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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編

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いつも月夜に米の飯3 All that glitters is no gold.

「わーちゃん」

 紅緒がうしろから駆けてきた。

 

「! なに、どうした」

 少し焦ったように、亘が振り返る。

「あれって、北斗七星だよね」

 と空を指さす。

 

 沈みきったばかりの太陽の明かりが残った薄明るい空にぽつぽつと星が見えた。

 都内から離れると、ここまで星が見えるのか。

 へぇー。


「そうだな。ほら、あれが北斗七星だから」

 と言いながら紅緒に寄り添い、頭を並べて視線を合わせる。

 亘が手を使って距離を測ってるようだ。


「あれが、北極星だ」

「えーっ、あんなに小さかったけ」

 なんだか昔も星図表を見ながら、どれが何座でってやってたことがあったな。

 そうだ、亘の家には天体望遠鏡があったんだ。


「3等星だからね、暗いよ」

「そうか、白鳥座とか、乙姫と彦星は分かる?」

「ああ……」

 と言いながら亘が空を見上げ、首を巡らせ全天を見るように体ごとゆっくり回転する。


「ヴェガはもう登ってるんだろうが、ここからじゃ位置が悪くて見えないな。白鳥座とアルタイルはまだまだ下の方だよ。帰る頃には両方とも上がってくるけど」

「都内に戻ったら、見えないか」

「空もここほど広くなからね」

 ありがと、と言って紅緒は踵を返す。 


「ナオトせんぱーい。北極星分かったよ」

 何の話をしてたのか知らんが、また紅緒が田中の下へ走って戻る。

 田中は顔を上に向けたり紅緒を見たり、ほぼ真上に浮かんでいる北斗七星を指さしたりしてる。


「夏の大三角形が気になったみたいだ」

「は? なんで今頃」

「さぁ。空見て思い出したんじゃね」


 で、北斗七星見て満足してるのか。良く分からんが。

 空を見上げたら、見事に晴れた夜空に想像以上に大きな北斗七星。


「でかいな、北斗七星」

「空って広いんだよ。あの飛行機が飛んでるんだから」

「だな」

 徐々に暮れていく夜空。また亘が肩を組んできた。オレも自然と腕を伸ばして亘の腰に右手を添えた。

 亘が顔を寄せて目線を合わせ、空を指さした。


「あそこ、小さな星見える?」

「うん……」

「あれが、北極星。で、その右にちいさな北斗七星っぽいの分かる、それが小熊座」

 ああ、思い出したよ。マンションの屋上に望遠鏡出して、天体図広げて観察したっけな。

 

 亘が、オレと目線の高さを合わせようと頬がくっつきそうなほど顔を寄せてきた。

「あれ、見えるか」

 指さしたのは空の下の方に輝く赤っぽい星だった。

「ああ、あのオレンジ色の」

「そうそう、あれが牛飼い座のアルファ星アークトゥルスで、」

 と体を反転させる。

「こっちのあの星」


 うわぁっ。おまっ、何考えてるんだよ。顔がくっついてきたよ。

「スピカだ」

「あ、乙女座ね」

「覚えてたんだ」


 少しでも動いたら、そのままキスできる距離で亘が嬉しそうに笑う。

 沈まれ心臓。

 冷静になれ。

 深呼吸だ。


「ゔっ」

 このばかっ。

 肩に頭を載せやがった。

「崇直が居てくれてよかった」


「ああ」

 歩き方が変じゃないか。大丈夫かオレ。

「僕はやっぱり紅緒を諦めきれない」

「知ってたよ」

「うん。だと思った」


「辛いなぁ」

 そう言って亘は頭を上げ、また天を仰いだ。

 辛いって、なんだよ。

 オレはどうすりゃ良いんだよ。


「そんな怒ったような顔すんなよ」

 クソが。

 終いにゃ襲うぞ!


「うるさいっ、アホのくせに」

「また、アホって言った。たまには優しくしてくれよ」


 知るか!

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