レリサス試験 ―後編―
十一話です。
なんだろ……?
すごく暖かいし、安心する……。
俺何してたんだっけ??
…………あっ、そうだ!!
俺は試験を受けててそれでヴァルキリーと戦って、それで最後に刺されて……
ハッ、
俺は瞬時に覚醒し起き上がると、ゴチンと何かに頭をぶつけた。
「痛っ」
「あいた!! う~、空~、痛いのじゃ……」
「ティ、ティア!?」
何に頭をぶつけたのかと思ったら、ティアの頭にだった。
周りの状況を確認してみると、俺は何故かティアに膝枕をして貰っていて、ここはまだ闘技場らしく、気を失ってあまり経ってないらしい。
それに何時の間に駆けつけたのかフレイが俺に手をかざし、ヴァルキリーに刺された所を魔法で治しているし、アリアは俺が起き上がったことで安心したような表情を浮かべていた。
起き上がろうとしたら、刺された傷が痛んで、
「いつつつっっぅ」
「だめです!! まだ起き上がっては」
そう言って、フレイに怒られてしまった。
「わ、悪い……」
「まったく、自分から刺されに行く者が何処にいるのじゃ!!、このうつけ者が!!、てぇい!!」
「痛!!」
そう言ってティアは強めにチョプしてきた。
「ごめん、それしか思い浮かばなくて…、でも勝ったんだし許してくれても…」
「嫌じゃ!!」「許しません」「断ります」
順にティア、アリア、フレイなんだけど、そこまで言いますか……。
「まあ今は何も言わないが、帰ったらいろいろ聞かせてもらうからのぅ」
「私もです」
「正直に言わないと許しません」
「は、はは、手厳しいな…」
「元気そうじゃの」
声のした方を見てみるとそこにはソクラウムさんが立っていた。
「ど、どうも」
「合格おめでとう。しかしよもやわしのヴァルキリーを破るとは大したもんじゃ」
「いや、そんなことありませんよ、こんなにボロボロですし…」
「ほ~、“あれだけ手加減して”おいてかの??」
「!!」
「まあそこらへんはそこにいる三人に任せるとしてじゃ、おぬしに一つ頼みがあるのじゃ。試合が終わったらもう一度ここに来てはもらえぬかの?」
「ええ、いいですけど、早速依頼ですか??」
「いや大したことはないんじゃがおぬしに渡したいものがあるだけじゃよ」
「は、はぁ~」
「では、わしはここらで失礼するの、そろそろ行かんと看病してくれておる三人の彼女にも悪いしの」
「ちょ!! ソクラウムさん!?」
「ははは、ではまたの」
そう言って楽しそうに笑いながら颯爽と去っていった。
そして顔をそれぞれ程度は違うもののそれぞれ赤くした三人と俺が残されてしまった。
どうすんだよこの状況……。
◇◆◇◆◇◆◇
その後、フレイの治癒魔法のお蔭で傷が塞がった俺はティアの試合を見る為にアリアやフレイ達の真ん中で試合を見ることとなった。
「本当に寝ていなくていいんですか??」
そういってアリアが心配そうな顔で見てきた。
「ああ、少し痛むがフレイのお陰でだいぶよくなったし、それにティアの力も見たいしな」
「でも本当に辛くなったら言ってくださいね」
「ああ、わかった」
「あ、お嬢様が入場しましたよ」
「お」
見てみるとティアとヒアグムさんが闘技場に入場していた。
二人は握手を交わすと、ヒアグムさんが腕を掲げて、
「我の召還に従いその姿を現せ、ケルベロスーーーーーー!!」
そうしてヒアグムさんのうでが赤く光ると、体長九、十メートルぐらいある、凶暴そうなケルベロスが現れた。
しかしティアは怯むこと無く、射るような目でケルベロスを見つめ、そして手を下に広げると、虚空から何にも染まることのない純白の白い剣が二振り現れた。その剣はティアに似合っていて、思わず見とれてしまうほどだった。
