其の壱
―ねえ、知ってる?中学校の裏山にある山城の跡。そこに、突くと幸せになれる鐘があったんだって。ずっと昔に無くなっちゃったらしいんだけど、今でも夜に学校に行くと山の方から鐘の音が聞こえるんだって。ねえ、今度の土曜の夜、探しに行ってみようよ。
「トモコはあれどうするの?」
「アタシはパス」
「ヨウコは?」
「えっと・・・な、何のことかな。」
「ほら、あれだよ。こないだリナが言ってた山城の。」
「ああ、あれか、アタシはパス」
「じゃあお前はさっき何をパスしたんだ。でヨウコはどうするのさ。」
「わ、わたしは、その、ちょっと、リナちゃんて苦手で・・・、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど・・・。」
「まぁ、そうだよな。そもそもあいつが好きな奴なんていないと思うぞ。大体、幸せになれる、なんて銘打ってるのに夜にしか聞こえないなんてな。そんなものを夜に探しに行くのはただの肝試しだろ。」
「肝試しさね」
「ああ、肝試しだよな。」
「じゃなくてさっきアタシがパスしたのは肝試しさね、アタシはさ、他の噂も聞いてたから」
「他の噂?」
「その山城の跡で夜な夜な真っ白な妖狐が出るんだとさ」
「わ、わたし?」
「違うヨウコじゃなくて、妖の狐さ、真っ白な狐」
「ただキツネが出ただけじゃないのか?」
「日本に真っ白な狐はいないさね、それに・・・」
『それに?』
「狐は暗闇で青白く光ったりしないだろう」