表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all. 2 1995年 夏 亘編
37/62

逢いたいが情、見たいが病2 Love longs, and longing aches.

 屋上に上がると、ちょうど崇直たちが奥の展示場から出てくるところだった。

「そっち何かあるの」

 紅緒が握った手に力を込めた。


「あ」 

 もう一度握り直すように僕の手を掴み、引っ張るように崇直の方へ連れて行く。

 場合によったらその先の展示場へ行く気だな。


「マンボウだよ。珍しいだろう、オレら席取っとくから行ってくれば」

 と田中が展示場を指しながら応えた。

 崇直が半笑いで僕を見る。

「あれま、手なんか握ちゃって。行ってくれば? 先行っとくから」


「あ、うん」

「行くよ、わーちゃん」

 うわっ、紅緒引っ張りすぎ。

 それじゃ嫌がる子供を連れて歩くお母さんだよ。

 

 後ろで崇直がゲラゲラ笑っているのが聞こえた。

 うーーーっ。

 崇直のやろう、昔のことまだ覚えてやがったか。

  

 屋上のすみに設けられた特別展示水槽。

 そのスペースは薄暗く、通路に沿って巨大な水槽があった。

 薄い膜が何枚もカーテンのように水槽の中に垂れている。

 水流のせいか、ゆらゆらと揺れて今にも何かが出てきそうだ。

 何だこれ。


「見て、わーちゃん。マンボウだ」

 その垂れた膜を縫うようにコレまた巨大なマンボウが現れた。

 薄暗い中、銀色の巨体が浮き上がる。


「マンボウって、明るいのダメなんだって。水槽にぶつかって怪我するから膜で保護してるって書いてある」

 そう言って僕を見上げる。

 

 やばいっ。

 そのまま抱きしめてキスしそうになった。

 いや、すればよかったのか。

 今なら、誰もいないよ、な。


「わーちゃん、どうかした?」

 紅緒、ごめん。嫌だったら突き飛ばしていいから。

「直ちゃんの5年祭の時、迎えに来ていた女の人」

 え。

 伸ばしかけた手を止める。


「きれいな人、上の駐車場に来てたでしょう」

 紀和さんだ。

「うん」


 あの日、午後から伊豆へ旅行に行く予定で車で迎えに来てくれてたんだ。

 そうか、見られてたのか。

 


「私とこんなことしてたら、あの人にわーちゃん怒られるかな」

 と腕を曲げ握った手を僕に見せた。


 何言い出すんだよ。

 心臓が止まるかと思ったじゃないかよ。


「いや、大丈夫というか、もう別れたから」

「えーーっ、また上手く行かなかったの」

 おまえが言うか! 

 このやろう、その口終いにはキスするぞ。


 握る左手に力を込め、引き寄せた。

 間近に紅緒が顔を寄せてくる。

 

「慰めてあげようか。泣いてもいいよ。胸かしてあげる」

「……いらねーよ、バカ」


 強がっちゃって、と思いっきり突き飛ばされた。

「どーせ、フラレたんでしょうが」

 と今度は背中をしばくしばく。

 いてーよ、普通に。


「うるさい」

「一晩中泣いたんじゃない?」

「フラレたくらいで泣くか」

「えー、あたしだったら一月は落ち込むな。ずーっと引きずって泣いちゃう」

 嘘をつけ。

 お前はフラレたことなんかないだろうが。

 

 違う。

 フラレるより辛い目にあったんだった。


 今笑っている紅緒は、直樹のことを忘れたわけじゃない。

 心に秘めてるだけだ。


「うひゃっ、外は眩しいね、わーちゃん」

 外に出たら、西日が目を刺してきた。 

「西日って眩しいんだな」

 

「いっけない。アシカのハナコが待ってるよ。急げーっ」

 と、また僕の手を握って紅緒が走り出した。

 この手を話したくないと、強く思った。 

 月曜更新です。

 亘くんが、頑張ったんですがね。

 後一押しが、無理でした。

 紅緒も誘ったんですがね、気がついちゃあもらえませんでした。

 あーあ、と思ったらリアクション、⭐️で教えてください。

 それでは。

 次回は水曜日を予定してます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