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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
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本木にまさる末木なし4 The original stands above all.

「あ、ありがとうございます。無事、23歳になりました!」

 オレも立ち上がり、グラスを掲げお礼を返した。

 軽い歓声と拍手が上がる。 

 勢いでグラスも飲み干した。


「俺、早生まれだからな、まだまだ先だワ」 

 そう言って田中がオレの空のグラスに乾杯する。


「歌、めっちゃ上手いな。驚いたよ。ちょっとやり過ぎだが」

「あ? あぁ」

 照れたのか、頭を掻いてる。


「マジ驚いた。田中の声、伸びがあって綺麗でさ。シェフのテノールにも驚かされたけど。コーラスは半端ないよ。特にバス担当の彼、リズム感スゲーな」

 亘も便乗して乾杯に参加し、バス担当のギャルソンを目で追う。

 どうも、とその彼がウインクを返す。

 すかさず親指を立てるのが、この帰国子女め。


「さあ、タルト・オ・フリュイを切り分けますよ」

 とシェフがナイフを持ってやってきた。

 サクサクっとタルトを切り分け、用意してあったお土産用の化粧箱へ残りを移す。

 あー、陰膳も詰めてくれたんだ。


「こちらは、お土産にどうぞ」

「ありがとうございます」


 フルーツタルトは、ケーキというよりフルーツの盛り合わせを食べてる感じだ。

 かなり贅沢なタルトじゃないか。

 一体予算は幾らなんだよ、と紅緒を見る。


「フルーツ食べてるみたいだね。これは、ケーキじゃないよ」

 と大きめにカットされたオレンジ色の果肉をフォークに刺した。

「これなんて初めて見るし、なんていうフルーツなんだろう」


 ああ、確かに。

 ねっとりしたオレンジ色の果肉。

 甘くてちょっと酸味もある熱帯フルーツって味だ。


「たぶん、アップルマンゴーだと思う」

 さすが亘くん。抜け目ないねぇ。

「ええ、愛文マンゴーです。台湾産が手に入ったので。いかがですか」

 ええっ? いつの間にかオレの背後に居たシェフの声。

 「「すっごくおいしいです」」


 びっくりして振り返ったら、上からニッコリ笑顔を向けられる。

 わぁ、この人、鼻の形がきれいだ。

 あごのラインもシャープで下から見たらよく分かるな、年いくつだろう。


「お口に合って良かった。パイナップルも台湾産です。そのキーウイは……」

 即答で答えた二人の間に立ち、シェフがフルーツの説明をしてくれている。


「川崎さん、パティシエの修行もしてたんだって。ここのケーキも焼いてるからね」

 上体をこっちに屈め、田中が教えてくれた。

「へぇ~。オールラウンダーだな」

「そうそう」


 デザートのケーキというかフルーツと甘酸っぱいワイン。

 絶妙な組み合わせで、気がついたらワインは二本目を空けていた。

 といっても、紅緒に言わせたら一人3杯の量だとか。

 なるほど、そりゃ酔うわ。


「ありがとうございました」

 ほくほく顔で紅緒がお土産の包みを受け取って、お店を後にした。


「それ、持とうか」

 亘が手を出すが、紅緒は抱えた包みごとでいやいやと体をゆすり、拒否をした。

 途端、酔って赤くなっていた亘の顔から血の気が引く。


「あ、ごめん。そうだよね」

 差し出した手を握り締め、脇へ下した。 

 ったく、おまえは空気読めよ今日くらいは。 


「行こうか、紅緒」

 肩に手をまわし、そのまま腰に手を添えて歩き出す。

 紅緒の頭越しに見たら、田中が亘に話しかけていた。

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