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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
Fall between two stools. 1995年 春 崇直編
16/21

落花情あれども流水意なしⅥ The love to no avail.

「わーちゃんお代わり。ぴっかレモンがあったからレモン水にした」


 とーとつに割り込むなぁ、紅緒は。

 おまえ、それ以上かがむと中身見えるぞ。

 可愛らしい膝小僧出して、亘の隣りに座るんだ。

 だったらよく見ろ。

 亘の野郎むちゃ焦ってるの、気付かないのか。


「ああ、ごめん。倒れた拍子にお酒被っちゃって。勝手に借りちゃった。風呂場に畳んであったから」


 馬鹿みたいに口開けてんじゃないよ、亘は。何処見てんだよ、このスケベ野郎が。


「じーちゃんが嵩ちゃん呼んでくれたのよ。ちょうどこっちに用があって来てるはずだからって」


 正確には行く予定でした。ま、アポの相手はそれを忘れて寝てましたけどね。


「紅緒一人じゃ連れて帰れないだろ。樹じゃ役に立たんし。お前、でかすぎるから。まー爺はあの後別件で出かける用があって、お鉢がオレに回ってきた」


「そりゃ、すまなかった。紅緒も、迷惑かけて悪かったな」


 そんなに恐縮しなくても、いいんだけどさ。ま、そりゃ恥ずかしいよな。


「いいよ。わたしも何だかテンション上がっちゃって飛びついたから、ごめん」


 おっと、紅緒に肩で小突かれただけでまぁ、亘くんったら、何顔赤くしてるんだい。

 (うぶ)ですねぇ。

 そんなお楽しみのところ申し訳ないが。


「そろそろ樹が迎えに来るな」


 わざとらしく腕時計を見ると、亘が急に立ち上り頭を下げた。

 酔って潰れたのはこれが始めてじゃないが、紅緒が居たらそりゃバツが悪いか。

 コイツは平川さんの相手ができるウワバミ級だから、気にしても仕方ないんだが。


「今日はすまなかった。世話になったな、二人とも。ありがとう」


 亘がそう言ってオレたちを帰そうとする。樹も呼んで、一服とか無いんかーい。


「えーっ。もう追い出す気。ひっどーい」


 もっと言ってやれ紅緒。なんならお泊りもいいぞ。


「ベーは、泊まっていくか?」


「いくいくーっ」


 鳩が豆鉄砲食らったような顔って、正に今のおまえの顔だな亘。

 笑えるわ。


 もう少し虐めてやろうかと思ったら、タイミング悪く樹が来たようで呼び出し音が鳴った。


「ほら、迎えが来たぞ」


 何だ、シラケるな。ホッとしたような顔しやがって。


「忘れ物すんなよ〜」 


 渋々と言った体で、紅緒が服を入れたゴミ袋を引っ提げる。


「ゴミ袋Ⅰ枚もらったよ」



「それ、置いてけ。クリーニング僕が出すから」


「いーよ。どうせ他も出すから」


 莫迦か亘、おまえ。その中にはストッキングとか下着類も入ってんだよ。そんなもん渡せるか。

 つーか、おまえに見せるかオレが止めるわ。

 

 おっと、荷物持ったまま片足あげっから。

 紅緒の二の腕を掴んでバランスを取ってやる。


 ん?


 しゃがんだ紅緒の何処を見てるんだ。あ゙ぁ゙?

 残念ながら、そっちからじゃ中身は見えませーん。


「わーちゃん、明日休みでしょ。トールちゃんが言ってた」


「平川先輩は」 


 おお、やっと思い出してきたか。お前さんの上司だろ。


「平川さんなら、まー爺に連れられて出かけていったよ。心配ご無用って伝言頼まれてた」


「なんで……」


 オレと平川さんが知り合いって知らなかったのか。

 へぇー。


「樹と卒業まであそこでバイトしてたんだ。蝶タイ結んで、兄弟仲良くな」


「嵩ちゃんって、女性会員の人気すごかったのよ。じいちゃんは女性目当てで『オレの孫ハンサムだろう』って喜んで連れ回してた」


 お姉さんたちと握手するのがまー爺の若さの秘訣だからな。

 さて、エントランスに出たらさっさと紅緒を帰して、と。

 

「ここで、いいよ」


 どうぜオレは戻ってくるし。エレベータまでで充分。


「下まで行くよ」


「ここで良いって。じゃ、また」


「わーちゃん、また明日」


 名残惜しそうな顔しやがって、待ってろや。

 オレ様が戻ってきてやるから。 

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