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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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発熱

「じゃあハルさん。これからは、どんどん前に進みましょう」


「……はい」


「サエちゃんケーキ作る気満々ですし。また3人で会いましょうか」


「はい!」


「そしてそのあとはまた、特訓としましょう」


「わかりました。よろしくお願いします」


「あ、ハルさん。念の為確認なんですが、元の自分に戻りたい気持ちは本心ですよね?今も気持ちは変わっていませんよね?」


「はい、もちろんです」


「分かりました。じゃあ、また一緒にあのCDでも聞きましょうか。どんどん先、進みましょう。手探り状態なのは変わらないけど、続けていくとまた何か変化が起こりそうな気がするので」


「はい。ありがとうございます。……なんだかタカさん。コーチみたいですね」


「はは。特訓方法が手探り状態なのにね。頼りないけど、頼りないなりにサポートします」


いつものタカの口調と、笑い声。そしてまた以前のように、タカと会える。


ハルはそう思い安堵の気持ちになったものの、少しの違和感を感じるのは、タカがやる気な態度になっていたからだ。


先へ先へと進みたがっているタカの言葉が、返ってハルを突き放しているかのように感じた。


「ありがとうございます、タカさん」





その晩、早速タカからメールがきて、数日後にタカの自宅でケーキ会をすることになった。


サエやハルの自宅ではなくタカの自宅にしたのは、2人がまだお互い出会って間もないことを考えた、タカなりの配慮からだった。





そしてケーキ会当日。


タカのスマホが鳴った。ハルからだった。


「はい、もしもし」


「タカさん、すみません……いま大丈夫ですか」


「大丈夫です。どうしました?ハルさん」


「本っっっっ当に、すみません。……僕、今日行けないみたいです」


「え、どうしたんですか?」


待ち合わせ時間は13時だったが、すでに12時をまわっていた。


「体調がおかしくて。たぶん熱があるみたいで……。すみません、行けるには行けるんですが、お2人にこの体を近づけたくなくて……その」


「えっ、大丈夫です?何度?計った?」


「あ、大丈夫です。ただ、久々に熱くて。滅多に風邪引かないのでわかんないんですけどたぶんこれ、熱あるっぽくて」


「わかりました。こちらのことは気にしないでください。僕からサエちゃんに言っておきますから」


「タカさん……本当にすみません。僕ほんと普段は風邪引かなくて、想定外すぎて。わざわざ今日になんでって感じで。サエさんにも申し訳ないです」


「ハルさん、本当に気にしなくて大丈夫です。サエちゃんもこういうこと全く気にしないから。とりあえず休んでください。もう切りますね」


「はい」




タカが電話を切り、すぐにサエに電話をする。




「もしもし、サエちゃん、もう家出ちゃった?」


「え、うん!出たよー、どしたの?」


タカがサエに事情を話す。


「あ、そうなの?了解。ハル君大丈夫そうなの」


「熱出ただけだから、休めば大丈夫だと思う」


「そっか。じゃあ、私もう外だしこの足でハルさんち……あ、いやいや、私が急に行ったら逆に気をつかわせちゃうよね」


「うん、サエちゃんは何もしなくて大丈夫だよ。それに住所知らないでしょ」


「あ、そうだった。うん、わかった」


「じゃあ、そういうことだから今日は……」


「あ!じゃあさ、タカ君!」


「え、なに?」


「タカ君行ってあげて。ほら、せっかくだしハル君にケーキ届けてよ。お見舞いみたいな感じで」


「え、いや、でも……」


「とりあえず、そっち行くから」


「あ、うん」




少ししてサエが駅に到着する。




「サエちゃん」


「ああ、タカ君。おまたせ。はい、これ!」


タカが渡された紙袋の中を覗く。


「おお、久しぶりに見たなこのケーキの箱」


「うん。ヒロにもいつもこの箱使ってたもんね、まだ家にいっぱいあるの」


「でもこれ、さすがにハルさんち持ってってもすぐには食べられないよ」


「もし食欲戻ったらで全然いいから。冷蔵庫に入れとけば明日も食べられるし。私のケーキがあるからって言って、行ってあげなよ。俺じゃ食べきれないから助けて~って」


「え?あ、うん」


「あ……!私、またやってしまった!」


「え、何?」


「ハル君にね、ヒロみたく無理やり食べさせることしないからってこの前言ったばかりなのに笑 無理やりタカ君に運ばせようとしてる」


「あはは!ほんとだ」


「あはは。も~、私全く学んでない。まあ、でも届けてあげて」


サエが満面の笑みでタカにケーキを渡した。


「あ……うーん。なんかすごく嬉しそうなんだけどサエちゃん」


「へへ。また今度3人で食べよ」


「うん」


「タカ君」


「ん?」


「このケーキ、今朝作ったんだけどね、すごく楽しかった。最近も使ってたけどね、でも今日はハル君とタカ君が食べてくれるって思って作ってさ。だからすごく楽しかった。ありがとう」


「……」


サエの言葉に、タカは少しうつむき加減に笑みを浮かべた。


「そういうことだから、ハル君の看病よろしくね」


「あ、ああ……うん」


サエがいつにも増して笑顔で明るい態度でいるのが少し気になったが、タカはハルの家にケーキを届けることにした。



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