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兄が届けてくれたのは  作者: くすのき伶
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タカとサエの再会1

タカとサエが電話をしてから2週間が経ったときのこと。


タカのスマホに、サエからメールが届いた。


久しぶりにお茶しない?メールにはそう書かれていた。


その1週間後、2人はカフェで再会した。






「私から誘ったのに、うちの近くまで来てもらっちゃってごめん」


「いや全然」


「会うの何ヶ月ぶりかな」


「1年は……経ってないよね?」


「うん」


「元気そうでよかった」


「うん」


「お菓子、作ってる?」


「うん、たまにだけど作ってるよ。ねぇ、なんでいつもそれ聞くの?」


クスクスっと笑うサエ。


「なんとなく。サエちゃんにはなんかずっと作っててほしいんだよね」


「昔は毎週ってくらいケーキとかお菓子作ってたけど、今は作っても食べてくれる人がいないし、ほんとたまにだけど」


「……」


「あ、ごめん。しんみりすること言っちゃった」


「あ、いや。俺らが会うとそういう話になるのは仕方ないよ」


「うん」


「今日は、ハルさんのことだよね」


「あ、うん。ヒロの弟さんのこと。電話でも聞いたけど、ハルセ君とのこともっと詳しく聞きたいなって」


「この前サエちゃんに電話した後ちょっと考えてさ。俺は話したほうがいいと思って話したんだけど、やっぱりつらかった?話したほうがいいって思うこと自体、俺の自己中だったかもと思って」


「大丈夫。ヒロの彼女だから話すべきだって思ってくれたんでしょ?そこに対して自己中だなんて思うわけないよ。それに今日誘ったのは私だし。もっとハルセ君のこと知りたいなって今は思ってるんだよ」


「……わかった」


「勝手にハル君って呼んでいいかな、私」

ふふっと笑うサエ。


「うん、いいと思うよ」


タカは、改めてハルと初めて会った時のことを詳しくサエに話した。


サエは、コーヒーカップを両手で掴んだまま俯き加減に相槌をうち続けた。


ときより笑顔を見せながら聞くので、タカは安心して話し続けた。





「そうだったんだね……」


「うん。電話では言ってなかったけど、その後にね、ハルさんを車に乗せて帰ってきたんだよね」


「ええ!なにその展開。急すぎるんだけど」


サエが顔を上げ、驚いた表情で笑う。


そんなサエにつられて、タカも笑う。


「そうだよね。ハルさんもびっくりしてた。けど乗ってくれたよ。内心俺の運転にドキドキしてたと思うけど」


「ほんとすごいよその展開。なんでそうなるの」


「なんか、乗せて帰りたくなったんだよ」


どういうこと、と言ってまたサエが笑う。


そんなサエを見て、タカもまた笑う。


「いや、なんていうか。タカ君のそういうとこ全然変わらないね。面白いなほんと」


「そうかな、あはは。サエちゃんはさ、だんだんとだけど笑顔戻ってきてるよね」


「うん、そうだよ。だってもう8年だよ。笑いで免疫力アップだよ」


「なにそれ」


タカが吹き出して笑う。


「ヒロがいなくなってさ、私いろんなこと知ったんだよね。この話はタカ君にしてなかったよね」


「何、どんなこと?」


「いなくなってから大切さにより一層気づいたとか、そういう話じゃなくて。悲しいって気持ちが、どんなものか身を持って経験しちゃった。キツイね」


「どんなだった?」


「うん。悲しい感情ってさ、本当に時間差でやってくるんだなーって。しかも何回も。乗り越えた!と思ったら乗り越えたくない自分もいてね。厄介だった。……ちょっと変な例えを言っていい?」


「うん、話したいように話してみて」


「なんかね。私の中にはいつも "悲しい" って書かれたドアがあってね。そのドアって普段は閉まってるんだけど、ちょっとしたタイミングで開くんだよね。それで開いてるな~って気づいたらさ、やめれば良いのに、あえてそのドアを開ける自分がいたんだよね」



「うん」



「悲しいドアなんだから開けたら当然辛いんだよ。でもね、そのドアの先にはヒロとの思い出があって。悲しい感情の中にヒロを感じるんだよね。それを求めているから自分で開けちゃうんだよね」


サエは悲しい表情でふふっと笑った。


「うん。わかるよ、言いたいこと」


「そういうのを何度も経験してさ。悲しい感情って、大変。だって、乗り越えなきゃって思う自分と、あえて浸りたい自分がいるんだもん。絶対に開けられない鍵みたいなのが欲しかったよ。……って、表現下手でごめん。わかりにくいよね」


「ううん、大丈夫。続けて」


「ありがと。悲しいドアに鍵をかけたかったんだけどね、でもそれは逆に辛くなる気がしたんだよね。ドアの先にはヒロがいるんだもん。鍵かけたらヒロを消しちゃうような気がして」


「うん」


「だからね、無理に鍵かけないで、逆にいろんなドアを増やしちゃえ!って思ったんだよね。単純な考えなんだけど」


「へえ、例えばどんな?」


「いろいろだよ」


ニコっと笑うサエ。


「楽しい、違う悲しい、嬉しい、腹立たしい、楽しい。あ、楽しい2回言ったね」


「あははっ。言った。でも楽しいドアはいっぱいあってもいいね」


「うん。いろんな感情を大切にするようにしてる。たまにヒロのこと思い出すけど、私の人生はそこだけじゃないって思えるようになってきて」


「……そっか」


タカの表情が一瞬曇った。


「それにね、前回タカ君に会ってから、私もっと外に出るようになったんだよ」


「そうなんだ。人にも会ってる?」


「会ってるよ。すごく会ってる」


「そっか。サエちゃん、だんだん笑顔増えてきてるから、会うたびに俺も安心するよ」


「あははっ、なんかごめんね。タカ君だって辛かったのにね。なんだか親みたいに気にかけてくれてさ」


「いや、俺は悲しいとかそういうの、慣れてるから」

ニコっと笑うタカ。


「そっか」


「ヒロも安心してるんじゃないかな」


「そうかな。そうだと嬉しい。ヒロがいなくなってから私ヤバすぎたもんね」


「全員だよ」


「……」


「あのときは、俺もサエちゃんも、ヒロのお父さんも、みんなボロボロでひどかったから」


「うん。私タカ君にも申し訳ないことし……」

「いいんだよ、気にしないで。サエちゃんの気持ち分かるから」


タカが言葉を遮った。


「あ……うん」


「もう俺に謝らなくていいから。人は簡単に壊れるんだからさ」


「……あ、うん。ありがとう」 



少しの沈黙が続いた。


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