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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
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いつも月夜に米の飯5 All that glitters is not gold.

 ラ・シェットに続く細い階段を田中が先頭で降りていく。

 その後をオレと手を握って寄り添ってる紅緒、亘はたぶんそれを見ながら着いて来てるんだろうなぁ。


 昔もそうだったけど、黙って見てるんだよなあのアホは。

 紅緒は直樹と居る時は、だいたいくっついて歩いてんの知ってるだろうに。


 紅緒が言うには、


「直ちゃんが喜ぶから」

 

 らしい。

 オレとしては、今夜は直樹のための日だから言わずもがなだが。


 直樹が居なくなってから毎年恒例で、昼間は紅緒とデートして、夜は家族全員で食事となっていた。

 それも、直樹の5年祭までだと思ってたが。

 誕生日はまだ5回目を迎えてなかったんだよな。

 

「今年は二人で何処にも行けなかったな」


 明日でも埋め合わせするか。


「今一緒にいるじゃない。これから誕生会なのに何言っちゃんてんの」


「の」のところで、いきなりどつかれる。


「おわっ」

 

 いってぇなぁ。

 後ろで亘が笑ってやがる。

 そういや、直樹はよく紅緒にバカやっては、今みたいにどつかれてたよな。

 

 店に入ると、ギャルソンがにこやかに出迎えてくれた。 

 前来た時と同じテーブルに案内される。テーブル中央には予約席のプレート。

 ギャルソンがオレを奥の、お誕生日席へと案内した。


「いらっしゃいませ」

 

 跳ね上げ式のカウンターからシェフが出てきて、例の笑顔で挨拶を交わす。


「お待ちしてました……」

 

 と一瞬誰かを探すようにオレの顔を見て、戸惑ったように視線を泳がせる。


「あれ、笠神様ですよね」


「え? はぁ」


「失礼しました。どうぞ」


 と椅子を引く。

 席につくと、右隣に座った田中がシェフに我慢できなかったように話しかけた。


「シェフも騙されちゃった?」


 おいおい、この人と会うの2回目だぞ田中よ。

 騙すも何も、シェフは直樹を知らないだろうに。


「後ろで髪の毛束ねただけで、笠神の顔が俺の親友だった直樹に変わるんですよ」


「なるほど。笠神様とは思ったんですがどこか違う気がしたのはそのせいでしたか」


 と斜め上からオレを見て、薄っすらと微笑む。

 何だ? その改めて値踏みするみたいに。


「俺もさっき見せられて、驚いたのなんの。直樹と笠神を見分けられる奴なら絶対泣いちゃうって」


 それで、田中はあんな顔してたのか。

 二度と会えないと思ってたなら、そりゃちょっと悪ノリが過ぎたか。


「田中くんには、それは嬉しい驚きでしたね」


 田中は少し照れた風に、うんと小さく頷いてオレを見て微笑んだ。

 なんだ。それなら良かった。

 

「それでは改めて、笠神様、お誕生日おめでとうございます」


 シェフがそう言うと再び跳ね上げ式のカウンターが上がり、ワゴンに乗せられたケーキ、いやフルーツが山盛りのタルトがやってきた。


 見事に盛り付けられたフルーツタルトに、みんな息を呑むのが分かった。


「こちら、私が誕生日ケーキとしてご用意させていただきましたタルト・オ・フリュイでございます。後ほど、お楽しみくださいね」


「あ、ありがとうございます」


 あんなにフルーツたっぷり乗ったケーキは初めて見たぞ。


「はい。すぐにお料理をお持ちします」


 シェフはそう言うと、厨房へ戻っていった。


「あの人崇ちゃんとの違いが分かったんだ」


 後ろ姿を見ながら紅緒が言う。

 そうなんだよ、今日で会うのは2回目なのに。 

 

「うん。シェフだけに目利きなんだよ、なんつって」


 珍しく亘がまともな事を言うから、ほれまた微妙な空気になって。

 田中が笑って良いのかって顔してるぞ。


「え? 何。僕また……」


「グリーンアスパラのムース、一口奴のそら豆ピューレがけでございます」


 助け舟のように、ギャルソンが料理を運んできてくれた。

 レディファーストで紅緒の前にアミューズの皿が置かれる。


「うわぁ、綺麗な緑色」


 目を輝かせ、紅緒が歓待の声を上げた。


「はい。絶妙な火加減でこの色が出るんですよ」


 とオレの前にもアミューズが置かれる。

 顔を上げると、右横にシェフがあの笑顔でオレを見つめていた。

はい。シェフ再登場です。

勘のいいあなた、そういう事なので。

みなまで言いませんが、まぁシェフには今後頑張っていただきたい。

それ以上に亘は頑張らせます。

やらせればできる男のはずなんだが、亘くんってばよ。

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