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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
44/62

いつも月夜に米の飯2 All that glitters is not gold.

 駅までの平坦な道。

 オレ等の前にも後ろにも、徒歩で駅に向かうグループが居た。

 歩いてるのは全員リクルートスーツ姿だ。

 ここら辺りでは珍しくもない光景なんだろうが、夏の夕方の風景じゃないよな。


 自分も含めて、なんだかなーって気分になる。

 この先明るい未来が見えている訳じゃないし、起案の案件はどれもこれも似たようなものだし。

 きっとこれから携わる事件も、特別変わったものなんて無いんだろうなぁ。


 人一人に人生あり。

 願わくば、亘も紅緒も刑事弁護士とは関わらなくて済む人生を歩んで欲しいもんだ。


「何つまらなそうな顔してんだよ」

 え?

 いつの間にか亘が隣を歩いていた。

 前を歩いていたはずの紅緒が、あれ。


 振り向いたら田中と何やら話しながら歩いている。

 何だ、おまえ振られたのか。


「真っ先に刑事裁判が当たって、面食らってんだよ」

 そう応えたら、亘は興味ありげに目を輝かせた。

 

「刑事裁判って事件とか扱うやつか。ほら、あれ。主文、被告人をうんたらかんたらってやつ」

「それそれ。裁判官に付いてやるんだよそれを。判決文も書かないといけないし、それが成績に響くから絶対手が抜けないし、今から頭痛いわ」

 コイツは昔から自分の知らない、分からない分野の話を聞くのが好きだったんだよな。


「成績悪いとまずいのか、やっぱり」 

「研修後の就職に響くんだよ。判事や検事もだが、大手事務所も成績の上から欲しがるからな」

「へー。じゃ、裁判官終わったら次検事やるんだ」

 と、肩をぶつけて来た。

 そーだよとこちらも返してやる。


「一通り全部やるんだな、これが」

「すげーな。司法試験通ったら何でもなれるんだ」

 言いながら肩に手を回してきた。

 なんで今肩組むんだよ、オレの右手の行き場が。

 どーすんだよ、この手。


「そんな事は無いが……」 

 落ち着け、オレ。

 よし。腰にでも回しとくか。飽くまで、自然にだ。


「成績次第で、選べるよ」

「やっぱり、おまえは凄いよ。ちゃんと目標持って、それに向かって動いてる」

 そんな事はないよ。必死に毎日過ごしてるだけだ。 


「亘だって人の繋がりの構造化とか、オレには良く分からんがやってるじゃん。博士課程だろ、オレより全然すげーよ」

 そう言うとちょっと照れたように、視線を外して鼻の頭を掻く。


「うん。ありがとう。おまえに褒められたら、何ていうか、恥ずかしな」

 くそう。

 なんちゅう顔するんだよ。

 んなことで照れるなよ、こっちが目のやり場に困るわ。


「それでさ、聞きたいことがあるんだ」

 何改まって、法律相談か。


「紅緒って先輩、平川先輩と何と言うか、で、デートしてるのか」

「あぁ? デートって。ああ、同伴の事か」

 ありゃ、そんなにショックなことでしたかね。

 急に亘の表情が無くなったよ。


「たまに一緒に食事とかデートみたいなことして、店に一緒に来るんだよ。紅緒の営業のひとつだよ」

「そ、そんなことしてるのか、あいつ」

 あちゃー、コイツ何想像してんだよ。

 そんな尻軽じゃねーよ、紅緒は。


「あいつは平川さんとだけ、っていうかさ。おまえ知らなかっただろ」

「何を」

「大学入試終わってからの紅緒の行動」

 あー、言っちゃったよオレ。


「直樹が死んでから、入試にだけに集中して。それでオレらは乗り越えたって思ってた」

「違うのか」

 その時はそう思ってて、紅緒も落ち着いてたんだよ。

 そう見えてたんだよ。


「大学入って、新入生歓迎のコンパとか、サークル勧誘の飲み会とか色々あるじゃん」

「まだ新入生は未成年だぞ」

「そんなん無視して呑ますに決まってるだろが。あいつは見た通り人目を惹くし」

「何かあったのか」

 突然立ち止まり、オレの肩を掴んで引き寄せる。


「ねーよ」

 肩を揺すって腕を外す。

「そこは、安心しろ」


 振り返ると、田中と紅緒が何か大笑いしながら話していた。

 亘も気になるのか、後ろを振り返る。


「適当な男と一緒に飲み歩くようになって、まー爺がキレてさ。それで店でアルバイトさせることになったんだ」

「あ」

「おまえ、直樹が死んだ後、紅緒と距離取ってたから知らなかっただろ」

「……っ」


 今頃悔しがったっておせーんだよ。

 本当に、バカだよおまえ。

 でも、本当のバカは……


「わーちゃん」

 紅緒が後ろからかけて来た。

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