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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第4章 Fall between two stools. 2 1995年 夏 崇直編
43/61

いつも月夜に米の飯1 All that glitters is not gold. 扉絵付き

挿絵(By みてみん)


 紅緒に手を引かれて正門前のゆるい坂を降りる。

 かなりの早足で歩道まで降り、そのままバス通りを和光駅方面へとどんどん歩いていく。

 多分、人混みを抜けたかったんだろう。

 こっちは願ったりだ。


 手を引かれて、ふと頭をよぎったのは、あの日のお化け屋敷だった。

 オレらの通ってた小学校の学校祭は、初日は子どもたちの発表会と劇などがあり、翌日は保護者が準備してくれたお祭りがあった。

 そこの名物の一つが『お化け屋敷』だったんだ。


 これが良く出来ていて、実際怖かったんだよ。

 毎年ビビリの亘が紅緒に手を引かれて連れて行かれてたっけ。


 中学までは紅緒が一番大きかったから、まるで保護者だったよな。


「何笑ってんの、崇ちゃんってば」


「いや、ほら小学校の時のお化け屋敷思い出して」


「ああ、わーちゃん毎回涙目だったよね」


 後ろで亘が我慢できなかったのか、オレと紅緒の間に割って入って来た、


「涙目って、お前も結構悲鳴あげてたじゃないか」


「へぇ、笠神ってそうなんだ」


 その後ろから田中が顔を出す。 


「脅かされたら、声ぐらい出るだろうが」


「いや、あれ一番怖がってたのは直ちゃんなのよ」


 えええ?


 思わず足が止まってしまった。

 歩いていた紅緒が手を離す。


「うそ」


 その間を抜けた亘の横顔がオレの前を過った。


「まさか」 


「あたしの手握って先頭歩いてたけど、けっこう悲鳴あげてビビってたよ」


 紅緒が並んで歩く亘を見上げて言う。

 亘、目が笑ってねーぞ。


「なんだ、あいつ格好つけてたんだ」


 オレがそう言うと、なんだそうだったんだと安心した様な顔になった。


「そうだよ、男の子だったんだよ」


 ありゃ、今度は顔が引きつったよ。 


「小学校のお化け屋敷なのに?」


 そうか。田中は学校が違うから、母校のクオリティの高さを知らないんだ。 


「途中、棄権組が出るくらいには怖かったんだよ」


 確かに、巧いこと言うな。

 平静を取り戻したのか、亘が振り返って応えた。


 一番前を歩く直樹は紅緒の手を握って平気な顔してたんだよな。

 その紅緒はビビリの亘の手を引いて、それでも怖い亘はオレの手も握ってた。

 その後を付いてくる樹も怖いから、オレの手かシャツを掴んで一列になって進んで行ったんだよ。


 真っ暗なお化け屋敷の中。

 お互いの姿も見えなくて、握っている手だけが確かな信頼の絆だったんだ。

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