっても、紅緒に言わせたら一人3杯の量だとか。
なるほど、そりゃ酔うわ。
「ありがとうございました」
ほくほく顔で紅緒がお土産の包みを受け取って、お店を後にした。
「それ、持とうか」
亘が手を出すが、紅緒は抱えた包みごとでいやいやと体をゆすり、拒否をした。
途端、酔って赤くなっていた亘の顔から血の気が引く。
「あ、ごめん。そうだよね」
差し出した手を握り締め、脇へ下した。
ったく、おまえは空気読めよ今日くらいは。
「行こうか、紅緒」
肩に手をまわし、そのまま腰に手を添えて歩き出す。
紅緒の頭越しに見たら、田中が亘に話しかけていた。