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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
Fall between two stools. 1995年 春 崇直編
23/25

灰吹から蛇が出るⅦ Out of the blue comes green.


「シェフ、アニョーってなんですか」


 ナイス紅緒。亘以外みんな知りたいと思ってるぞ。


「失礼、アニョーは子羊のことです。今日は良いフランス産のアニョーが手に入ったので」


 うぇ〜、女性には営業スマイルで応えるんだ。

 亘の変なツッコミのせいで、とあいつを見たらオレを見て笑ってやがる。


「崇直はラム肉、好物だったよね」


()()()()()()のラムチョップね」


 このやろう、覚えとけよ。


「ここだけの話なんですが」


 え? 何だシェフどうした。


 頬に手を当て内緒話のようにオレの横で話しかけてきたから、自然とみんな前かがみになって聞き耳をたてた。

 

「いつもはニュージーランド産のラムなんですよ、実は」


 おいおい、何だか密談っぽくなってきたぞ、イイのかこれで。


「フレンチビストロなのに、ね」


と、ここで意味有りげに微笑む。

 

「でもクセがなくて、その上いい肉なんですよこれが。しかも安い」


 ですよねー。オセアニア万歳ッス。


「大事なのは食材を上手く調理することですか」


 と合わせるように、紅緒も頬に手を当てシェフに言う。


「そうです、そうです」


 腕で勝負よね、とでも言うように紅緒が腕を見せた。

 それにシェフが大きく頷く。

 わぁ、それキラースマイルだ。紅緒じゃなきゃ惚れちゃうところだゾ。

 

「ナイショですが、豚は千葉県産なんですよ」


 そうなんだ、と全員がこれには静かに驚いた。

 国産豚、最高ッス。


「では、デザートをお持ちしますね」


 今度は爽やかな笑顔で、あなたモテるっしょ、いろいろ。


「川崎さん、あ、シェフね」


 と田中がシェフが去った方に目線を投げ話しだした。


「W大の法科出てるんだよ。俺らと同じように現役合格したくせに、司法修習生蹴って調理師学校へ行ったんだ 」


 それまた急な方向転換で。

 司法修習生より調理師免許って、すげーなぁ。自由度高過ぎじゃね。


「料理好きが高じたとかじゃないんだよね、理由が」


「W大って、べーの先輩じゃん」


「あたしは法科じゃないよ、わーちゃん」


「知ってる。文転したんだって?」


「うん。第一文学部。来年は日本語の先生だよ〜」


 爬虫類の話は尽きないくせに肝心な情報はからっきしだな。

 二人で小一時間、何してたんだ。


「変わった人だろ」


 あ? シェフ?


「うん」


「良い顔してたからね。あの笑顔は良いわぁ」

 

 おお、言うねぇ紅緒くん。

 他の男も眼中に入るようになったってことか。


「お客様は神様なんて言われてるけど、本来は対等なんだよ」


 亘くん、対等(フェアー)精神、好きだよな。

 そんなこと言って、うかうかしてると鳶に持っていかれっぞ。


「デザートのイル・フロッタント塩キャラメルソースとラベンダー香るクレームブリュレでございます」


 紅緒と田中がイルフロッタント(メレンゲのデザート)、オレと亘がクレームブリュレを選んだ。


「わーちゃん、それ一口ちょうだい。あたしのも取っていいよ〜」


 もう食べる気でスプーンを伸ばしながら、自分の皿を亘の方へ差し出す。


「べー、サンキュー」


 あーあ、爬虫類で仲戻っちまったよ。

 お互いシェアしながら、仲良くまー腹の立つ。

 くそう、田中のヘタレが。ヘビくらい掴めよ、男のくせによぉ。


「笠神、俺の一口食ってもいいぞ」


「要らんわ」


 直樹よ、お前の親友はお前の親友だったよ。

 天を見上げたら、ベロを出した直樹にからかわれている様な気がした。

一日おきの更新で落ち着きそうです。

やっと田中が仕事をしてくれそうな気がしてきた。

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