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新しい居場所 7





 晩餐会が終わった後には、自らの別館に戻るためにヴィリーとフィーネは、夫婦の時間を過ごす両親にお別れの挨拶をして、別館へと移動するための外廊下をともに歩いた。


 フィーネの後ろには、赤毛の姉妹の側仕えが仕えていて、前はエリーゼに仕えているところを見たことがあるなとヴィリーは思った。


「……ヴィリー、急にやって来た私を姉と呼んでくれてありがとう」


 唐突に横を歩いていたフィーネがそう言い、ヴィリーは顔を上げて、人好きする笑顔をフィーネに向けた。


「そんなのなんてこと無い事です。それよりエリーゼお母さまのイライラ爆発を止めてくれたから感謝しています、フィーネ姉さま」


 ニコニコしながらヴィリーは答えて、そんなヴィリーにフィーネは先程までの緊張が抜けて、ふふっと声を出して笑った。


「やっぱりあの時、エリーゼ様少し怒ってらしたのね。これからも気を付けるわ」

「そうなんです、エリーゼお母さまはお仕事の話と自分の分からない話が大っ嫌いでローベルトお父さまとよくケンカしてます」

「あら、そうなの?」

「そうです。お母さまは怒りっぽくて嫌になります」


 とことこと歩く小さなヴィリーにフィーネは歩幅を合わせてちまちま歩いて彼と話をした。外見はアルノーそっくりの黒よりの茶髪で、美しい若葉の瞳を持っていて少年らしくとてもまっすぐな眼差しをしていてかわいい。


「なるほどね。でもきっと減らしていけるわ。仕事と分からない話が嫌いといったわよね。それには理由があると思うのよ。女性には女性の仕事があるけれどその仕事の事を多くの場合、仕事とは捉えられずに、生きるための行為を当たり前にしているだけだと男の人には言われがちだわ。それにそういった部分の話をしようとすると男性は仕事でもないのになんて口にすることが多いの、私の継母もきっとそういう葛藤があって怒りっぽかったのだと私は思っているわ」

「……へ?」

「だから、領主の仕事を知らないエリーゼ様にもわかるように、会話には入れるように混ぜつつ、エリーゼ様にはエリーゼ様にしかやることができない事を尊重して知ろうとしていく姿勢が必要ね」


 気が抜けてペラペラと話し出したフィーネにヴィリーは話の意味を半分ぐらいしか理解できずにいた。キョトンとするヴィリーをみて、フィーネは喋りすぎたと気が付いて、頭の中で簡単に要約した。


「エリーゼ様も混ざれる話をできるように心がけるわ」


 と言い直してごまかすようににっこり笑った。言われてヴィリーは何だそういう事かと納得して「はいっ、僕も手伝います」と良い返事をしてやっぱりフィーネはよいお嫁さんなのだと思った。


「それにしても、安心しました。フィーネ姉さまは良いお嫁さんなんだ。やっぱり僕、フィーネ姉さまが僕の事をヒノメヲミナイようにしようとしてるなんて思えないから、仲良くします」

「日の目を見ないように……って誰から聞いたの?」


 若干片言で言ったヴィリーの言葉をフィーネは聞き過ごさずにヴィリーに問いかけた。「僕の心配をしてくれた、側仕えのディーターです」と答えて、フィーネの後ろにいる彼女の側仕えが若干動揺し、それを見てヴィリーは、そう言えばディーターに大人に彼との二人きりの会話を話してはダメだと言われていたのだと思い出しぱっと口を覆った。


「……そう、そんな心配をしてくれる人がいるのね」

「な、ナイショにしてもらえますか?言ってはダメだと言われているのを忘れてました」


 フィーネはこれは……と少し苦い気持ちになった。出会ったばかりのヴィリーに嘘はつきたくなかったが、エリーゼ様かローベルト様に言ってそのおせっかいというか自分の思想に染め上げようとする側仕えを遠ざけた方がいいだろう。

 

 少なくともヴィリーは自分の考えを持って判断をできる子のようだし、そう考えて、フィーネは少し考えてから「誰に?」と聞いた。


「他の人に!」

「他の人とは?」

「お父さまやお母さまとか兄さまとか」

「どうして言ってはいけないの?」

「……ディーターと約束してるから」


 フィーネにそんな風に質問されるとは思っていなかったヴィリーは少しだけ困ったように言い淀んで、それから約束なのだと口にした。フィーネは困った子を見るように微笑んでヴィリーの頭を撫でた。


「ヴィリーは約束を守るいい子なのね」

「!……そうです。だから」

「でもその約束、守る必要のある約束なの?」

「え?」

「ディーターは貴方に他の人に話してはダメと縛っているわ。じゃあヴィリーはその代わりに何をかを得ているの?」


 急に言われて、ヴィリーは他の人に言ってはダメな理由で、ヴィリーが彼といることで得をしていること、と聞いて、ぱっとお菓子とサボりが思い浮かんだ。


 でもそれを言うのは恥ずかしくって子供っぽいと思われてしまうかもと思った。


「ナイショで教えて?」


 そう言いながら屈んで口元に耳を寄せてくるフィーネに、それならフィーネ以外に聞こえないかと思ってヴィリーはこそっと「お菓子と、遊ぶ時間をくれてる」と答えた。


 それから、フィーネはやっぱり少し考えてから微笑んだ。


「じゃあ、私がそれを貴方にあげるから、話をしてもいい?」


 そう言って、いたずらっぽく笑った。そう言われてヴィリーは考えてみた。もし、ローベルトやエリーゼにお菓子と遊ぶ時間がバレた時、与えられていた相手がフィーネであった方がきっと怒られる可能性が低い。


 子供の頭でも簡単にそんな打算が浮かんで、コクコク頷いた。


 そんなヴィリーの事を素直でいい子だと思いつつ、フィーネは彼の頭を撫でた。これで、ヴィリーの不信感を買わずにその怪しい側仕えを彼の元から遠ざけることができる。


 息抜きの時間は教育を担当しているエリーゼに今の話を伝える時にでも、ヴィリーが秘密にサボっていると思えるような形で取れるようにさせてもらえば問題ないはずだ。


 そんな算段を知らずに、ヴィリーはいい姉さまだと思いながら笑うのだった。





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