「!! お、お嬢様も二つ!? 空様もそうでしたから当然といえばそうですけど……」
「だ、大丈夫でしょうか?? あのケルベロス強そうですけど…」
「もしもの時は俺が行くよ、まああれだけ大見得切ったし、本人が大丈夫なら大丈夫だと思うよ。それに心配するより、応援したほうがティアも喜ぶよ」
「ふふ、そうですねお嬢様に限って負けることなんてありあえません」
「だろ? だから応援しようぜ」
「「はい」」
そして会場が両者の放つピリピリとした空気を感じ取り、静かになったところで、
「それではただ今よりレリサス試験を始めます、試合開始!!!!!!!!!!」
そうして両者の試合の火蓋が切って落とされた――――――。
◇◆◇◆◇◆◇
試合が始まり、先に動いたのはケルベロスの方でデカイ図体の割りに結構早く、距離を一気に縮めて、ティアに向かって大岩でも紙のようにスラっと切れそうな鋭いつめを振り落とした。
危ないと思ったら、ガキーンと音がしたかと思うと、驚くことにティアはその斬撃を片方の白い剣で表情一つ変えることなく受け止めていた。
「はっ!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
受け止められたケルベロスは一瞬固まっていたが、その後すぐさま激しい斬撃を繰り出したが今度はティアは軽々と残像を残しながら避けて、次の瞬間、いつの間にか斬撃を繰り出した足の上に乗っかっていて、楽しそうに笑っていた。
その態度がケルベロスは気に入らなかったのか、三つの顔のうち、一つが噛み付こうとしたら、一瞬でケルベロスの目の前に移動し、避けた。
ケルベロスはさらに怒りを顕にし、顔三つや、爪を駆使して、激しい攻撃を繰り出した。
しかしティアは少し顔が真剣になったぐらいで目にも止まらぬ多方向から同時にくる攻撃に適切に白い剣を使って対応している。
受け止め、流し、はじき返し、一度虚空に仕舞い持ち替えて受け止め易いようにしたり、避けたり、その全てが流れるように綺麗で俺は思わず見とれてしまった。
そうして全ての攻撃を防がれたケルベロスは距離を取ると、三つの口が赤く光り、そして口から炎を吐き出した。
それでもティアは逃げようとはせず、ただ立ち尽くしてした。
「あ、あいつ!!」
俺はすぐさま助けに行こうとしたんだけど、フレイに止められた。
「大丈夫です。見ててください」
そうして見るとついにティアまで炎は迫って、とうとうティアを飲み込んでしまった。
よく見るとある箇所から炎が後ろへ流れていないことに気がついた。
吐き終わるとそこには片手を掲げたティアが周囲は黒漕げにもかかわらず、汚れ一つない姿で立っていた。
「ふぅ~、久しぶりの戦闘じゃが何とかなるもんじゃの~。して、“この程度かのケルベロスよ”」
ティアはよく通る声で堂々した態度でケルベロスを見つめた。
「まあ霊体の使い魔じゃし死ぬこともないからいいかの。そちがこれ以上手が無いならわらわから行くぞ!!」
そう言うとティアは目にも止まらぬスピードでケルベロスの元まで行き、足を四本とも硬そうなのにスパッと一瞬で綺麗に切った。
「グルワァァァァァ!!!!!!!!!!」
ケルベロスが悲痛めいた叫びを上げた。
「すまぬのぅ、わらわも本当はこんな事をしたくはないんじゃが、なにぶん自分で逃げ出すこともできぬそちを気絶させるのはいささか骨が折れるからのぅ……」
そう言ってティアは苦しそうな顔で止めを刺すように心臓のあるであろう場所に剣を突き立てた。
そうすると、ケルベロスは光の粒子となり、消えていった。
「しょ、勝者、ティア=クスミ!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう審判が言うと、俺の時の2倍増ぐらいの声援が響いた――――。
