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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all. 2 1995年 夏 亘編
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逢いたいが情、見たいが病4 Love longs, and longing aches.

 初めて来たビストロは予想外に落ち着いた雰囲気で、隠れ家的なレストランじゃないか。

 へぇー。

 紅緒も興味深げに店内を見回している。


 田中は常連のようで、そのお陰か予約なしでもテーブル席、それも良い席を案内してもらえた。

 これはラッキーだ。

 奥に紅緒が、続いて僕が席に座る。

 紅緒の向かいに崇直、僕の前に田中が座った。


「おじゃましてまーす」


 厨房に向かい田中が挨拶をする。カウンターからシェフらしき人が笑顔で応えていた。

 異国感のある黒のコックコートに、フランス国旗色のネッカチーフ。

 店内もフランスの香りが漂う飾り付けが施され、なかなかにお洒落な店だ。

 これって、シェフの趣味かな。


 早速ギャルソンがメニューを持って田中の左に立ち、今日のおすすめなんかを説明している。

 合わせるならハウスワインらしい。


 オーダーを済ませたのを見て、崇直が田中に予算内で大丈夫かと確認してる。

 その様子を見てると、崇直らしいなぁと思わず顔がほころぶよ。

 田中もそこは分かってるのか、自信満々に親指を立てて笑っていた。


 ガルバンゾー(ひよこ豆)とホタテのサラダが運ばれてきた。二種類のサラダって、良いセンスしてるなぁ。


「ガルバンゾーだ。べー、崇直、この豆美味しんだよ」


 そう言ったら田中が嬉しそうにサーバーを手に、取り分けてくれた。


「フムスなんて最高だよね」


「みてみて、わーちゃん」


 紅緒が取り分けられた皿を僕に見せる。


「このお豆、ホントぴーちゃんににてるよね」


 右手にナイフ左手にフォークを握ったままだ。

 食う気、満々だな。

 

 サラダを食べ終わるタイミングでメインがやって来た。

 子羊のロースト、骨付きラムラック(子羊の背肉)だ。それに豚ロースの煮込み、ブイヤベース。

 豚はトマト煮、ああプロバンズ風に仕上げてあるのか。

 初夏って感じだな。

 ブイヤベースはホウボウが贅沢に一匹入ってる。


 僕はこのチョイスで、田中がとても好きになった。

 貝好きな紅緒のために頼んだブイヤベース、腹減ってるだろう男性陣へは肉料理。

 しかも女性受けの良いラム肉を選んだ辺り、本当に常連客なんだなと分かった。

 ラムはなんてったて崇直の好物だしな。


 あ、そうだった。田中は直樹の親友だったんだ。

 変な勘ぐりして、ちょっと自己嫌悪だな、こりゃ。

 直樹、ごめん。


「予算は一人二千円以内だぞ田中」


 豪華なメニューに崇直が慌てたようだ。


「そんな心配しなさんなって。予算内に収まっているから」


「フランス料理なのに?」


「そうだよ、べーちゃん。ビストロだからね。そうそう、ここの子羊は絶品だから、ちょっと待って」


 ラムラックを上手に切り分け、田中がサーブしてくれた。

 もしかして、ここでバイト経験あるのかな。

 卒なく人数分を取り分け、早速いただく。


 あ、この味。

 両親とフランス旅行先で食べたラムラックと同じ味だ。

 フランスから取り寄せてるのかな。

 それともたまたま手に入ったのか。


 また、田中が残りの料理を取り分けてる。

 この人、思った以上に世話焼きだなぁ。崇直といい勝負だ。

 紅緒の皿にはアサリがてんこ盛りときた。


 料理はどれも美味しくて、気がついたら全部食べていた。

 お腹いっぱいで、幸せな気分になる。

 思わず息が漏れるよ。


 店内を見渡すとシェフがテーブルを回っていた。


「今夜はご来店ありがとうございます。お味はいかがですか」


 紅緒がちょうど最後の一口を食べたところだ。


「美味しかったです。特にブイヤベース、アサリがいい出汁出てて、身も大きくて」


「ありがとうございます。アサリは昨日から砂抜きしてしっかり臭みも取りました。お口にあって良かったです」

 

 シェフはそれぞれに柔和な笑顔で話しかけてくれた。


 崇直が得意のスマイルで対応してる。


「全部美味しかったです」


「川崎さん、この笑顔のステキな彼が同期の笠神」


 あはは、笑顔のステキな彼は受けるわ。田中、ナイスな紹介。


「ラ・シェットのシェフをしてます、川崎晃義(かわさきあきよし)です」


 そう言ってシェフが腹に手を添えて、お辞儀をした。


「笠原崇直です。豚ロース最高でした。柔らかくて、濃厚でコクがあって、そしてキレもあって」


 おいおい崇直、それじゃ棒読みだよ。 


「それは、ありがとうございます」


 ほら、シェフも笑いこらえてるぞ。


「で、こちらの女性は俺の後輩庵野紅緒、そして奥が二人の友人日向くんだ」


「日向亘です。アニョー(子羊)は、やはりフランス産の……」


 え、何で急にみんな黙るの。

 僕、変なこと訊いた?

 だって、ラムラックって?


「ええ、ブレス産のお肉を使ってます」


 やっぱり。

 あの時と同じ味だったから確かめたかっただけなんだが、そこ突っ込んじゃダメだったのか?

 崇直が睨んできた。

たいへん遅くなりました。

いつも最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

この調子だと、週1回更新ペースになりそうです。

ラストまでお付き合いいただけると嬉しいです。

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