俺たち、似てるね
「タカさん」
「はい」
タカは毛布の上で胡座をかき、ハルはベッドの上でうつ伏せになって肘をついたまま、タカの目をじっと見つめる。
「改めて話しておきたいんですけど、僕がタカさんのこと好きな気持ち、変わってないです」
タカが視線を下に向ける。
「あ……はい」
「この感情に蓋をするつもりはないんですけど、ただ、前みたいにタカさんに、その……兄と僕を重ねてだとか、そういうことを言うことは、ないです。少なくとも僕が元に戻るまでは」
「はい」
「タカさんに迷惑をかけるつもりも、悲しませるつもりも、本当にないです。だから前みたいなことにはなりません。ただ、僕はタカさんが好きです。この気持ちのまま、これからもタカさんと接します。というか、この気持ち、もう変えられない……から」
「……」
「タカさんが僕の気持ちにこたえられないのはわかってても、僕は久々に感じるこういう感情に蓋をしたくなくて。ただ、好きでいるだけです。タカさんが兄を好きってことを知っても、僕はあなたが好きなんです。僕は傷ついていません。タカさんにとって、こんなことまた言われるのは、良い気しないでしょうけど」
「……」
「タカさんが、兄のことをずっと好きだった感覚。それと似ていませんか?」
「え……ああ……」
タカは自分の足元を見たまま黙り、そして静かに話し出した。
「サエちゃんがヒロの彼女だし、ヒロが幸せそうにしてるの見るの好きだったよ」
「はい」
「それに、ヒロと一緒にいられるのなら、あのままで良かった。俺が何かして壊れるほうがよっぽど怖かったからね」
「はい。うまく説明できないですが、僕、いまその感じに近いかもしれません。タカさんが僕にここまで協力してくれるのは、兄の頼みだからでしょう?兄がどこかで喜んでくれると思うからでしょう?僕が、兄の弟で……兄が最後にタカさんに託したことを、いまやっと、こうして実行できているから」
「……」
「僕は、タカさんと違って、壊しそうになったけど。いや、亀裂は入ってしまったかもしれませんが」
ハルがふふっと笑う。
「……壊れてなんか、ないですよ」
「タカさんが兄のために、いろいろ僕を助けてくれて、僕は自分の気持ちを優先してこの関係が崩れる方が怖い。いまそう思っています。だから……」
「ははっ」
タカが笑い出した。
「えっ、どうしたんですか」
「似てるよ。もう、なんか……あははは」
「え?僕と兄が?」
「違うよ。俺たちがだよ」
タカは、今度はくっくっくっとお腹を抱えて笑った。
「あ、"俺"って言った。あはは。もう僕には敬語使わなくていいのに」
「いや、使います。あっはっはっ」
「つられて笑ってしまいますよ、もう!でも、嬉しいな」
「なんで。俺に似てるのが?」
「はい」
「なんで?」
「タカさん前、僕と距離をおこうとしたじゃないですか」
「ああ。僕が無理やりハルさんに映像を見せたときのこと、ですよね」
「はい。あ、でも大丈夫です。タカさんの気持ち、分かってますから。僕は今こんなですけど、でも勘が冴えるのは昔からあるので、タカさんが心から兄のこと想ってて、僕のことを変に突き飛ばせないことも、ちゃんと分かってるつもりです。タカさんが視たいものも」
タカがまた、ふふっと笑う。
「……なんだか、僕もよくわからないんですよ、ハルさん」
「え?」
「僕もね、いまちょっと頭の中が混乱してて、自分の感情と、理性と、そうだな……整理がおいついていないんです」
「そうなんですか」
「はい。だから、今はハルさんが言うように、ハルさんが元の自分に戻ることを大優先して、僕たちのことはあとでゆっくり考えましょう」
「あ……はい。それがいいです」
タカは、ふうっと深く息をはいて、そしてまた笑い出した。
「あははは、ごめんハルさん、いろいろおかしくなってきちゃった」
「ははは!はい。もう本当に」
2人は互いに笑い合った。
ハルは、タカの笑顔から、時より深い悲しみのようなものを感じていた。
いつかその悲しみを、自分が少しでも取り除けることができたら、そんなことを思いながら、タカが笑い終わるまで、一緒に笑い続けた。
本当の気持ちを言って、何かが壊れたら嫌だ、と未来に起こることを懸念して、今の自分の感情を押し殺す。
自分の感情を押し殺してまで、守りたいものがあることは、はたして幸せなことなのか、不幸なことなのか、たまに思います。




