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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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僕に兄を重ねてください

「え……」


「僕は人の思考は読めないけど、ハルさんのその感情……それは勘違いです。親近感ですよ」


「え……?何言っ……」


「同じタイプの人間と会えて、嬉しくなったでしょ?僕もです。でもそれは共通点があったから。人は共通点があればあるほどその人に心を開きやすくなるし。それにヒロの弟だから。兄の友人ってだけで、他人よりも親しみをもつでしょ?」


「……そんなんじゃ」


「何も言わないで聞いて」


「嫌です。違います」


「違くないですよ」


「違います」


「ハルさん」


「タカさんは僕の感情、察してたんですね」


「……」


「そういう目で見ません!って言ったばかりなのに……あはは、恥ずかしいな。バレバレじゃないですか」


「もうこの話は終わりにしましょう」


「嫌です」


「ハルさん」


「子供みたいなこと言ってすみません。でも嫌なんです」


「ハルさん、あの時……海で会ったとき。絶望感でたまらない時期に僕と会ったでしょう?人って弱い時に出会う人間には警戒心が必要なんですよ。弱い心はつけ込まれやすいでしょ」


「いや、いや……さっきからなんでそんな理屈っぽいことばかり言うんですか。そういうことじゃ……確かに最初はかなりびっくりしたし今でも戸惑うことばかりです。兄が死んでること、僕の過去、これまでのこと、どれも濃すぎてうまく頭ん中で処理できないしで、心も混乱するし」


「ハルさん、落ち着いて」


ハルが感情的になり、喋りが早くなる。


「この前のCDだってそうだしまだ耳に違和感が残ってるし、自分のこの先だって不安ないって言ったら嘘になるし」


「……」


「もう、変化が目まぐるしくてタカさんと会ってからジェットコースターに乗ってるみたいだし、いろんな意味で心臓もバクバクだし。でも、でも前の僕とは違うんです」


「……」


「気持ちが前向きになってるし、それはタカさんだって言ってくれてたじゃないですか。いい方向に動いてるんじゃないかなって」


「……」


「それはもしかしたら、絶望感から目を背けるネタができて、それで一時的に前向きになってるだけかもしれない。でもそれだけじゃないですよきっと。僕の……僕のこれまでのクソみたいな人生から少し何かが動き出したみたいだし、それを……」


「……」


「それを……助けてくれた人が、例え兄の遺言だからという理由だとしても、嬉しい気持ちになります。タカさんは僕の言葉一つひとつを尊重してくれて、受け入れてくれる人で……本当の僕を理解してくれて……同じって言ってくれて。それで、それで好意に繋がっちゃうのは、おかしくないです。これは単なる親近感なんかじゃないです。感情って厄介ってさっきタカさんも言ってましたよね?この感情って理屈じゃないです」


「……」


「あ、すみません、これ……自分を正当化してるんですかね。でも勘違いなんかじゃないです。僕たち、理解……し合えるというか……」


「そりゃ同じタイプの人間だから」


「そうですけど……あの、違うんです、タカさんを責めたいわけじゃ……どうして急に壁をつくるんですか。なんでさっきから距離を置くような言葉を並べるんですか」


「いや……」


「僕はこの先もこのまま、タカさんとこういう付き合いを続けていきたいんです。僕を兄と重ねてかまいません」


「……」


「それで……よくないですか」


「よくないですよ。そんな、傷口にただ絆創膏貼るみたいなこと」


「これは、僕の身勝手ですか」


「いやそういうわけじゃ……。ハルさんにお兄さんを重ねて見たとして、じゃあハルさんの気持ちはどうなるんですか。ハルさんの人格は?そんなの今はいいと思ってもあとあと辛くなりますよ。自分を否定されるようなもんじゃないですか」


「だって僕は弟で兄は兄です。キヨヒロの弟です。これは変えられない。タカさんが僕を兄と思って接してくれても、それでも僕は嬉しいです。一緒にいてくれるなら」


「いやいやいや、そんなわけないでしょ。辛い気持ちのハルさんと接してまともでいられるほど僕は異常じゃないですよ。ハルさんがそれでよくても。そんなのお兄さんも望むはずないでしょう」


「……」


「自分は傷ついてもいいと、思っているんですか?」


「いや……」


「自分は幸せになる資格がないとか、そんな思考が働いてませんか」


「そんな自覚は、ないん……ですけど。一緒にいたいんです」


「お兄さんは、ハルさんを苦しい人生から救いたかったし辛くなって絶望の淵にいたじゃないですか。あんなに黒くなってて。いまハルさんが僕に言ったこと、それは自分は苦しんでもいいって言ってるようなもんですよ」


タカは、以前に視えたハルの姿を思い出していた。


「……そんな、僕はタカさんとの関係がなくなるほうが苦しいです。辛いです」


「ハルさん、じゃあ僕がヒロって呼んでもいいの?」


「いいです」


「……」


タカの表情が固まる。


「いいです……」


「いや、いや、だめだよハルさん、そんなこと言っちゃだめです。これじゃあまるでハルさんを傷つけてるようなもんだよ……あんな失態をした僕がいけなかった」


「それでも僕は嬉しかったです。だって、タカさんの素が少し見えた気がするから」


「いまこんな話になっているのに?」


「はい」


「……もう話題変えましょう。僕もハルさんにこんなこと言いたくないです。ヒロの弟を責めるような発言なんて言いたくないよ」



「こんな感情になってからじゃもう手遅れです」


「いや、頼れるお兄さんの友達でいさせてください」


「……」


「じゃあこの話は終わ……」



「待ってくださいタカさん。僕に……僕に何度も触れるのは兄を思い出すから、じゃないんですか。既に重ねていたんじゃないんですか」


「……」


「友達の弟に、あんな目をしながら触れたのはなんでですか。どうして僕を抱きしめたんですか」


「……」


「タカさんは僕に……触れたかった……んじゃないんですか」


「……え?」


「兄にしたかったように」


「……は?」


「だって……」


「……」


「だって、タカさんだって兄に……」

「ハルさん、それ以上はだめです」




タカの声色が変わった。



読んでいただき本当にありがとうございます。


複雑な感情のせいでタカとハルの間には溝のようなものができてしまいましたが、彼らの関係性は一歩進みました。まだもめますが。

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