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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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兄こと、愛してたんですね

2人はまた、会う約束をした。



「今度は僕がうかがいます。家の住所教えてください」



その翌日、ハルがタカのマンションの最寄駅へ到着した。


言われた住所の場所に行くと、すでにタカがエントランスで待っていた。



「ハルさん」


「タカさん、お疲れ様です」


「どうも、こっちです」


「メール、ありがとうございます」


「いえ、しばらく返事してなくてすみません」


「いえ」


元気そうなタカの顔を見て、ハルは少し安心した。


エレベーターに乗っている間、心臓の鼓動が早くなっていくハル。


部屋の前に着き、タカがどうぞ、と言いながら玄関のドアを開ける。


「おじゃまします!」


室内に入ると、以前にタカが言っていたように物が極端に少なかった。


「え、タカさん本当にここ住んでるんですか」


「あはは。でしょう?そう思いますよね。住んでますよ。ベッドも冷蔵庫もあるでしょ?ほら」


タカが寝室をチラッと見せた。


「ああ、まあ……」


「コーヒー用意しておきました。どうぞ座って下さい」


ハルがソファに腰掛ける。


「あ、ありがとうございます」


タカがカップにコーヒーカップをテーブルに置いた。


「苦いでしょ?」


「はい、美味しいです」


「わざわざ来てもらっちゃって、すみません」


「いえ!全然。来てみたいなと思ってたので」


タカがコーヒーを一口飲み、話し始める。


「お話ししたいことは、僕とお兄さんのことなんですけど」


「あ、はい。そうですよね」


「あんな失態見られて、このまま黙っておくのもハルさんに笑い気がして。黙っているつもりだったんですけど、無理でした。人間の感情ってほんと厄介ですね」



「タカさん」


「はい」



「兄のことを、好きだったんですね。男として、そういう意味で」


そして続けて言う。



「愛……してたんですね、兄のこと」



ふふっと悲しそうな表情で笑いながら、タカが答える。


「はい。とても」


ハルが視線をコーヒーに戻す。


「そうだったんですね」


「はい」


「つまり、タカさんは……」


「はい。僕も恋愛対象は男です」


「そう……だったんですね」


「はい」


「でも兄は、サエさんが……」


「うん。そうですね。お兄さんの恋人はサエちゃんです」


「……」


「そんな悲しい表情しないでください。僕のことはいいんですよ。それより、黙っててすみません」



「あ、それは全然。あの、サエさんは知ってるんですか?タカさんの気持ち」


「いや、知らないです。知ってたら3人仲良くなんて出来ないよ。サエちゃんなら尚更。あの子は人の気持ちがわかる子だから」


「そう……なんですね……。え、兄は……?」


「知らない、と思うな。いや、わかりません。どうだろう」


少しの沈黙が続いた。


「知らないでいてほしいですけどね」


「……」


「もし知ってて僕とつるんでたなら、もしそうだとしたら……それはヒロを苦しめてるのと同じだから、知らないでいてほしいですよ」


「……」


「ハルさん、僕はヒロを心の底から大切に思っていました。それはサエちゃんに対しても同じです。僕の状態って、なんていうかな、側から見たら叶わない恋って受け取られそうですけど、案外平気なもんですよ」


「……そうなんですか?」


「サエちゃんを見るお兄さんの表情ってね、すごく柔らかくて、本当に優しい目をするんです」


「……」


「好きな人が幸せそうな表情するのって、見てて嬉しいもんですよ」


「……」


「でね、ハルさん。僕がこうやってハルさんを手伝っているのは、それはハルさんが望んだからってだけじゃなくて、お兄さんのハルさんへの気持ちを僕は大切に思っているからなんです」


「はい」


「お兄さんはハルさんに全てを知らせるって言ってたけど、それはハルさんが自分を否定することなく幸せに生きていってほしいから、だからそう言ったんだと思います」


「僕が元に戻りたいと思うのも、兄の願いと一緒ということですかね」


「はい、そう思います。戻りたいってハルさんなら思う、そう予見してたんじゃないかな。あくまで想像ですけど。知る権利があるって何度も言ってたし。だから僕も協力したいと思った。それにこんなサポート僕以外にできないと思いますし。あはは、自意識過剰かな」


「あ、いえ。僕が言うのもおかしいですが、適任……と思います。合うなって思うし」


「ですよね。僕がハルさんと同じタイプで似ているから、もってこいの役でしょ」


「それに、同じ……」


「ゲイだし」


「はい」


「うん」


「いろんな場面で理解し合えるし、尊重し合えるし」


「コーヒーも、苦いの好きですし、タカさん」


「はい。粉だってアイスコーヒー用もよく買います。ミルクに合うようなコーヒーは苦く出るから」


ふふっとタカが笑いながら答えた。


「あの、タカさん。タカさんは辛くないのかなって……その、……僕といると辛いですよね」


「うん。思ったより辛かった。けど何もしないのはもっと辛い。好きな人に何かを託されて何もしないなんて、僕の選択肢にありません」


「……」




「だから、最後まで手伝います」


「え……最後まで?」


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