◇◆◇◆◇◆◇
そのあと、俺達は無事レリサス試験を合格したとの事で証明書と、カードを発行してもらい、一旦宿屋に戻ることにした。
帰る途中でもサインや握手を求められたり、これから一緒に飲もうと言ってくる人たちがいて、なにかと帰るまで時間がかかり、気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。
「ふぅ~、マジで疲れた」
「ふふ、おつかれさまです」
そう言っておれはすぐさまベットに身を沈めた。
「二人ともお疲れ様でした」
「ありがと、なあ、ティア」
「ん? なんじゃ?」
「お前、強すぎじゃねぇ?」
「そうかの、これでも手加減したつもりじゃが…」
「確かに私の目からみても相当なものでしたよ。ティアさんどこでそんな剣技などを身に付けたんですか??」
「うむ~、小さいころにかじった程度じゃしの~、覚えておらん…」
「「はぁ(ええ)!!??」」
俺とアリアの声が思わず重なってしまった。
「嘘付け!! てか嘘と言ってください、マジで自信なくすから!!」
「そ、そういわれてものぅ、本当じゃし……」
「いやいやあんなチートはたとえ誰が認めても俺が認めません!!」
「じゃ、じゃがのぅ…」
「空様、ちょっといいですか?」
「フレイ?」
「残念ながらティア様の言っていることは本当ですよ。先ほど試験会場でも言いましたが、本当にお嬢様は魔法使いの資質もそうですが、剣術や武道においても秀でているんです」
「はぁ、認めます、認めればいいですよね…」
「だからそうじゃと言っておるのに。そ、それとも空はわらわのことがし、信じられないのかの、ぐすっ」
そう言ってティアが若干上目遣いで涙目でこっちの方を見てきた。
「わわー、泣くな!! 信じるもう盛大に信じるから!!」
「ひぐ、ぐすっ、ほ、本当かの…?」
「本当、本当」
そう言うとティアがパッと笑顔になり、
「うん、ありがとう」
そうすると俺はティアから見つめられて恥ずかしくなり、顔を背けた。
「ん? どうしたのじゃ」
「な、ナンデモナイヨ~」
「そうかのぅ、顔が赤いんじゃが??」
「気のせい、気のせい」
「ふふ、おかしな空じゃのぅ♪」
そうして俺が大変な思いをしている時に二人は、
「どっちが先にシャワー浴びますか?」
「アリアからで構わないですよ」
とか何とか言って知らん振りしていたとかなんとか……。
◇◆◇◆◇◆◇
その後、俺達は外で食べるのは何かと面倒ということで宿の食事ですませ、部屋に戻り、全員シャワーを浴びて、後は寝るだけとなった。
ちなみに俺は寝やすい部屋着に着替えていて、三人はパジャマ姿である。
これ以上起きていると、間違いをおこしそうだから、
「それじゃ、今日はもうきついからねるな、じゃ、おやすみ~」
「待つのじゃ」「待ってください」「待ちなさい」
「え、なんで?、俺今日疲れてすごく眠いんだけど…」
「そういえばまだ話を聞いておらんかったのぅ、空」
「ええ、そうです、言うまで寝かせません」
「正直に話してくださいね~」
ちっ、覚えていやがった。
「わかったよ、話すよ…」
「では単刀直入に聞くが、どうして手加減したんじゃ??」
「う、だからしてないって…」
「へぇ~、わざわざゴム弾しか使わなかったり、全力で身体強化魔法を練らなかったのが手加減してないと??」
「うっ…」
「それに、空さんはわざと刺さりに行きましたしね♪」
「ううっ…」
「さらに空様はとどめに殴って気絶させただけだしたね」
「うううっ…」
「さあ、説明するのじゃ」
「そうです、もうまるわかりです」
