中古のグラボには手を出すな! じゃなくて……
AIの裏にある欲にまみれた世界へのご招待かな?
自ブログ用記事の転載です。
たぶん一昨年ぐらいからだが、AIという言葉がやたらとニュースに混じりだした。
そして昨年ぐらいから、このAIに関連の深い企業名として、Nvideaという会社名がしばしば登場するようになった。
私は自分の使うPCは昔から自作していたので、この企業の製品のことは割と知っていた。
そう、PCゲームオタクにはおなじみのグラフィックカードの二大ブランドの一つである。
本来プログラムという何もかもが0と1からだけでできているゲームが、与えられた条件通りの映像と音を提供できているのは、与えられた条件から関数によって導き出された解通りの映像や音声の出力信号が出力装置に出ているからで、短い時間に数百万とか数千万のドット分の計算をさせているわけだ。
視点や光の反射、透過なども計算させるような高度なゲームともなれば、コンピューター本体がこれだけでパンクするのは当然なので、そうならないように、CPUの方はもっぱらゲームシナリオの進行管理に特化させ、映像出力の計算の方はこのグラフィックカードに作ってもらっているわけである。
だからグラフィックカードというものは、一部のPCゲームにとち狂った頭のネジのぶっ飛んだ連中からは神と崇められているが、一般人からすれば単にゲームの画面を、よりリアルできれいなものにしてくれる贅沢な部品だ、ということになる。
なので、一般人の代表とも言える私のよう人間にとっては、主にエロい画面をよりエロくしてくれるための部品なのである。
しかし今、このグラフィックカード単品の市場を覗いてみると、異様な光景が広がっている。
パソコン本体の値段は昔と比べてもそれほど高くはなっていない。むしろ性能から言えば安くなったと言えるだろう。
ところがこのグラフィックカードについては次から次へと上限が書き換わる上級商品が投入され続けているのだ。
もともとは、パソコン内部のPCIスロットというところに差し込む回路基板だったので、グラフィックカードと呼ばれていたのだが、最新のハイエンドのものは、基盤そのものが、これ本当にPCケースに収まるんだろうかと疑わしくなるほど大きくなり、いまやファンが3基も並んでついていたりして、カードなんてとても呼べない外見となり、グラフィックボード(以下グラボと略)と違う名前に昇格したようである。
私の見るところ、今グラボの、これ以上の発展を阻害しているのは間違いなくPCケースのサイズの小ささと思われるため、近い将来ケース内蔵ではない、エクステンションユニット的存在になるに違いない。
なので名称も、もはやグラボではなく、グラフィックハウスとかグラフィックシップとかの新名称になると思われる。
大きさだけでなく価格も上限が爆上がり中で、これだけで立派なパソコンが買えるような値段をすでに突破している。そのうち電気自動車の値段も抜いてしまうに違いない。
いやいっそのこと、最初から電気自動車とグラボを合体すれば、移動も楽になるになるんじゃないか。どっちも電気を馬鹿食いするし、相性ぴったりだろう。
それにしても、たかがグラボ、なんでこうもインフレすることになったの?と疑問には思っていた。
いくらいいゲームがしたいからと言って、ここまで高騰するのはおかしいだろ、ってのが普通の態度というもんだろう。世の中絶対狂っている。
ある日のこと、一つの回答となる情報を得た。
暗号資産のマイニング、つまり新規暗号資産の生産にグラボが大活躍しているというのである。
暗号資産というのは自己完結する素数の並びみたいなもので、数が有限なのである関数に対応するものとして新たに一定の数のものを「生産」することが可能なそうで、その作業を鉱山開発に擬えて、マイニング(発掘)と呼んでいるのである。
この作業はひたすら計算をし、条件に合致したものを抜き取っていくという作業なので、計算能力だけをとにかく高くしたグラボにぴったりの作業らしいのである。
