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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all. 2 1995年 夏 亘編
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逢いたいが情、見たいが病7 Love longs , and longing aches.

 正門から紅緒に手を引かれ、ゆるい坂を下へ降りていく。

 降りた所で、ようやく横に並ぶことができた。


「川越街道に出たら良いんだよね」

 手を繋いだまま紅緒が言う。


「出たらそのまま道なりで行けって、田中が言ってた」

 へー、と言いながら紅緒が体を寄せてくる。

 いや、僕の方が紅緒に寄せたのかと横を向く。


「あのね」

「あのさ」


 思わず手に力が入ってしまった。

 紅緒も握り返す。


「何、先に言っていいよ」

「う、うん。あのね、来週崇ちゃんと直ちゃんの誕生日でしょ。だから」

 ああ、そうだ。

「うん。誕生日プレゼント帰りに一緒に買おうか」


 紅緒が嬉しそうに笑う。

 そうか、直樹も一緒に祝うんだ。


「良かった。じゃ、ロフトに行かない?」

「いいよ」

「池袋なんて久しぶりだから、行ってみたかったんだ」

 へぇ、意外だな。

 池袋なんてしょっちゅう行ってるのかと思ってた。


「実用的なのを崇直は喜ぶと思うよ」 

「そうなのよ。だからわーちゃんに手伝ってもらおうと思ってさ」

 そう言ってまた肩をぶつけて来た。

 ばかやろう。

 そのまま抱きしめてしまうぞ、本気だぞ。


「でね、崇ちゃんの誕生日が終わったらトールちゃんとデートなんだ」 

 は?

 平川先輩と、デート?

 何照れてんだよ、紅緒。

 おい。


「いつもね、美味しいお店連れて行ってくれるんだ。だからお礼も一緒に買おうと思ってさ」

 デートにお礼は要らんだろう、普通。

 いつもって、おまえまさか。


「どうして礼するの、先輩とデートするんでしょ」

「え、だってご飯遠慮なく食べたいじゃない。でも、トールちゃん割り勘嫌うから」

「そりゃ、そうでしょ。あの人かなり稼いでるんだから全額払うの当たり前だよ。遠慮も要らない」

 何だよそれ。

 紅緒と食事するのにそんな気を遣わせなくても。


「わーちゃん、何怒ってるの」

 怒って……。

 

 うわぁ、僕何嫉妬してんだ。

 はずかしいっ。

 みっともないなぁ。先輩相手に。


 街灯のない所で良かった。

 めっちゃ顔が暑い。 


「怒ってなんか、いないよ。ただ、先輩が」

「取ったりしないから、心配しないで。食事の後お店に一緒に行くの、週明けにお店で顔を合わせる人がいるんだって」


 は? 別に先輩の心配なんてしてないよ。

 誰に取られるってんだよ、な。


「気になるなら時間合わせてお店に来れば? いっちゃんも居るし私も居るし。カウンターだけどお酒も飲めるよ。トールちゃん持ちで」

 そう言うと向こうの橋の欄干まで僕の手を引いて走っていく。

 川風が気持ち良さそうだ。


「流石に歩くと暑いな」

 そう言って、顔のほてりをごまかす。

「わーちゃんも暑かったんだ」


 紅緒の顔も火照ったようにほんのり赤くなっていた。


 第3章 Grasp all , Lose all.2 1995年 亘編 夏 終

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