いつも月夜に米の飯1 All that glitters is not gold. 扉絵付き
紅緒に手を引かれて正門前のゆるい坂を降りる。
かなりの早足で歩道まで降り、そのままバス通りを和光駅方面へとどんどん歩いていく。
多分、人混みを抜けたかったんだろう。
こっちは願ったりだ。
手を引かれて、ふと頭をよぎったのは、あの日のお化け屋敷だった。
オレらの通ってた小学校の学校祭は、初日は子どもたちの発表会と劇などがあり、翌日は保護者が準備してくれたお祭りがあった。
そこの名物の一つが『お化け屋敷』だったんだ。
これが良く出来ていて、実際怖かったんだよ。
毎年ビビリの亘が紅緒に手を引かれて連れて行かれてたっけ。
中学までは紅緒が一番大きかったから、まるで保護者だったよな。
「何笑ってんの、崇ちゃんってば」
「いや、ほら小学校の時のお化け屋敷思い出して」
「ああ、わーちゃん毎回涙目だったよね」
後ろで亘が我慢できなかったのか、オレと紅緒の間に割って入って来た、
「涙目って、お前も結構悲鳴あげてたじゃないか」
「へぇ、笠神ってそうなんだ」
その後ろから田中が顔を出す。
「脅かされたら、声ぐらい出るだろうが」
「いや、あれ一番怖がってたのは直ちゃんなのよ」
えええ?
思わず足が止まってしまった。
歩いていた紅緒が手を離す。
「うそ」
その間を抜けた亘の横顔がオレの前を過った。
「まさか」
「あたしの手握って先頭歩いてたけど、けっこう悲鳴あげてビビってたよ」
紅緒が並んで歩く亘を見上げて言う。
亘、目が笑ってねーぞ。
「なんだ、あいつ格好つけてたんだ」
オレがそう言うと、なんだそうだったんだと安心した様な顔になった。
「そうだよ、男の子だったんだよ」
ありゃ、今度は顔が引きつったよ。
「小学校のお化け屋敷なのに?」
そうか。田中は学校が違うから、母校のクオリティの高さを知らないんだ。
「途中、棄権組が出るくらいには怖かったんだよ」
確かに、巧いこと言うな。
平静を取り戻したのか、亘が振り返って応えた。
一番前を歩く直樹は紅緒の手を握って平気な顔してたんだよな。
その紅緒はビビリの亘の手を引いて、それでも怖い亘はオレの手も握ってた。
その後を付いてくる樹も怖いから、オレの手かシャツを掴んで一列になって進んで行ったんだよ。
真っ暗なお化け屋敷の中。
お互いの姿も見えなくて、握っている手だけが確かな信頼の絆だったんだ。