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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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父の声

タカとの電話を終えたハルは、割れたCDのことを思い出していた。


タカにはどうしても話す気になれなかった。話してはいけない気がしていたからだ。




その日の夜。

時刻は22時を回っていた。


ハルは唾を大きく飲み込み、タカから訊いた父の番号をスマホに打ち込んだ。


心臓がどくどくと振動し、指先が少し震えている。


発信ボタンを押すとすぐに呼び出し音が鳴った。


規則的に鳴り続ける電子音と、体から聞こえてくるる心臓の音が重なり合い、少し気分が悪くなった。


呼び出し音が10回ほど鳴ったところで、ハルは耐えきれなくなりキャンセルボタンを押した。




その一時間後、もう一度電話をかけた。だが、また呼び出し音が鳴り続けるだけで父は電話に出なかった。




翌日の朝。


ハルはスマホを握りしめて、また発信ボタンを押した。


3度目となると、いくらか緊張がほぐれ心臓の鼓動は小さくなっていた。


これで出なかったら期間をあけよう、ハルはそう考えていた。


すると、呼び出し音が止まった。




「はい」

  




ハルの耳に、聞き覚えのある懐かしい男の声が聞こえ、首から下の皮膚にゾワっとするような感覚が走った。


声の主は、父だった。


記憶していた声より少し低くかすれた声色だったが、父の声だった。


「……っ、え……」


のどに石でも詰まっているかと思うほど、声がすんなりと出ず、代わりにに変な音が喉から溢れた。


「ハルだよな」


「っ……あ、はい」


咳払いをして、なんとか声を出した。


「……」


「ひさ……しぶり」


「ああ。うん」


「……」


「……」


「あっ、なんで俺だって分かったの」


「ああ、工藤君から連絡もらったんだよ」


「え?あ、タカさんから?」


タカの苗字を聞いた瞬間、勝手に頬と口角が上がった。


「そう。おまえから連絡が来ると聞いた」


「そうなんだ」


「……」


「久しぶり……です」


「そうだな」


「……」


「元気にしてたのか」


「……まあ。うん」


「……」


「……」


少しの沈黙が流れた。


「俺に聞きたいことがあるんだろ」


「……うん。そう」


「何か、あったんだろ」


「……」


「ハル」


「あ、はい」


「おまえ、体はなんともないのか」


「え?あ……まあ。いろいろ変化というか、あったけど」


「どんな?何があったんだよ」


「……」


「……そうか」


父は、何かを察したようだった。


「……え?なに?」


「おまえ……戻ったんだな」


ハルの手からスマホが勢いよく床に落ち、ガタンと大きな音が部屋に響いた。


「あ、ごめん!スマホ落とした。もしもし?聞こえる?」


「聞こえるよ」


「……」


「体、元に戻ったんだな」


「え、あ……完全に……じゃないけど」


「そうか」


ハルの耳に、ふふっと、微かな笑みを含んだ息の音が聞こえた。


「その……さ。そういう意味で訊いてるんだよね?俺の……その……昔の……」


「そうだよ」


「だよね。それでさ俺、いろいろ知りたいんだよね」


「……」


「父さんに俺は何を言われたのか……もだし、父さん変な音楽聞いたりしてない?」


「……」


「え?聞こえてる?」


「うん、聞こえてるよ」


「何かあるんでしょ?全部さ、話してよ」


「そうか。あのCDか」


「うん、そう」


「あのCD、母さんの家に置いたままだったんだよな」


「そうだよ」


父が軽くため息をつく。


「ハル、おまえ今日の夜は空いてるか?」


「えっ、あ、はい。空いてる」


「ごめんな。ちゃんと話すから、俺から夜にまたかける」


「うん、わかった」



ひさしぶりの父との会話は、とても静かで、落ち着いていて、懐かしむ感情とはほど遠いものだった。



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