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暴走 8




 若干酔いが回って、こちらも思考が極端になっている感は否めなかったが、フィーネの理論で行くなら、誰にもとがめられないであろうことなので問題がないと思う。


 アルノーが隣に来るとフィーネは立ち上がろうとして、椅子を少し引いた。


 しかしそれをアルノーは制止して、肩を押さえた。


「……抱いてくれる気になりましたか?」

「……」


 そんなことを言うフィーネに、アルノーは本当はそうしてしまいたい気持ちが山々だったけれども、それをこらえて「だから、そんなつもりはない」と言いつつ、フィーネの顎を掬って唇を重ねた。


「っ」


 小さくフィーネの肩が跳ねる。そんなことは気にせずにアルノーは、彼女の唇を熱い舌で舐めて、硬く硬直している唇を舌で割って、手をフィーネの後頭部に回して、ぐっと深く口づける。


「、ン、む……んっ」


 息を止めて、ひたすらに、硬直するフィーネの歯並びをゆっくり舌でなぞって、引っ込んでいった舌を見つけてちゅうっと吸い上げた。それから、軽く噛んでびくっとフィーネの体が跳ねるのを初心だな、と思いながら後頭部をさすってやる。


 これでも優しくしてあげているのに、フィーネは、プルプルと震えていて、途中で息をするのも方法がわからないのか「っ……っっ!」と顔を赤くしながら耐えていた。


 どこまで堪えるんだろう、と気になって長ったらしく女々しいキスをしてしまったが、離してやると彼女は、顔を赤くしたまま、肩で息をして、うつむく。


 両方の手を膝の上に置いて、拳を握っているところを見ると、どうやら必死に抵抗しないように耐えていたことがうかがえる。


 心を読んでみると、なんだかいろんな感情が渦巻いているようで、しかし、それらは頭に酸素が回っていないせいで形を成していない。言葉にならない感情の濁流でしかなかった。


「っ~、……、……」


 処理できない感情にフィーネが、ふるふると頭を振って、なんとか頭の中を整理しようとしていいるのを見てアルノーは、彼女の膝の上に置かれた拳を大きな手のひらで包み込んで、こつ、とフィーネの額と自分の額をくっつけた。


「抱きはしないが、キスぐらいならできる。なあ、大口を叩いたんだ、君の感情がどうであれ、そんなものは重要じゃあないというのなら、誘ってみてくれ。もちろん、行動を伴わせて、な?」


 暗に、キスの一つでもして見せろといったのだ。


 やり方がわからないなんて言わせない、今やって見せたところなのだから、そんな言い訳は通用しない。


 うつむいたままフィーネは動かずに、しかし、ぎゅっと拳をさらに強く握った。それをアルノーは手のひらの中で感じて、どうでるかと、思いながらフィーネを見た。


 しかし、彼女はやっぱり赤くなったまま動かないだけで、なんだか自分が彼女をいじめをしているような心地になってきた。


 ゆっくりと驚かせないようにフィーネの手を離してやり、体を離す、すると途端にフィーネはばっと顔を上げて、アルノーの事を見上げた。


「で、できるっ」


 そういって、アルノーに手を伸ばしてくる。その手はアルノーの手をきちんと掴んだがが震えていた。


「できるっから」

「……」


 できる、そう言うのにやらない。それはつまりできないという事なのだが、あまりせかしても可哀想だと思ったので、アルノーは待ってやることにした。


 たっぷり数十秒沈黙したフィーネは、立ち上がってアルノーを見上げる。夕日色の瞳は微かに濡れていて、光を孕んでいた。


「本当に、できるのよ」


 すがるような瞳に強がった声、今にも泣きだしてしまいそうな表情は、先程までのように完璧じゃない。弱弱しくて、感情のある少女らしい表情だった。


 赤く染まった頬をアルノーは、フィーネの事が愛おしくてたまらなくなりながら、撫でてやった。


 心を読むと、彼女はやっぱりとても焦っていて、『できるできるできる、やれやれ、早くやれ』と、自分を追い詰めていた。それから『じゃないと、失望されてしまうかもしれない』と、心底怯える。


「失望もしないし、見捨てもしない。俺は君がいてくれるだけで満たされるというのに、どうにも君に伝わらないな」

「……っ」


 そのアルノーの優しい言葉にも明るい感情は返ってこない。ただただ、焦りを助長させるだけで、彼女が今どうしようもないほどの状態にいることをありありと感じてしまった。





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