表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
60/82

前みたいに、会ってくれますか

ハルが自宅に帰ってきた。


帰りのコンビニで買った缶ビールを冷蔵庫に入れ、そのまま浴室へと向かう。


サエが言いかけたことも気になるが、あのタイミングでのタカからの電話も気になって仕方がなかった。


サエから語られた兄とタカの話。


聞いていて嬉しい反面、ますますタカへの想いが強くなってしまっていた。


シャワーのお湯に打たれながらそんなことを考えながらお湯を止め、おもむろに水の蛇口をひねる。


水の冷たさが頭から全身に伝わり、気持ちもすーっと落ち着いた。


両手を壁にぴたりとつけ、しばらくの間、ただただ冷たさを感じた。






冷蔵庫からビールを取り出し、ごくごくと飲み続けると、いつもより早く頭がぼんやりとしてきた。


ふーっと一息ついてソファに深く座り、またタカのことを考える。


ハルは、タカに抱きしめられて以来、元の自分に戻る、という目的が薄れていることに気づいた。


そもそもタカがハルを支えているのも、兄の遺言のようなもので、ハルが元の自分に戻るのを支えることが、タカの役目でもある。


タカがハルに近い距離にいるのも、優しいのも、兄・キヨヒロの想いを汲んでのこと。


タカへの感情と不安な気持ちがハルの頭の中を埋め尽くし、ますます気が滅入ってくる。



「何やってんだろ俺、どうしよう」



ぽつりとそう呟き、ハルはそのままソファで寝てしまった。





翌朝。


「痛っ……」


首の痛みで目が覚めた。ソファの手すりに頭が当たっており、首がおかしな角度になっていたようだった。


「いってー……」


首を手でさすりながらコーヒーを淹れる。


スマホを見てみるが、タカから連絡はきていなかった。


何も考えず、そのままタカに電話をかけた。


「はい」


「あ、ハルです。いま……大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫です」


「おはようございます」


「おはようございます」


「タカさん、あの、僕いまさっき起きて。それで電話してます」


「え?あっ、そうなんですか。あはは。寝起きにわざわざ。どうしました?」


起きてすぐに聞くタカの声に、ハルはおもわず口元が緩んだ。


「すみません。おかしいですよね。お話ししたくなって」


「何かありました?」


「すみません……ってことを言いたくて」


「えっ、なんで急に謝るんですか」


「いや、僕、暴走してたかもしれません……って思って。勝手に……サエさんと連絡先を交換したりして」


「いやいや、それは謝ることじゃないですよ。僕に許可もいりませんよ」


「そう……ですか」


「気にしないでください。きっとサエちゃんに聞きたいことあったんでしょう?」


「え、あ、まあ……そうなんですけど」


「それで今日はどうしたんですか?起きて早々に。また何か体に異変があったとか?あれから耳の調子はどうですか」


「それは大丈夫です。実はあれから、僕の中でもあまり進展はなくて。……というか、何もしてなくて」


「そうですか。ハルさんの体に問題がなくてよかったです」


「あ、はい。あの、それとタカさん。この前サエさんと2人でお会いしました」


「ああ、知ってます。僕がサエちゃんに電話したときですよね」


「はい。すごいタイムリーでびっくりしました。あのときタカさんの話もしてたので」


「えっ。それは……気になりますね、あはは」


「兄との出会いとか、いろいろ話してくださって、その流れで」


「へえ。お兄さんとサエちゃんの馴れ初め話かな。聞いてて新鮮だったでしょ」


「はい、まあ。で、その、サエさんが僕にケーキを作ってくれると言ってくれました」


「あ、そうそう!ハルさんにケーキ作ってあげたらきっと喜ぶと思いますよって、僕勝手に言っちゃいました。あはは」


「あ、ありがとうございます。僕嬉しくて。作ってくださいとお伝えしました」


「ならよかったです。サエちゃんのケーキすごく美味しいですよ」


「それで、3人で食べようって」


「ああ、食べましょう。僕も最近食べてなかったですし」


「あの、タカさん」


「え?はい」




「前みたいに、僕と会ってくれますか」




「えっ、もちろんですよ」


「僕も、いろいろと頑張ります」 


「ハルさん」


「はい」


「そんな萎縮しないで下さい。ごめんね、僕がそうさせちゃったんだよね」


「あ、いや、僕が暴走しただけで」


「いやいや」


「……」


「お互い、少し感情的になりすぎてたのかもしれません」


「……」


「僕も取り乱した感じになってしまい、反省しました。あんなことしてしまって本当すみません。また前みたいに、お手伝いさせてください」


「いや、酷いことを言ったのは僕ですから。タカさんの……タカさんたちの過去を踏み躙る発言をして」


「いえ。大丈夫ですよ。もうあんなことにはなりませんから」


「……」


あんなことにはならない……その言葉が、ハルとタカの距離を遠ざけているかのように、ハルは感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