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父を殺さざるを得なかった日

父を背負って走った夜、

誰も助けてくれなかった。誰も、彼の声に耳を傾けなかった。

そしてアキラは、人生で最も残酷な選択を迫られる――。

これは、心が壊れる夜の物語。

「なんで……なんでいつも俺ばかり……」

アキラは頭を抱え、心の中の声が止まらなかった。

「普通の人生がほしいだけなんだ。母さんと父さんと一緒に、他の人みたいに笑って生きたかった。でも運命は、また俺を地獄に引き戻す。もう消えてしまいたい……」


その時、鈍い音が響いた。


振り返ると、父が倒れていた。水を求めるように手を伸ばしていたが、力尽きて床に倒れ込んでいた。アキラは慌てて駆け寄り、頬を軽く叩きながら叫んだ。


「父さん! 父さん……大丈夫!? 聞こえる!?」


返事はなかった。父の身体は力なく沈んでいた。


アキラの胸に、恐怖と焦りが一気に押し寄せる。必死で抱きかかえようとしたが、父の身体は重すぎた。それでも歯を食いしばり、玄関の靴棚まで引きずったが、限界が来て2人とも倒れ込んでしまった。アキラの頭が棚に激突する。


頭から血が流れ、右目を覆い、目元のほくろが赤く染まった。


だがアキラは気にしなかった。


再び立ち上がり、父を背負って玄関のドアを開ける。階段を駆け下り、近くの病院へと走った。


「どうして……どうして俺の人生は、いつもこんなに暗いんだ……。一度くらい、明るくなったっていいじゃないか……」


その時、父の言葉が頭に浮かぶ。


> 「もしもの時は、親戚に連絡して助けを求めろ」




でも、アキラはかつてこう返していた。


> 「何かあっても、俺はお前を見捨てる。勝手に死ねばいい」




その言葉が、今は苦しく胸に響いた。


ポケットから携帯を取り出し、親戚に電話をかける。だが、誰も出なかった。


「……クソどもが……」


ようやく最寄りの病院に着くが、警備員に止められる。


「お願いです! 父が倒れてるんです、助けてください!」


だが警備員は首を振った。「すまないな、坊や。ここは夜中の0時45分だし、うちは機材も整ってないんだ」


そして北方向を指差し、「あっちにある病院へ行ってごらん。まっすぐ行って左だ」と教えてくれた。


アキラはまた走った。倒れても、起き上がって走った。自分のためじゃない、父の命のために。


次の病院に着いたが、またも入口で止められる。


「ここには入れない」


「お願いします、父が死んじゃうんです……!」


しかし、アキラの血まみれの姿に警備員は眉をひそめた。


「お前……どこかの不良とケンカでもして逃げてきたのか?まさか、演技じゃないだろうな?」


アキラはひざまずき、警備員の足にすがりついた。


だが――警備員はアキラを突き飛ばし、腹を蹴りつけた。


「さっさと出て行け! でなきゃその親父をぶっ叩くぞ!」


病院の前には人が集まり始め、囁きが広がる。


「なぁ、あいつ喧嘩で逃げてきたんじゃね?」

「いや、親父を殺そうとして、今さら助けるフリしてるだけかもな」


アキラはその声を全部聞いていた。


父をそっと地面に横たえ、アキラは膝をついて叫んだ。


「お願いだ……誰か、父を助けてくれ……! お願いしますっ!!」


誰も動かなかった。


その時、群衆の中から声が上がった。


「この近くに病院があるよ! 右へ行けばある! そこならきっと助けてくれる!」


迷わず、アキラは再び走った。


今度は受け入れてもらえた。父はすぐに手術室へ運ばれた。


アキラは外の椅子に倒れこみ、目を閉じた。


浮かんだのは、幼い自分――病室のベッドに横たわり、父がその小さな手を握ってくれていた光景だった。


「父さん……」


場面が変わる。


医者が父の前に立ち、告げる。


> 「残念ですが……奥さんは助かりませんでした。クロバラさん……」




アキラの父は崩れ落ち、泣き叫ぶ。


> 「どうして俺を置いて行ったんだ……! あいつに“母さんはどこ?”って聞かれたら、俺はどうすればいいんだよ……!!」




アキラは現実に戻った。椅子に座り、両手で顔を覆いながら、声を上げて泣いた。



---


しばらくして、医者が出てきた。


「アキラさん、中へどうぞ」


アキラが部屋に入ると、医者は静かに話し出した。


「お父さんは現在、昏睡状態です。強いストレスと心的外傷によるものです。…治療を継続するには、資金が必要ですが……ご用意できますか?」


「ありません……」


「では……“安楽死”も一つの選択肢です。薬や治療費を含めると、毎日大きな費用がかかります。総額は1億円を超える可能性もあります。もし死亡後に臓器提供を希望されれば、そこからいくらか費用を回収することも可能です」


アキラは迷った。


だが――頼れる人も、助けてくれる金もなかった。


ICUに入ったアキラは、静かに呼吸する父の胸を見つめる。


その手は、機械に繋がれていた。


アキラは、ゆっくりと――ベンチレーターのプラグに手を伸ばした。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

今回の章は、今までで一番つらく、感情を込めて書いた部分です。

孤独、絶望、そしてそれでも父を想うアキラの心が、少しでもあなたに届いていたら嬉しいです。

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