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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
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本木にまさる末木なし2 The original stands above all.

 スズキのポワレに続いて、肉料理が運ばれてきた。

 

「ラム肩ロースの香草パン粉焼きでございます」 


 まさに今オーブンから出たばかり、というラムショルダーからはハーブのいい香りが漂ってきた。

 また亘が何か言わないかと、正面を見たら。


「なぁ、直樹もラム好きだったっけ」


「あぁ、好物だよ。苦手なのはイクラ。崇直はイクラは好きだけど」


「ウニが嫌いだ」


 と言って、微笑んだ。

 お前は帰国子女のくせにウニ好きだよな。


「べーちゃんはニンニクとか大丈夫? 苦手なものとか無い」


 肉切ナイフを持った田中が立ち上がり、さっそく切り分けてくれるようだ。


「無いよ~。イクラもウニも食べるしラム肉だって大好物!」


 と言いながら、またナイフとフォークを握って待つんじゃないって、お前は。


「こら、直樹くん。そんな顔してべーちゃんを睨まない」

 

 それを聞いた紅緒がしかめ面で舌を出してきた。

 こっちだって、あっかんべえだ。


「はいはい仲良いのは分かったら直樹、君の分。今回はニュージーランド産のラム肉だってよ」


「サンキュー、ナオト。香草焼きなんて、初めてだよ。いい香りだよね」


 だねー、とか言いつつ田中はそれぞれに切り分けたラムを焼かれたグリル野菜と一緒に盛り付けていく。

 手際良いよなぁ、ったく。

 

「ラムにはよくミントをあわせるが、これはタイムとオレガノ、ローズマリーにセージあたりかな」


 また亘が蘊蓄を語ると思ったが、何だそれ。

 そんなにたくさんの香草が入ってるのかこれ。

 へー。焦げ目のついたパン粉に細かく刻まれたハーブが混じってる。

 

 あー、なるほど。これはいい香りだ。

 フォークで刺して口元に運ぶ間に何とも言えない爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

 

「このスーッとする感じ、なんだろう」


「タイムですよ」

 

 え?

 後ろからシェフの声がした。


「うちは(フレッシュ)を使うから、香りが抜けるんです」

 

 そう言って、ワゴンに乗せてきた鍋の蓋を開けた。


「こちらは、お誕生日のサービスで塩漬け豚肩ロースとレンズ豆の煮込み、良かったら召し上がってください」

 

 レードルでひと掬い、香草焼きの皿に盛ってくれた。

 なんだ、それで料理のわりに皿が大きかったのか。


 それに、今日のシェフはなんだか気さくな感じで、初対面の時のちょっとした緊張感が無くなっている。


「こちらの豚、千葉県産ですよ」


 とウインクされた。

 うげっ。

 亘のやつが見てやがる。


「やったな崇直。ニュージーランド産に千葉県産だってさ」


 この、ばかやろうがっっ! なんでお前までウインクするんだよ。


「おっと。崇直じゃなかった。すまん」


 コロシタロウカ、この野郎。


「直ちゃん顔、赤くなってるよ。ワイン飲み過ぎた?」


 紅緒の手が頬に触れた。

 見ると、心配してくれてるどころか片眉を上げて、ニヤッと笑いやがる。


「やっと、こっち見た」


 あ、ごめん。

 

「うん。誕生日だからね、ちょいと飲み過ぎたかも。ほら」 


 手を握って、手の甲を頬に当てる。


「おーっ、ちょっと熱いね。私もほら」


 と額にオレの左手の甲を当て、目を閉じた。

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