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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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俺のことはいいんだよ

料理の注文を終え、サエが話しだす。


「それとね、ハル君の表情が少し……なんとなくだけど、私に聞きたいことありそうだったんだよね」


「そうなの?」


「うん。本当なんとなくなんだけど。なんていうか気持ち的に前のめりというか?」


「そうなんだ」


「ヒロの写真送ってほしいとかかな?タカ君はハル君にヒロの写真見せた?」


「いや、見せてない。このスマホには入ってないって言った」


「あ、そうなんだ……。たまに見てるの?」


「たまに」


「私ね、ヒロの写真はパソコンに全部移したんだ」


「え、あ、そうなんだ」


「なんでタカ君がそんな寂しそうな表情になるの。ヒロの思い出を消すわけじゃないよ。消えないし、消せるものじゃないし。でもタイミングなんだよ。そう思えたことに意味がある気がしてる」


「うん」


「でも写真を移すときに懐かしくなっちゃった。前に3人でお花見したじゃない?あの時の写真を見たの。たくさん撮ってたなーって。タカ君そのときのこと覚えてる?」


「覚えてるよ、満開の桜の時のでしょ」


「そう。桜すっごく綺麗だったよね。ちょうど風が吹いててふわ~って舞っててさ。それで気温もちょうどよくて。最高のお花見日和だった」


「うん。俺もあそこまで綺麗な桜見るの初めてだったし、すごく覚えてる。桜が空みたいだったよね」


「ヒロはこんな満開の桜の下で花見するの初めてって、すごくテンションあがってたよね。本当にちょっとのことで反応するし笑顔になるんだから」


「そうだね」


「うん」


「なんなんだろうね」


「え?」


「あの包容力っていうの?存在自体が、安心するのは。高校の時からそうだった」


「そうなんだ」


「ちょっと美化してるかな、ははは」


「それもあるかも!はは。でも、人の感情にはすぐ気づける人だったよね」


「だから優しいんだろうな。気づけるから」


「うん。ハル君がいたからなのかな。家、大変だったみたいだし。ハル君が悲しまないようにいつも一緒にいたんだろうなって。だから人の感情に気づきやすいのかもね」


「そうだね」


サエが枝豆を取りながら言う。


「大丈夫?」


「え?」


「タカ君、ハル君と会ってからいろいろ思い出してるでしょ?」


「平気だよ。思い出すけど、平気」


「うん……まあ、そうかもしれないけど」


「そうだよ」


「私も何か手伝えることがあれば言ってね」


「ありがとう、サエちゃん。でも大丈夫だよ」


「私ね、タカ君にも幸せになってほしいから」


「え、俺普通に元気だよ」


「うん、そうなんだけど」


「サエちゃん」


「……」


「大丈夫だよ」


「うん」


「それに俺は、まあ、うーん。ヒロとサエちゃんと過ごしてた時に一生分の幸せもらった感じだしね」


「なにそれ。幸せの量は青天井だよタカ君」


「あはは。いやあ、そのストックがあるから俺は平気だよ」


「ストックもいつかは減るじゃない」


「あはは!」


声を出して笑うタカ。


「タカ君はさ、自分の気持ちとか、ヒロに聞いてもらうことってあったの?悲しい時とか、辛い時とか」


「どうだったかな」


「もうー、またいつもの笑」


タカはいつも自分の気持ちをはぐらかすので、またいつものか、とサエは困り顔で笑った。


「あはは。言ってたというか、気づかれてたというか」


「そっか。ねえ恋愛はどうなの?良いなって思う人とか、心の支えになってくれる人はいるの?」


「いないよ。俺はいいんだよ、サエちゃん」


サエはチラッとタカの表情を見た。


「そっか。じゃあタカ君にもとびっきり甘いもの作るね」


満面の笑みで話すサエだが、タカのことが少し心配になっていた。


「うん、作ってよ」


「アップルパイまた作ろうと思って」


「あ、俺それ好き!」


「じゃ決定ね」


「サエちゃんがこうやってニコニコ笑ってるとさ、ヒロもどこかで幸せだろうなって思うよ」


「そうだといいよね。私は何年も落ちてて、心配させてたかもしれないし」


「安心してると思うよ」


「タカ君に言われると、本当にそう聞こえる」


「そう?」


「うん。実はヒロのこと視えてたりして」


「いやいや、視えないよ」


あははっと笑いあう2人。


この場にヒロがいればいいのに、タカはそんなことを思い、サエに気づかれぬよう視ようと試みたが、何も視えなかった。


「ほんと、ここにいてほしいよね」


タカが小さな声で、そう呟いた。


サエは、タカの視える機能のことを知りません。

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