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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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サエさんにお会いしたいです

「ありがとう……ございました」


玄関で靴を履き、少し俯きながらハルが言った。


「ハルさん。わざわざ来てくれたのに、あんな状況になってしまってすみません」


「いえ、それは。僕もすみません。あの……」


ハルがタカの顔を見上げる。


「あの、あ、いえ。……なんでもないです。じゃあ、失礼します」




  



ハルが自宅に到着し、大きなため息をつく。


心の中で何度か兄を呼んでみたが、相変わらず何も感じず、何も視えない。


タカが見せた映像を視ることまではできたが、自分の力だけではまだ何も視えることができなかった。


タカと飲んだ時に聴こえたピアノの音も、CDプレーヤーの音を聴けたのも、タカが隣にいたからだ。


自分は本当に元の自分に戻りつつあるのだろうか?と急に不安感がハルを襲った。


これではまるでタカをただ傷つけているだけじゃないのか、そんなことを思いながらソファに座り、頭を抱え溜め息をつく。


「どうしよう。まだ分からないことが多すぎるよ……。兄ちゃん、まだなんも見せてくんないの?……いや、俺が視えないだけか。見せようとしてくれてるのかな。このまま続けてて、元に戻れるんかな俺」


これ以上タカに頼るのは辞めておくべきだという考えと、またタカに会いたい気持ちが交互にやってきて、ハルの心を虐げる。



「……俺の存在自体、タカさんを傷つけてるのかな?」




その直後、ハルの耳にふとあのピアノの音色が蘇る。そしてタカが見せた女性の姿だけが鮮明に浮かび、すぐに消えていった。


目の奥で視えた気がした。


「えっ……」


ハルはあわててタカに言われた"視点の固定"をしてみる。


「あれ……?これでいいのか?」


天井の照明器具を見つめてみる。


目の奥に意識を集中してみるが、やはり1人だとうまく定まらない。


「違う……これだとただの"見てる"だ。目の奥、目の奥……」


照明器具をただ見ているんじゃ視えない、そう思い再度タカのあの冷たい感覚を思い出し、集中する。


すると、また女性が一瞬映った。


「あっ……」


視点が動いてしまい、スッと女性が消える。


もう一度集中してみると、再度また女性が映った。


「……これ?視えたってこと?でもなんでこの人……」


ハルは、焦ってスマホを手にする。


「これ、サエ……さん……だよね」


いつか会えたらとは思っていたが、すぐにサエに会わなくてはいけないような、そんな気持ちになっていた。


理由は分からなかった。




タカのスマホが鳴る。


ハルからのメールだった。


「サエさんに、会わせてください」


そう書かれていた。






「はい」


「もしもし、サエちゃん」


「タカ君、どうしたの?」


「いま大丈夫?」


「全然大丈夫。何かあったの?もしかしてハル君のことだったりする?」


「ああ、うん。そう。よくわかったね。ハルさんが会いたがってて」


「そうなんだ。うん、私は大丈夫だよ」


「そっか」


「実はね、タカ君にハル君のこと聞いたときから少し、気持ちの準備してたんだよね。いつか会うことになるかもしれないって」


「そうなんだ」


「私ももう大丈夫だし。で……いつ会う?私は来週の土日、その次の土日であれば何時でも行けるよ」


「あ、うん……」


「えっ予定決めるんだよね?」


「うん、そう」


「タカ君?」


「ごめんね、土日ね。それハルさんに伝えとくね。決まったらまたメールする」


「あ、うん……大丈夫?なんか元気ない声してるけど」


「大丈夫、ありがとう。じゃ」




そうして、その翌週の土曜日、ハル、タカ、サエの3人で会うことになった。


なぜハルはサエが視えたのか、ここにもちゃんと意味があります。


※サエは視える人間ではありません。

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