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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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弟に、似ているから

「ハルさんとお兄さんが離れて暮らすようになったとき、お兄さんは高校1年だったかと思います」



「はい」



「僕が通ってた高校に転校してきて、同じクラスになったんですよ。たぶん昔からそうだったんでしょうけど、お兄さんは優しくて気さくなキャラで、すぐにまわりに馴染んでて。僕にもよく話しかけてくれました」



タカは軽く深呼吸をしながら、ハルの兄がクラスに馴染んできたあたりから、自分によく話しかけてくるようになったことを思い出していた。



「僕は教室を移動する授業が苦手で、いつも休み時間ぎりぎりまで教室に残っていたんです。そんなときに限ってお兄さんは必ず僕に話しかけてくれたんですよね」



「そうなんですね」



タカが小さく深呼吸をする。



「僕、その頃クラスで浮いていたんです。というか嫌われていたに近いですね。僕が大切な友達に、"視えたこと"を伝えてしまったから」



「……」



タカは中学から一緒だった仲の良い友達がいた。




高校に入学して間もない頃、その友達の親が亡くなった。タカは、友達の亡くなった親からの"伝言"を、良かれと思い本人に伝えたのだ。



友達はきっと喜ぶ、少しは元気になってくれるかも、とタカは思っていたが実際の反応は真逆でひどく怯えさせてしまった。



それ以降友達は一切口をきいてくれなくなり、それまでそこそこ仲良かった友人たちからも、少し距離を置かれるようになってしまった。



そんな期間が少し続いた頃に、ハルの兄が転校してきたのだった。



転校生か、どうせすぐに人づてに自分の噂を知ってみんなのように距離を置くのだろう、とこの時のタカは思っていた。



しかしハルの兄は、全くそんなそぶりを見せず毎回ニコニコしながらタカに話しかけていたのだった。




「僕最初の頃にお兄さんに聞いたんですよね。なんで嫌われている僕にそんなに話しかけてくれるの?って。そしたらこう返ってきたんです」


タカがハルの横顔を見る。





「弟に似ているから、って」





ハルはその言葉に反応して、タカの方を見た。

タカはすぐに目線を少し下にして、優しい笑みを浮かべた。



「正確に言うと……僕が悲しい目をしていたから、って。そのあとに"弟に似ているんだよね"って付け足す感じで言ってはいたけど、それが一番の理由だと思います。僕にハルさんを重ねていたように思います」




タカは自分が視えることが原因で、幼少期から辛い体験をして生きてきた。


子供は思ったことをその場で口にする。


視たままの情報を発言したことにより不気味がられ、冷たく距離を置かれる。


あまりにもそういったことが多かったので、タカはいつしかあたりまえのように悲しい目をするようになっていた。


友人に"伝言"を伝えたのも、躊躇はしたがそれでも友人の安心する顔が見たいという勝手な期待感から伝えてしまったのだった。



悲しい目。



タカはそれを友達から言われたことは一度もなかった。元々そういう目つきをしている子なのだな、と思われて終わるからだ。



けれどハルの兄が言う"悲しい目"は違った。


タカからしたらそれは、"元はそんな目じゃなかったんでしょ?"そういう気持ちがこもっている気がしたからだ。



「てっきり、お兄さんは僕が孤立しているから可哀想で一緒にいてくれたのかなって僕は思っていたんです。いや、それも少しはあったと思いますね。お兄さん優しいので。けど一番は、僕がハルさんに似ているからって」



タカはそう話しながら、ハルの兄の最後の話を思い出していた。


いつも笑顔で優しく接してくれたハルの兄が、死の間際に苦しみに満ちた顔でその"似ているから" の本当の意味を話してくれた時のことを思い出していた。




またタカが深呼吸をする。



頻繁に深呼吸をするタカに、ハルは少し気になってきていた。






「あの、タカさんと僕が似ているってことは、兄は、僕もそういうタイプの人間ってこと気付いてたってことでしょうか」




「はい。気付いていましたよ。それだけじゃないです」




タカがハルの目を見た。









「ハルさんがゲイだってことも、お兄さんは気づいていました」



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