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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
Fall between two stools. 1995年 春 崇直編
14/21

落花情あれども流水意なしⅣ The love to no avial.

 三人で亘の部屋に行くのって、何年ぶりだろう。

 直樹が死んで以来だから、紅緒は5年は行ってないのか。


 紅緒は両親を早くに事故で亡くしている。

 その事故で紅緒自身も事故以前の記憶を一部失っていた。

 亘も中学で両親を亡くしている。


 そしてオレは双子の弟(魂の半分)を病で。

 あれ以来、何をしてもぜーんぶ裏目に出る。

 あいつさえ生きてたら、と詮の無いことばかり考えてしまう。

 くそっ。


 オレと紅緒はハトコとはいえ、血は繋がっていない。

 戦時中のゴタゴタで、戦災孤児だった家の爺さん(輝爺)が笠原家へ養子に来たからだ。

 跡を継ぎたくなかったまー爺は、これ幸いと神社を兄になるオレらの爺さん(輝爺)に押し付けたらしい。


 そのせいかは知らないが、俺等の家は隣同士と言うより同じ敷地に建っている。

 母屋にオレら家族が、新宅にまー爺一家が住んでいる。


 紅緒は両親が亡くなってから中学まで家で暮らしていた。

 まー爺たち夫婦は仕事で帰りが遅いうえに、家を空けることが多いからだが。

 それより、母親が紅緒の母と友人だったことと、娘を欲しがっていた事が大きいけどな。


 さて、降りる準備しなきゃ、だ。

 またこいつを背負うのか。

 やれやれだ。

 鼻先を腹たち紛れに指で弾いてやった。


「うわっ、痛そう」

 

 紅緒が代わりに痛そうな顔をした。

 当の本人は顔を一瞬歪めたが、また寝息を立てて知らん顔だ。


「嵩ちゃん、チケットもらってるから、大丈だよ」


 オレが財布を取り出すと、紅緒がそう言って微笑む。

 紅緒が店からもらったタクシーチケットをバックから出し、運転手に渡す。

 さてと、もうひと踏ん張りがんばりますか。


  ハイヤーから再び亘を背中にかかえ、マンションのエントランスに入る。

 入口の暗証番号を押してドアが開くと紅緒が先に走って、エレベーターを呼びに行った。

 左にオレのリュック、右に亘と自分のバッグを下げてるのに、フットワーク軽いなぁ。

 オレのは白表紙に資料突っ込んだから、かなり重いはずだが。

 あいつも、見かけによらず力強いなぁ。


「べー、エレベーターの鍵、亘の鞄に」


「オッケー」


 オレのリュックを軽く揺すって肩にかけ直し、亘の鞄を胸に抱えて中に手を突っ込んだ。

 亘は最上階に住んでいるが、このエレベーターはボックスの解除キーを使わないと最上階へ行けない仕様になっている。

 紅緒がキーホルダーを出し、鍵を刺した。

 最上階(ペントハウス)のボタンが点灯し、逆に他の階のライトが消える。


「毎回これやってるんだ、わーちゃん。めんどくさくないのかな」


「家の鍵開けるのと同じ感覚じゃないの」


「家にエレベーター無いよ普通」


 用がなくても最上階に興味があるやつは居るからな、用心なんだろうが。

 絶対面白がって作った気がしてんだよな。要人用のセキュリティモデルとかなんとか。

 まー爺ならやりかねん。


「あ、着いた。先、玄関開けとくね」


 紅緒にドアを支えてもらい、中に入る。

 そのまま三和土に降ろしてやろうかとも思ったが、紅緒が甲斐甲斐しく亘の靴なんか脱がすから中まで連れて行ってやることにした。

 うーん。

 やっぱりムカつくので、リビングの長椅子(カウチ)に背中から倒れ込んでやる。


「嵩ちゃん、お疲れ〜」


 ふぅ。あー肩凝ったぜ。

 しばらく亘の上で体を休めて、起き上がる。

 こいつは着替えさせたほうが良いのか、やっぱり。


「亘の着替え見繕ってくる」


「うん」


 脱衣所のリネン室にパジャマとか入れてあったよな。

 中に入ると今朝脱いだと思われるシャツと短パンが無造作に、洗濯機横の棚に脱ぎ捨ててあった。

 ふーん。

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