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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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割れたCD


翌日。


タカはソファで目を覚ました。


昨夜、ハルが帰ったあと、タカは意識が遠のくまで強いお酒を喉に流し込んでいた。そのせいで、そのままソファで眠ってしまっていた。


帰り際のハルの表情を思い出し、深いため息をついた。


シャワーを浴び、いつもより濃く淹れたコーヒーを飲んでから、またあの音楽を聴くためスマホを手に持つ。


何か視えないものかと、時より自分の機能を使おうとするも何も視えない。


その代わり今回は、聴いている間に何度も何度もハルの顔がちらついた。


あんな表情にさせてしまった、という罪悪感。それだけでなく、機能が使えない状況が初めてだったことに対し、自分でも驚くほどに戸惑ってしまっていた。


相当入れ込んでるんだな俺は。ヒロはもういなってんのにな。と思いつつぼーっとしていると、ここ数日間の体の違和感を思い出した。


機能を使っていないのに息苦しさがあったのだ。そんなことは過去に一度もなかった。


最近考え事ばかりしていたし、普段聞かない音楽ばかりを聴いていたせいか。まあ、休めば元に戻るだろう。タカはそう思うことにした。





その頃ハルは、タカにメールを送ろうとスマホを握りしめたまま、不協和音について考えていた。


子供の頃に兄に聞かせてもらっていた記憶と音色は合致こそはしたが、不快な音の存在に当時は気づきもしなかった。


タカが言うように、あの音色は決して心地のよいものではない。弟を思い出すために聴くにしては疑問が残る音色だ。


CDに対しものすごく拒否した体の異変も気がかりのままだ。


父からそんなひどい言葉?いや、ショックを受けるからって理由だけなのか?


様々な疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡る。そしてまたゾワっとした嫌な予感が迸った。


兄ちゃん、俺ものすごく嫌な予感がするよ。あのCDはなんで?俺は父さんの何の言葉に反応したの?心の中で、問いかけてみる。


何も反応が返ってこないだろうと分かっていても、何んでもいいから何かおしえてくれとひたすらに兄に問いかけた。


その数分後、バキッと聞き慣れない音が鳴った。

小さな音だがハルの耳にはとてもクリアに聞こえた。


「……え?」


音が鳴った方へ視線を向けると、そこにはCDプレーヤーがあった。


プレーヤーを開くと、CDに亀裂が入っている。


「……は?」


重い物か何かを乗せていたわけじゃないよな?とハルは思い、CDに触れた。


「えっ……あれ?持てた」


はじめてCDプレーヤーに触れたときは痺れが生じていたのに、割れたCDは持てていることに気がついた。


壊れたから……持てたのか?


戸惑いつつ何度もCDに触るが、痺れは一切感じなかった。


昔の俺とCDになんか関係あんの?親の喧嘩を聞かせないために、兄ちゃんが聞かせてくれたんだよな?また心の中で兄に問いかける。


その直後、父の怒号が耳の奥で聞こえた。


急に聞こえたので、手からCDが離れ床にカチャンっと音を鳴らして落ちる。落ちた衝撃でCDは真っ二つに割れた。


ハルがCDを拾おうとしゃがむと、今度は兄の映像が目の奥に蘇る。


CDを聴かせてくれていた子供の兄の映像だ。


ハルはえっ、と一瞬よろけ、そのまま床の上に尻もちをついた。


「えっ、なに……いまの」


目の奥に、あまりにくっきりと綺麗に映ったので、ハルはこれが兄からの意思によるものだと感じた。


ハルが大きく息を吸う。


「え、なんだよ……ちょっと待って。分からない。分かるように伝えてよ。あの……さ、タカさんに俺のことお願いしたんでしょ?俺にも何か伝えてよ。タカさんのおかげで俺少し感じ取れるようになってる。俺にも何か教えてよ。父さんに俺は何を言われたの?いまの状況……これなに?」


部屋中に響き渡るほどの、大きな声を出して聞いた。


けれど部屋は静まり返ったまま、相変わらず何も異変は起こらない。


ハルは首をガクっと下げ、そのまま何度もため息をついた。


数分経ち、ハルは何かに気づいたかのようにハッと顔をあげた。


そして割れたCDのほうへ視線を向ける。


「CDが割れた……兄ちゃんの姿。父さん、CD、兄ちゃん……父さん、CD……」


ぶつぶつと囁き声を出しながら、頭の中の散らばった点と点を繋げていく。


「CDは割れたからもう聴けない……聴くなってこと……か?なんで父さんの映像?CD……父さん。あ、父さんも確かCD持ってるんだよな」


しばらくして、ハルはすっと顔を上げた。


そしてそのままゆっくりとCDに視線を向ける。




数分後、タカのスマホにハルからメールが届いた。


「僕の父の連絡先を知っていますか?」


メールにはそう書かれていた。


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