落花情あれども流水意なしⅤ The love to no avail.
「さっきから臭ってたんだが、べーやっぱ酒臭いぞ。お前も着替えてきたら」
持ってきた着替えを亘の上に放り投げる。
紅緒は、えーっとか言いながら、着ている服を嗅ぎはじめた。
後ろを向いたら、背中に明らかなシミが。
「お前、倒れた時背中に何かかかったんじゃね? シミ付いてっぞ」
「あ、そーだ。誰かのグラスが背中に当たったワ」
「風呂場行って洗ってこい。その辺に着るもの何かあるだろ」
紅緒がうへぇーくっさぁ、シミ取れっかなとブツブツ言いながら風呂場に向かう。
直ぐ洗えば大丈夫だろ。
ちょうど着替えさせ終わったころ、目論見通りの格好で紅緒が戻ってきた。
きゃっは。
あいつ、オレと居ると警戒心ゼロになるからな。
素肌にTシャツに濡れ髪って、風呂上がりのそれだなその格好。
「シャワーの操作間違えたろ」
髪が部分的に濡れている。カランとシャワーを間違えたに違いない。
「レバー下げたら上から降ってきたからビックリよ。使ったらカランの方に戻してほしいよね。わーちゃんメ」
といいつつ、洗ったらしいワンピースを突き出した。
「一応、つまみ洗いしといた。落ちてるとい良いんだけど」
「キッチンにゴミ袋あるぞ」
「あっ、それナイスアイディア。ついでに水持ってきてあげようっと。嵩ちゃんも何か飲む?」
人ん家だか自分ン家だか。おまえ、遠慮って言葉知ってるか?
「オレも水で」
「オッケー」
ひさしぶりのわーちゃん家ぃ、とか言いながら紅緒のやつがはしゃいでやがる。
無邪気な顔で笑いやがって。
直樹、こいつはちゃんと前見て生きてるぞ。
おまえ、きちんと上から見てんだろうな。
紅緒が両手にグラスを持って戻ってきた。
ローテーブルに置くと、膝たちで亘の様子を伺ってる。
亘のシャツがオーバーサイズ過ぎてまるで子供みたいと言いたいところだが。
紅緒のやつは170はあるからなぁ。ちぃと、でかいワ。
「あ、寝言言ってる」
どれどれ。
「……たかお、じゃますんな」
あ゙ァ゙? おまえ、夢ン中で何してんだよ。
「小6男子は……したよ」
「小6男子がどうしたって?」
その途端、亘の目が開く。
やっと起きたか。何だ? そんなに驚くことか。
「わーちゃん、気分悪くない?」
起き上がった亘に紅緒が声をかける。
おーおー、目を白黒させちゃって。鼻血は出すなよ。
オレのホンの心尽くしだ。
ただし見るだけな。
見るだけ。
「お水飲む?」
紅緒の手からひったくるようにしてグラスを取り、一息で飲み干した。
あれま、そんなに美味かったかいその水。
「お代わり持ってくるね」
おーっ、莫迦がガン見してやがる。何処を見てやがるんだ、お゙ぁ゙?
引き締まった足首か。それともきれーな膝小僧の上にチラ見える太腿か。
膝上で一度引き締まっている脚の持ち主なんて、レアだからねぇ。
紅緒の脚線美は特級なんだよ。オレが見ても惚れ惚れするくらいだからな。
何時まで見てんだ。
コノヤロー。
「ベーを抱きかかえたままひっくり返えったって聞いたぞ」
ことさら剣呑に言ってみた。
すると、まぁ慌ててオレの方を見るじゃないの。しかも頬が赤くなってる。
まーそれが一般男子の反応でしょうが。
「おまえ、モヒート一気した後続けてウイスキーも空けたって、頭湧いてんのか」
「モヒートまでは、覚えてる」
おや、拗ねましたか。
「ウイスキー、ダブルのロックだって樹が言ってた。『わーちゃんって意外とお酒弱いんだ』って笑ってたぞ」
何、バツの悪そうな顔してんだよ。
酔うと寝るのはデフォだろう。だからいつも宅飲みしてんだろうが。
大股で亘の前を横切り目の前のソファに勢いよく腰かけた。脚も組んじゃう。
「……樹め」
と亘が恨めしそうに言ってる。
確かに一緒に飲んでいた相手が悪かったな、亘。平川さんとおまえじゃ話にならんわ。