「場合によっては……、ニコっ」
「ひ、ひぇ……わ、わかった話しますよ」
俺はみんなからの視線のせいで怖くなり話すことにした。(主にフレイのあの笑顔だけどな……)
「俺は前にも言った通り人殺しなんてしたくなかったんだよ。それにできれば傷もつけたくなかった。だってそうだろ? できるならみんなが笑顔でいたほうがいい。たしかに甘い考えだとは思う。けど俺には人に向けて撃つなんてできない」
「それで、人が傷つくくらいなら自分が傷ついたほうがいいと?」
「くっ」
「空、それは自分を大切にしなさすぎじゃ。確かに空は立派なことをしたとは思う。じゃがの、空が傷ついて悲しむ者もまた此処にいるのじゃぞ」
「!!」
「…わらわは嫌じゃ。空が傷付く姿なんて見たくもない」
「わたしもですよ」
「わたしもです」
「……」
「もっと自分を大切にしたらどうじゃ??、そんな理想は所詮理想でしかない。結局その理想の果てにあるのは死しか残っておらん」
「……」
「それに全部を守るなんてことは不可能じゃ。たとえ矛盾していてもじゃ。わらわもそんなことを幼きころ抱いていたが結局は無理じゃと気づいたんじゃ。空、守れるのはほんの一握りじゃ。それはなんじゃと思う?」
「家族か……?」
「もちろんそうじゃ、正確に言えば自分の身の周りにいる者じゃな」
「でもそれは自己満足でしか……」
「それを言えばその理想を追いかけることもまた自己満足にしか過ぎぬ」
「っ…」
「空、そちは王様でも神でもない、楠巳空じゃ。確かに一人の人間では理想は叶えられぬが、それでも自分の周りにいる者だけでもいい、守ることはできるじゃろ??」
「…」
「そのままのそちではいつか後悔してしまうぞ。気づけば自分の周りには誰にもおらず、一人だけ。それではあまりにも寂しいではないか」
「ああ…」
「…っつ、ぐす、それにわらわは空に死んでほしくない、お、お願いじゃから、もうあのようなことはやめてくれ」
「私たちからもお願いします」
「お願いします」
「…、ごめん。そうだったな、俺、なんか力手に入れて舞い上がってたのかもしれないな。もともと居た世界でも家族を守ることしか考えていなかったのにな…」
「そ、空…」
「ごめんな俺みたいなバカのためにこんなに説得してくれて、もう間違えないから、絶対」
「ほ、本当かのぅ??」
「ああ、約束する。俺はお前達をきっと守ってみせるよ」
「そ、空…」
「空さん…」
「空様…」
「ああ、だからみんな悲しそうな顔するな。あっ、でも俺なんかに守られても嬉しくないか…」
自分が告白まがいの恥ずかしいこと言ったことに気づいた俺は、少し照れながらそっぽを向いて頬をかいた。
「ううう、そ、空~」
「そ、空さん…」
「空様…」
「うわっ、抱きつくなよ三人とも」
「だって、だってのぅ…」
「空さんがいけないですっ」
「そうです、空様のせいですね」
「あのなぁ…」
「「「あはははっ!!」」」
こうしてまた仲がより深まったのはいいんだけど、この後壊れかかった理性を保つのに必死だったのはまた別の話だった――――。
毎度読んで頂きありがとうごさます守月です。
今回は最後の方なんだか熱く語ってしまってすみません。
なんか某ゲームの主人公に送るメッセージみたいですね(わかる人だけでいいです)
報告なんですがついに二作目始めましたんで、こちらの方もよかったら暇なときでも読んでみて下さい。
http://ncode.syosetu.com/n9308j/
また、いつものことですが、感想、アドバイス、脱字、誤文の指摘よろしくおねがいします。
ではまた次回に
p.s.次の更新は学校の試験や模試などで遅れますので、誠に申し訳ありませんが気長にお待ちください。