タカの仕事
「じゃあ、そろそろお開きとしますか」
「はい」
時刻は22時をまわっていた。
お店を出て、駅へと向かう。
ハルは歩きながら、10分ほど歩けば駅に着いてしまう、と思い少し寂しく感じていた。
「あの、タカさん。僕少しビビってしまいましたけど今日も楽しかったです」
「僕もです。誘ってくれて嬉しかったですよ。ありがとうございました。お店も良い雰囲気でした。さすが元営業マン」
「よかったです。はは」
「酔いの方は大丈夫ですか?コンビニで水でも買って行きます?」
「いえ、大丈夫です。タカさんは……って、大丈夫そうですね。顔も変わらないし」
「あはは。僕も多少は酔ってますけど、はい。大丈夫です」
「ですよね。あの、タカさんってあまり自分のこと質問されるの嫌ですか?苦手です?」
「え?」
「質問というか素朴な疑問というか。世間話程度で全然深い意味じゃないんですよ!ほら、人には聞かれたくないことって誰にでもあるし」
「僕の何か、気になることありますか?」
「ありますよ!た、例えば、仕事……どんなことしてるのかな、とか」
「ああ、飲食店を少ししています」
「え!もしかして、バーとかですか?」
「おお、当たりです。バーだけじゃなくて、レストランも手伝ったりしますけど」
「手伝う?」
「はい。知り合いが飲食店をいくつかやってて、人手が足りなくなった時に働かせてもらってます。かなり不定期ですけどね」
「へえ。そういえば融通がきくって言ってましたもんね。そういうことだったんですね」
「はい。だからあの海に行ったときも、まとまった休みが取れてたんです」
タカは、定職に就いていない。
知り合いの飲食店に、手伝いに行く程度の仕事しかしていなかった。
ハルの兄が亡くなって以降、研修を受けていた会社もほどなくして退職していた。
生活に必要なお金さえあれば問題ない、そうタカは考え、この働き方をずっと続けていた。
「バーかあ。かっこいいですね、タカさんに合ってます。僕は……いま仕事してないんです」
「うん。なんとなくそんな気がしてました」
「視えてたんでしたっけ。僕の心情なども察してましたもんねタカさん」
「お兄さんが、ハルさんを見せてくれたから。あの様子だと働ける感じじゃない、と僕は理解しました」
「実はちょっと前から引きこもってて。僕が家でだらけてる姿をタカさんに視られてたら嫌だな……はは」
「だから、そういうのは視えませんって笑」
タカの反応に、あははっと笑うハル。
「それにお兄さんが僕に見せた映像は、あれだけだから」
「男性が……僕が視えたってやつですか」
「はい。くっきり視えたわけじゃないけど、ヒロが見せたきたってことはハルさんの可能性が高いし、直感と僕の理解でそう思ったってことです」
「僕たちがこうして会ってから、兄はどう思ってるんでしょうか」
「どうでしょうね……それは僕にはわかりません」
「……」
2人は駅に到着した。