暗号資産と聞けば、納得である。ビットコインで億万長者になった人の話が有名なぐらいだから一攫千金を夢見たハイエナがグラボに群がっているはずだ。
それなら少々グラボの値段が高いくらい何とも思わないだろう。
とにかく少しでも多く、少しでも高性能なグラボをよこせ、となったはずである。
いわば金鉱の権利書の奪い合いみたいなもんだ。
それで高性能グラボが馬鹿売れし、どんどん馬鹿高い新モデル投入が続いたと。
問題は彼らの使い方である。何しろ目的がマイニングだ。時は金なり、一刻の猶予もない。高いグラボの代金回収という目的も上乗せされているはずだ。
となればブラック企業なんて目じゃないほど、電気容量の許す限りパソコンのフルパワーで延々と計算させるわけだ。
現実には、ネットで契約者を募って、計算を分散させたりしているようだが、それでもマイニングを請け負った時間に負わされる計算負荷はとんでもないはずである。
半導体の寿命については、ホントのところどのくらいなのかはわからないが、最近の私の感覚で言えば、パーソナルユースで家庭で普通に使っている分には、10年ぐらいは余裕で持つようだ。
が、マイニングみたいな機械としての限界を試すような、耐久試験的計算速度で使い続けたらおそらく百分の一もいかないだろう。
このように考えるとグラボメーカーが急成長したわけがよくわかる。
マイニング事業者、あるいはその協同事業参加者が高性能グラボを大量消費する巨大市場を作り出したのである。
グラボがゲームのためだけに存在するものだったら、そこまで伸びるわけがない。
電卓に初めて採用されたものの、その後鳴かず飛ばずで風前の灯火状態だった4ビットCPUがなんとか生き延びてその後の大発展につながった一番大きな理由は任天堂がファミリーコンピューターを発売したかららしいので、キッカケがどんなトンでも話でも結果が社会の発展につながることはあるのである。
とにかくそんなわけで今やどこのネットオークションでも安い中古のグラボがあふれかえっている。
中には普通のゲームオタクだけが使ったレア品もあるんだろうけど、これだけ量が出てるとなるとマイニングで使い倒された、死に損ないに当たる可能性を疑わざるを得ない。
ちょくちょく中古のPC部品に手を出していた私なのだが、グラボだけはちょっとコワイ。
というわけで中古のグラボは疑え。
いや、そういう話をしたいんじゃなくて。
人間の欲にまみれて大きく成長を遂げたグラボなのだが、ここへ来てまた違う進化の道を見つけたようだ。それが冒頭に記したAIである。
とにかく信じられないぐらい高度な計算能力を備えたグラボは、(一説には一昔前のCPU数千個分の計算能力を一枚のグラボで持っている)マイニングに続いてAIにも向いているということで、そっちの需要をも開拓したのである。
今世界の政治家たちが目の色を変えて、AIの計算センター作りなんてことを進めようとしている。
そこで使用する電力量が桁違いに大きくなるという予想が出てるから、原子力の割合の高いフランスが誘致に前向きなんだとか。まさかマイニングに使うわけじゃないよね?
AIとグラフィックカードのつながりと聞いても最初はピンと来なかったのだが、よくよく考えればマイニングよりもよほど本来のグラフィックカードが想定した使い方だとも言える。
言ってみれば、ゲームでのグラボが、データから架空の映像を描く作業をしていたわけだが、その流れを真逆にしたのがAIなのである。
つまり映像となるもの全てから、様々なデータを読み取る作業だ。
なるほど、知能というのはモノを見るところから生まれるのか、と妙に納得した次第。
まあ、五感のうち視覚が突出して情報量が多いから、そういうことになるんだろう。
生物の脳と比べれば、ゼロとイチしか扱えない計算機のくせに、ずいぶん出世したもんだな、という感想と、ここまでやってもこの程度の知能しか持てないのか、改めて生物の脳って凄いな、という両方の感想を持った次第である。
とはいえ、一人の人間全部の肩代わりができるAIは、たぶんグラボベースのAIではないと思うよ。