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あぶはちとらず  作者: 井氷鹿
第1章 Grasp all , Lose all. 1 1995年 春 亘編
11/65

本木にまさる末木なし5 The first is the best.

 ベーを抱えて寝落ちしたのが気に障ったのか、ご機嫌が悪そうだ。


「わーちゃん、お代わり。レモン水にしたよ」

 紅緒が戻ってきて、グラスを手渡すと隣にストンと腰を下ろす。

 おい、その生足をどうにかしろよ。お前、頭ン中まだ小6男子かよ。


「ごめんね、倒れた拍子にお酒かかっちゃって、勝手にシャツ借りちゃった。お風呂場に畳んであったから」

 そこじゃねーよ、バカか。その恰好で帰る気かよ。

 しかもそれ、僕が今朝脱いだやつだよ。

 こっちが赤面するから、マジ勘弁してくれって。


「じーちゃんが崇ちゃん呼んでくれたのよ。こっちに帰るはずだからって。わたし一人じゃ連れて帰れないでしょ」

「お前でかいしな。樹じゃ役に立たんし。まー爺は別件で出かけて、お鉢がオレに回ってきた」

 あ、そういうことだったのか。

 


「すまん。紅緒も迷惑かけたな」

「いいよ。わたしもテンション上がって飛びついちゃったし、ごめんね」

 と、肩で小突いてきた。

 おいおい、下着見えるだろうが。

 少しは恥じらいってものが無いのかよ、ったく。 


「そろそろ樹が迎えに来るな」

 時計に目をやり、崇直が言う。


 助かった。早く来てくれ、樹。生足も限界だ。

「今日はありがとう。助かったよ、二人とも」


「えー、もう追い出すの? ひどーい」

「泊まっていくか?」

「いくいくー!」

 やめろ崇直、何言い出すかと思えば、まったく。


 そこにタイミングよくインターホンが鳴る。

 ナイスだ樹。


「ほら、迎えが来たぞ」

 さあ、帰れお前ら。

「忘れ物すんなよ〜」


 紅緒がゴミ袋に着替えを詰めたのを引っさげて、僕に見せる。

「ゴミ袋一枚もらったよ」


 いーよ、そんなもん。いくらでも持ってけ。

 それより、早く帰れって。


「それ、置いてけ。クリーニング出すから」

「いーの、他も出すから平気」


 ローヒールをつっかける紅緒を、崇直が支えてる。

 平然としてるな。兄妹みたいなもんだもんな。

 こっちは眼福過ぎて、目のやり場に困ってるんだが。


「わーちゃん、明日休みでしょ。トールちゃんが言ってた」

 トールちゃんって、先輩か。

 あ、先輩――置いてきたんだっけ。

 すっかり忘れてた。


「先輩は?」

「まー爺に連れられて出てったよ。心配いらんって伝言頼まれてた」

「なんで知ってるんだよ」

 だから、どうして先輩が崇直を知ってるんだよ。


「卒業まで樹とオレもあそこでバイトしてたんだ。蝶タイ結んで。兄弟仲良く、な」

 と紅緒を見る。

「崇ちゃん、女性会員にすごく人気だったのよ。じいちゃんが『オレの孫イケメンだろ』って自慢して回ってた」

 まー爺、元気だな…。


 玄関先の専用エレベーターホールまで来たら、崇直が言った。

「ここでいい。じゃあな」


 え、ここでって。

「下まで行くよ」


「ここで、いいって。じゃ、また」

「わーちゃん、また明日」


 紅緒がドアが閉まるまでニコニコで手を振る。

 見送る身にもなれよ。

 崇直もあっさりしすぎだぞ。

 崇直に泊まっていけって言えばよかったかな。


 ――ああ、しまった。

 紅緒を部屋に上げちまったよ…。


第1章 Grasp all , Lose all.1 1995年 亘編 春 終

亘編終了です。

よろしかったら評価していただけると、とても嬉しいです。

最後まで読んだよーというお知らせ★よろしくです。

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