レトルトのお粥、ですけど
ハルが目を覚ますと、キッチンの方からお皿が擦れる音がした。
びっしょりと汗をかいた体を起こしキッチンへ行くと、ハルの足音に気づいたタカが振り向く。
「ああ、ハルさん。動いて大丈夫ですか?」
「あの……すみません」
「いやいや、大丈夫ですよ。少しはスッキリしましたか?」
「はい。少しどころか、かなり」
「汗、すごいね」
「はい……すみません、すぐ流してきます」
「じゃあその間、軽くですけどご飯あたためておきますね」
「ありがとうございます!すぐ戻ります」
シャワーを浴び終え、キッチンに戻ってきたハル。
テーブルには、おかゆが置かれていた。
「食べれます?あ、無理して食べなくても大丈夫ですからね。僕食べるから」
「食欲はあるので大丈夫です。ありがとうございます」
「あはは、ハルさん髪が濡れたままだよ」
そういって、笑うタカ。
「体温で乾かします」
「なんですか、それ」
「いや、熱があるから乾きやすいかなって」
「あはは。弟がいると、こんな感じなのかな」
「え?」
「お兄ちゃんが面倒見てやるよ!みたいな」
「ああ、子供だと、そうかもしれませんけど……」
「あはは、そうですね。30近くなって風邪の面倒はさすがにないか。さあ、おかゆどうぞ」
タカがお粥の入った茶碗をハルに差し出す。
「おかゆなんて久しぶりです」
「あ、でも、すみません。これレトルトですけど……あ!梅いけます?」
「梅好きです。僕嫌いなものないですたぶん」
「お、ならよかったです。どうぞ。温めただけですけどね」
「あ、いえ。わざわざ買ってきてくれてありがとうございます」
そう言ってハルはお粥を一口食べた。
「美味しいです、すごく」
タカは、ニコっと微笑んだ。
ハルが無言のまま何度もお粥を口に入れている間に、タカが言う。
「滅多に風邪ひかないって言ってましたけど、どうして今回は?」
「……」
ハルは思い当たる節があった。
「最近、冷たいシャワーを浴びてたから……だと思います」
「え、なんでまた」
「頭を冷やしたくて」
「えっ」
「それで、体が冷えたんだと思います」
それを聞いてタカが吹き出して笑う。
「本当に頭を冷やしてるじゃないですか!なんでそんなことしたんですか」
「いや、勝手に水の蛇口ひねってまして。ちょっと冷静になりたくて」
「そう……ですか。それは風邪ひきそうですね」
タカは、ハルがなぜ頭を冷やしそうとしたのか、その理由を聞かなかった。
「ハルさん。風邪グッズ、一通り買っておいたんで、またもし風邪ひいちゃったら使って下さい」
「ありがとうございます。何から何まで」
「いえ。早く元気になって下さい。でも見た感じ、汗もびっしょりかいてたし食欲あるみたいですから、快方にむかってますね」
「はい、そう思います」
「本当はお米からお粥作ろうとも思ったんですけど、ちょっとそれはやりすぎかなと思って、レトルトにしちゃいました」
「いや、全然です。そういえばタカさん、料理するんでしたっけ」
「簡単なものなら。仕事で覚えました」
「そうですか。兄には料理作ってあげたりしてたんですか?」
「いや、ないですね。それはサエちゃん担当だよ」
「あ!サエさん!そうだ、ケーキ」
サエの名前を聞いて、ハルがケーキのことを思い出した。
「あ、そうそう。冷蔵庫に入れてありますよ」
「タカさん、いま一緒に食べませんか?」
「ああ、そうですね。出しますね。ホールごとだから結構大きいですよ~」
そう言ってタカは、冷蔵庫からケーキを取り出した。




