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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all. 2 1995年 夏 亘編
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草刈る山路が笛の音6 Every step you take my eyes follow.

亘のフラレ話に脚色加えました


 数メートル先を紅緒と田中が歩いてる。

 なんだか楽しそうに、高校時代の部活の話でもしてるのだろうか。

 君らの高校時代もバスケの話も、僕は知らないけど。 


「亘」


「うん」


 崇直もずっと前を見たままだ。こいつも前の二人が気になってるのかな。

 

「もしかしてあれか。また、女と別れたのか」


「ゔげっ」


 崇直、おまえはどうしてそういうところ、鼻が効くんだよ。


「せ、先週別れた」


「やっぱり。けっこう長く付き合ってたよな」


「1年くらい。でも、もう要らないって、先週見事捨てられました」


 そう言ったら、崇直は心底憐れむような顔で僕を見て、やれやれとばかり首を振った。


「捨てられたとか、何言ってんのおまえ」


 え?


「他人に戻っただけ。捨てられたんじゃない。そんな人だったか?」


 他人に戻っただけ。


「飽きられたんだと思ってた」


「飽きられたんならそれでいいけどさ、物みたいにおまえを扱う人だったかって訊いてんの」


 僕は首を振る。

 紀和さんは、そんな人じゃない。


「違うよ。そんな人じゃない。紀和さんは……」


 僕、紅緒をダシにごまかしてたのか。

 

「それで酒呑んだのか?」


 違う違う。慌てて首を振る。

 そこでまたまた紀和さんとの別れ話を、紅緒のことは濁して崇直にまで話すことになってしまった。

 先輩に大笑いされたくだりまで、喋っちゃったよ。


「寧ろ良かったんじゃないの、平川さんに話して。笑い飛ばしてくれたんだろう。無事失恋乗り越えたんじゃね」


 失恋!

 僕、紀和さんのことそんなに好きだったのか。

 彼女が言う通り、正面から向き合わなかったくせに。

 勝手なもんだなぁ。

 最低じゃないか、僕。


「そりゃ、フラれたら誰だって辛いし悲しいからな。引っ越しまでされちゃ、諦めるしか無いわな」


 あ、そこはね自分でも何と言うか。

 最低な奴って気づかせてくれてありがとうよ。

 はーっ、ため息がまた出ちゃうよ。


「確かに、面白い人だわ。オレだって笑うよ。その話」


 今更思い出し笑いすんなよ、もう恥ずいじゃないかよ。 


「確かに、崇直にまで笑われて、お陰で吹っ切れたよ」


 いい加減な気持ちで女性と付き合うものじゃないって、良く分かったよ。

 

「ん。じゃ、また別の子……」


「嵩ちゃーん!」


 先を行く紅緒が振り返り、大声で崇直を呼んでいる。


「入口ここで良かったっけ」


 声、デカ。


 ああ、もうと、崇直が叫ぶのが面倒なのかゼスチャーで返している。


「何急いでるんだベーのやつ」


 崇直が、行くぞと走り出す。

 高架橋下の入口から入り、突き当り手前のエレベーターホールまで行ってみたら。

『世界の毒毒猛毒展』という大きなパネルが展示されてあった。

 それもヤドクガエルの巨大写真付きだ。


「わーちゃん。どうしよう、ヤドクガエル来てる! テレビでやってたんだよね。生で見られるよ」

 

 その横に、あった! 豹紋蛸の写真。

 めちゃ可愛いっじゃん。


「べー、豹紋蛸も居るぞ。マンバは無理だとしてもアダーあたりは来てて欲しい。あ、ブラック・ウィドウは居るんじゃね」


 興奮してきた。昔を思い出すなぁ。神社の湧き水の辺りでアカハライモリ見つけて、卵孵したよな。

 カエルの卵も、何匹孵したか。


 僕らはエレベーターから降りると速攻でチケットを購入し、呆れる崇直と田中を尻目に特別展示室のある2階の階段を駆け上がった。


「うわ〜、綺麗」


 紅緒が悲鳴にも似た歓声を上げる。

 だよな、この色はずるいよなぁ。


 コバルトヤドクガエルは、本当に綺麗な青い色をしてるんだ。

 大きさなんて僕の指先程度なのに、その毒たるや像さえ即死させるのだからゾクッとするよね。

 キューブ型の水槽内ジャングルに、隠れるように佇んでいる青いカエル。

 濃い緑の中、しっとりと霧が降る下生えにちょこんと佇んで、そこから見える世界って一体どんなんだろう。


 何匹か入ってるらしいが、手前の一匹しか見つけられない。


 紅緒と一緒に探していたら、崇直がやってきた。


「いたいた」


「やっと来た。ほら、コバルトヤドクガエル」


 紅緒の隣を譲ってやる。


 おお、と崇直もこの小さなクリーチャーに目が釘付けだ。


「田中が爬虫類系ダメなんだって」


「え、ナオト先輩そうだったの」


「足は多くても無くても無理らしい」


「虫もダメなんだ。ざんねーん」


 と言いつつ、紅緒は特に気にするでもなくヤドクガエルに夢中だ。

 君はそうでなくっちゃね。


 僕はそんな紅緒を対面からガラス越しに眺めていた。紅緒の顎のあたりに、コバルトブルーの小さなカエル。

 誰もヤドクガエルから目が離せないよな。

 色も造形も、特別だもんな。


「なので、屋上のアシカショーで落ち合おうぜ。後1時間はあるから好きに見て回ってくれ」


 じゃ、と崇直が水槽から離れるのがガラス越しに分かった。


「オーケー。バイバーイ」


 僕らはカエルから目を離さないまま、崇直に手を降り再びコバルト色の生きた宝石に集中した。

 

「何匹居るんだろうね」


 そう紅緒に問いかけたら、右奥から勢いよく別の一匹が紅緒の顔に向かって飛び出してきた。

 紅緒の小さな悲鳴があがる。

 その姿があまりにあどけなくて、僕は吹き出してしまった。

 

 紅緒は恥ずかしかったのか、少しムッとした顔で僕を睨んできた。

 それで我慢できなくなった僕は、声に出して笑ってしまった。


「わーちゃんのいぢわる」


 はいはい。何とでも言ってください。

 やっぱり僕は、君が大好きだよ。

次回は金曜の夜に更新予定です。

さて、中身小学生コンビ、脱皮できると良いんですけど。


楽しんでいただけたらゼヒ⭐️でお知らせを。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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